虎に翼、鬼に金棒、弁慶に薙刀
今週の朝ドラ、「虎に翼」の第5回、皆さん見ましたか?私は朝の慌ただしい支度の中、あちこち動き回りながら見ようとしていたのですが、これがもう心を捉えられてしまって、気付けばしっかり見ていました。で、大号泣しました。
法律を学べる女子部に行きたいという主人公寅子に対して、母はるは結婚して大人しくしているのが女の幸せだと説き、説得は失敗。裁判官の桂馬に相談するも、母親程度も説得できない女に法律家になるのは無理だと言われているところに、はるが出てきて娘を侮辱した桂馬を一喝、女子部への入学を認める……というのが今回のストーリーです。正直、この朝ドラの内容ならどこかで母を説得する展開が出てくるだろうと思っていました。思っていたのに、心が揺さぶられてしまってダメでした。
序盤で、寅子が「いつもすんとしているお母さんみたいにはなれない」と言って、はるが悲しむシーンがあるんです。私、寅子と同じことを母に言ったことがあります。もう少し言い方が悪くて、「お母さんみたいな人生を生きたくない」と言いました。小学校3年生の時です。
母のことが嫌いだったわけじゃありません。尊敬していますし、大好きです。ただ、だからこそ、私を産むために好きな仕事を辞めて、ろくでもない夫とかわいくない子どもたちのために毎日家事とパートに追われて、休む暇もなく疲れ切っている母を見て、もっと母に違う人生があればと思っていました。私ならこんな夫と子どもたちは捨ててしまうし、いっそ母にも私たちを捨てて自由に生きて欲しいと思ってすらいました。
だから、いつも通り父の理不尽な小言に従っている母を見て、何かの折に、そう言ってしまったのです。母が悲しそうな顔をしていたのをよく覚えています。そういう意味じゃないと伝えたかったのですが、まだ小学生の私は全然上手に言葉にできませんでした。
ただ、いつしか夫に従わないといけない女性になるくらいなら結婚しないぞ!いう決意を固めた私は、その後も事あるごとに結婚はしない!と言って母を困らせていました。親戚が小学生相手の戯れに、将来はどんな人と結婚するのかな~とか好きな人はいないの~とか、ある意味今以上に聞かれていたのにそう言うものだから、母は頭を抱えたと思います。
女の子だけじゃ危ないからとか、生活ができないからとか(今ならそんなことない気もしますが、なんせ20年近く前のことなので)、とにかく1人で生きるなんて言うのはやめなさいと言われては、余計に反発したものでした。
それでも言い続ける私の頑固さを見て、ある時心を決めたらしく、
「女の子が1人で生きていくのは大変なことなのよ。頑張って働いても出世はできないし給料はたかが知れてるのに、それでもいいの?」
と聞いてきました。それでいいと答えると、
「高卒の女子が稼げる額じゃ生活できないから、とにかく勉強して大学を出なさい。一生働けるだけの知識を身につけなさい」
と、私に勉強を教えてくれました。後で聞いたところでは、自分より不出来な男兄弟たちは何浪もして大学に入ったのに、母は女だからという理由で行かせてもらえなかったのが悔しかったそうです。私が女でもこれをやってみたいとかあれをやってみたいとか何とかいうのを見て、その悔しさを思い出したのかもしれません。
この回のストーリーはかつての自分たちと重なって見えました。寅子の気持ちは痛いほど分かります。でもはるの言い分も分かる歳になりました。結局、頑張ってと背中を押してくれたところでいろいろな思いが溢れて、本当に朝遅刻するところでした。目も腫れたので、仕事中パソコンの文字の見にくいこと…。
もちろん寅子ほど優秀ではないので、私のような凡人でも望めば勉強や就職の機会がある現代に感謝する一方で、今も昔も同じ言葉をかける母達を見て、この時代から何が変わったんだろうかと歯がゆいところもあります。
正直、最初は、この朝ドラを見るのはあまり気乗りしなかったんです。だって、女性として初めて弁護士になった人の物語なんて、絶対に女性だからというレッテルを貼られ、嫌なことを言われまくる。結婚していろんなことを我慢してすんとしているのも嫌だけど、こうして外に出ればそれ以上に目立ってもっと嫌な思いをするかもしれない……。
現実もそうなのに物語でまでそんなの見たくありません。「虎に翼」というタイトルも、なぜ?と思っていました。この時代の虎は男性で、どちらかというと猫のような女性が、法律という翼を得てなんとか対等に生きようとするのではないの?って。だけど、それこそ穿った見方かもしれないですね。どんなに嫌な思いをしてもめげずに頑張った女性たちは心が強い虎です。彼女たちがいたから多少はマシな世界になっているのですよね。
寅子はこれから女子部での学友ができ、理解してくれる人も増えて、諦めずに努力して夢に邁進するのでしょう。したたかにすんとしている女性たちもすごいけれど、厳しい道でも自分の道を生きていく寅子はとても眩しいです。直視できないくらいに。なんだか自分の暗い気持ちが浄化されました。
無責任な台詞かもしれないですけど、がんばれと応援しながら見たいと思います。