お茶あれこれ248 2017.1027~1113
1. サフラン
南天、クロガネモチ、万両の実たちが赤くなってきている。クロガネモチは1本だが、南天と万両は鳥が増やしていったのだろう、あちこちに勝手にある。所によって色が違う、やはり日向きか。赤くはないが、ヤブランの実も今はグリーンと黒っぽい色とがある。陽射しを受け易いところから紅葉していくのだろうか、二階から見下ろすとモミジも満天星も、庭に立って見た時と赤さが違う。上から見える面は、かなり紅葉が進んでいる。散り残った桜の葉が、最も赤い。ブルーベリーと小葉の随菜は、臙脂から緋赤、朱と、鮮やかな彩を見せる。
和菓子屋で新製品という菓子を求めた。中の餡をカボス風味にした薄グリーン、薄い黄色のがわはサフランで色付けしたという。サフランは、ちょうど今頃藤色の花が咲く。10月の半ばから11月初めまで、毎日毎日手で花を摘んでいく。10箱以上の花のコンテナを脇に置いて、家族みんなでこたつに入ってめしべを取って黒い盆に入れていく。1寸ほどの赤い糸くずのようなサフランを、手荒には扱えない。花の量に比べて、めしべの微々たる有様に、ため息が出る。翌朝、道沿いの田圃に、サフランの花が捨てられる。今はずいぶん減ったが、サフラン農家は吉田~岩本~鴫田と続く道に並んでいた。その道に沿って、捨てられたサフランの藤色が続くのである。若い頃、サフランの値段が下がって悩んでいた農家と相談し、花の利用を活動の一つにした。30年前、大分県の工業試験場からは、成分分析に15万円と言われた。地域活動に理解と協力をしてくれたのは、神奈川県工業試験場だった。無料で分厚い試験結果を送ってくれた。農家が摘んだ花を、毎日2週間シイタケ農家が乾燥庫で乾燥花弁にしてくれた、笑いながら無償で。乾燥すると藤色の花は、濃い紫の蕾の状態になった。染織工房や大学染色科に染料としての売り込み、ハーブティーやクッキーへ利用、駅や空港や旅行社へ「サフラン大使」として、籠に入れたサフランの球根を置いてもらったりした。澄んだブルーのサフランティーは、カボスを垂らすとグリーンに変わる。サフランの花供養と呼ばれた一連の事業は、いつの間にか消えたようである。
季節と地域に基づいた素材や技を大切にすることは、茶の湯の一つでもあると言ってきた。9日の茶事で、面白い煮物椀をいただいた。煮物椀と言えば、懐石の一番のご馳走で、今時で言えばカキ真蒸など、魚や貝のすり身を使い、湯葉や季節のものをあしらうと頭の中にある。寒くなると特に大振りの椀が楽しみになる。蓋を開けて、ちょっと驚いた。二つ切りのイチジクに栗、シメジにモミジ麩に葛のとろみがかかって、たっぷりの汁からは熱々の湯気。意表を突かれた感じである。柚子の黄色も鮮やかな、秋の味覚を存分に楽しめる椀であった。もうイチジクは名残りかもしれぬが、大好物である。時雨の季節に合う、かせた感じの備前の水指に丹波の茶入もよかったが、こんな煮物椀もいいなあ、とつくづく思った。