精神障害者の就活生存備忘録
就職活動を終え、仕事も安定してきた。
今の職場にはかなり満足しているが、将来的には転職も視野に入れてスキルアップと経験値稼ぎを意識している。いずれやることになるかもしれない転職活動を意識して、備忘録をつけておこうと思う。
ステータス
タイトルにもあるとおり、私は精神障害者だ。
病名としては双極性障害のⅡ型。いわゆる躁鬱病であり、躁の波と鬱の波を繰り返す。躁の時期は高いパフォーマンスを発揮する一方で対人トラブルを起こしやすく、鬱に入ると何もできなくなる。
病名がついてから約5年の根気強い治療の末に、生活リズムの維持と適度な運動、そして服薬を欠かさないことを条件に寛解に近い状態まで持ってくることができた。
就活を始める数年前まではフリーランスのITエンジニアとして活動していた。主にDX方面でコンサルティングから開発までを一手に請け負うタイプのエンジニアだった。
得意分野としてはITになるのだが、SEやプログラマは案件がひりつくと残業や休日出勤が発生しやすい。私は生活リズムを維持しないと症状が出やすくなるから、あまりITでの就職は考えていなかった。
また、肉体的な疲労が精神的な疲労に直結しやすいため、デスクワーク以外の選択肢はあまり入ってこないのが正直なところだった。現場職やサービス業はできそうになかった。
これらの条件から、私ができるのは障害者雇用枠で最も頻繁に募集される事務の仕事ということになる。
なぜ就活を始めたのか
いろいろな焦りがあった。
老いていく家族を安心させたかったというのが一番大きいかもしれない。当時、フリーランスとしては零細の部類だった私は生きていくのがやっとの収入だった。
厳密に言えば、もっとスキルを磨いて突き詰めれば収入アップの余地は残されていた。WEBにDX、ディープラーニング、飯の種はいくらでも転がっている。動画編集もやれるから、そっちで実績を積むのも手だ。
ただ、今後AIの発達にあたってIT系のエンジニアという職はフリーランスではやっていけなくなるという直感もあった。PC内で完結する業務は人間よりもAIのほうがうまくやれるようになる時代が来る。
クリエイティブな職、たとえばライターという道もないではなかったが、需要を意識して自分を押し殺したライティングは精神をすり減らす。書くことが好きだからこそ、ライターで食べていくというのは無理だった。
そういうわけで、まずは家族のため、そして次には自分の将来性のために就職活動を始めた。
どのようなキャリアプランを考えたか
闇雲に求人を漁っても気が滅入るだけだというのはわかりきっている。そこで、まずはスキルの棚卸しと求人の傾向をチェックすることにした。
ビジネスマンとしての私にできることのひとつはやはりIT関連のスキル、特にDX方面だ。しかし、SIerなどに入社して残業で潰れてしまっては元も子もない。
軽く先述したが、フリーランスとしての活動の中で事務作業の応援スタッフとして入ることがあった。こちらに関しては好きではないものの得意だな、飽きずにやれるなという手応えがあった。
人付き合いも嫌いではないし、仕事と思えばどんな相手ともにこやかに会話できるのが売り。マルチタスクも必要ならばこなせるほうだ。
総務部の情報システム担当というのはかなりありな選択肢だった。
専門の部署として情シスを置いていないような企業では総務が情シスを兼ねている。総務という何でも屋で自分にしかできない仕事を持つことができれば、仕事はかなり安定するだろう。
実際に障害者雇用枠でそういった仕事を探してみると、いくつか見えてくることがあった。
まず、障害者雇用枠の求人には2種類ある。最低限の能力しか求められていない福祉としての雇用枠の求人と、法定雇用率を満たしつつ戦力を補充したいハイスペック意識の雇用枠の求人だ。
後にエージェントとの会話で明らかになるが、世の中には法定雇用率を満たすためだけの目的で障害者を雇い、低い賃金で社内ニート状態のまま放置する……という話も多いらしい。
障害者雇用は法定雇用率を満たしていないと罰金のようなものが発生する。逆に雇っていれば助成金が出るうえ、企業価値も高まる。
能力に期待せずに採用されて社内ニート状態で放置というのは、あまり歓迎したくはない流れだ。
私はそれなりに実力があると自負しているし、狙えるのなら昇給や昇格も狙っていきたい。そう考えると、目指すは後者の求人だった。
