猫を探して
ひとつ。外に出る理由が見つからない。太陽に当たっても、草花に挨拶をしても、新鮮な空気を吸っても何かが足りない。
春の訪れを感じる。
ドアの外側、無意識に足元を気にして開いた先。茶色の影が見えて、「来た、」と心が動いた。なにも来ていない。
庭に揺れているオブジェに、帰ってきたかのような錯覚に陥った。
外に干して温かくなったぬいぐるみ、取り込もうとして面影を感じた。
夕飯の焼き魚。皮を残してしまったけれど、食べたいとせがむ姿はどこにもない。
夜中に大声で鳴く雄猫を聞いた。生前の関係なんて分からないけれど、きっと君の探している影はもういないんだよと、そっと心の中で馳せた。
夏はすぐそこ。今か今かと庭の草花たちが華やいでいる。