障害者雇用枠の多くが派遣社員や契約社員な中でも、後者のほうが正社員での採用も多い。将来性を考えるのなら、仕事に活かせるスキルは絶対に身につけておくべきだろう。
そういうわけで、私は一般企業の総務部で情シス担当者になることを目指して就職活動を始めた。
就職が決まるまでにやったこと
就職準備として、私は様々なことに手を出した。それについても記録しておこうと思う。
①資格取得
私の実務経験はフリーランスとしての実務経験で、一般企業への勤務と比べると履歴書上での信用が薄い。
そこで、実務能力があることを示すために資格取得を進めた。
最初に取得したのは簿記3級。事務仕事の入口と言っていい資格だ。元々経理事務業務の経験があったこともあり、実務経験が学習内容を裏付けしてくれてスルスルと頭に入ってきた。
無料で簿記や会計の勉強ができるCPAラーニングにはかなりお世話になった。テキストが無料でダウンロードでき、練習問題も豊富で、一発合格の強い支えとなった。
移動時間は「パブロフ簿記3級」のアプリで一問一答形式の問題を繰り返し、CPAラーニングのテキストを3周してから模擬試験を繰り返し解いた。
1日3時間の勉強時間で1ヶ月かけ、無事合格した。
もっとも、簿記3級は実務レベルの資格とは言えない。入門程度の内容でしかなく、経理の実務能力を示すことができるのは簿記2級からだ。だから、経理での就職を目指すのなら2級を取ったほうがいい。
しかし、私は総務の情シス担当者になることを意識して就活をしていたから、簿記2級よりも基本情報技術者を優先した。
基本情報技術者はIT方面で実務に携わるうえでの最初の資格だ。その前段階にあるITパスポートも必須と言われることが多い。
取る前に本命から内定をもらえてしまったので勉強は一時中断しているが、今後のキャリアのために現在も取ることを検討している。
②就労移行支援事業所
最初から障害者雇用枠での就職を意識していたから、就労移行支援事業所のことは調べればすぐに出てきた。
簡単に言えば、「障害者が通所して訓練を受け、働けるようになったら求人応募のサポートをする事業所」だ。
フリーランスで仕事をしていたため、私には週5日で働けるというエビデンスがない。その点、就労移行支援事業所は通所しているというだけで「労働能力がある」という信用を得ることができる。
最寄りの大手数軒を見学し、話を聞いた。
しかし、今回に関して言えば、私は就労移行支援事業所のメインターゲットからは外れていたようだった。
総じて、どこも「生活能力はあるが働く能力がない人が訓練の末に仕事を見つける」というルートを想定しており、フリーランスとはいえ就労能力がある私は利用者としては想定されていない。
訓練とは主にビーズを袋詰めするような軽作業、最終到達点でMOSを受けるかどうかのレベルの簡単なPCスキルのトレーニングで、どちらかと言えば働くための生活習慣を身につけることを目的にしているように見えた。
これはまあ、障害者雇用の現状、特に先述した「最低賃金の社内ニート」を理解していれば納得だ。障害者雇用枠に求められているスキルがその程度ということだろう。
理解はできるが、私の現状とはマッチしていなかった。就労移行支援事業所を利用しないと就労できない人材と見なされると市場価値が落ちる。
さらに問題だったのが収入だ。
基本的には半年以上の通所と訓練を経て就職に至るのが通例であり、その期間中は副業などは行ってはいけないと決まっている。つまり半年以上無収入というわけだ。
一応擁護しておくと、就労移行支援事業所というのは働くことが困難な障害者を行政と連携して就職まで支援する……という福祉サービスなので、そもそも働ける人間は対象ではない。
働けないレベルの障害者は多くが障害年金の対象だし、状況次第では障害厚生年金を受給して最低限の生活は成立する収入を得ている者もいる。
私の場合、さすがに貯金はそこまでないし、収入を削るわけにはいかなかった。想定されていないところに無理に通所して得られるものがどれだけあるかはわからない。
そういうわけで、就労移行支援事業所については利用しない方向で決意を固めた。
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