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【虎に翼 感想】 9/12 見ている方向はどこか


全員が、一方通行だった。

優未は最初から結論を出していたのだから、相談ではなく報告だったのに、航一は相談だと思って必死に止めていた。寅子に報告しようとするとお腹ギュルになっちゃうから航一に先に話したのに。
のどかが彼氏を連れてくることも忘れ、ビシッと着こなしたジャケットも脱いで丸めてしまう有り様だ。

寄生虫が好きで研究を始めたのに、研究が辛くて寄生虫が嫌いになってしまうなら本末転倒だ。優未の中では初めから理由が明確になっている。

ちょっと待ったー!な感じで入ってきた寅子が話す、
「優未の道を閉ざそうとしないで」
「どの道を、どの地獄を進むか諦めるかは優未の自由です」
の言葉……あぁ……はるさんが寅子に話していたのと同じではないか……

優未の頭上で繰り広げられる論戦は、完全に優未を置いてきぼりにしていた。

航一の心配は当然のことだ。それなりに年齢を重ねた優未が、せっかく9年間研究に励んだのに、目に見える成果を残さずに辞めようとし、先のことも考えていないのだから。何者でもない女性=結婚しているわけでもなく社会的地位もない不安定な立場になることを父親として許容できるはずもない。

寅子からすると、かつての仲間のように、努力した結果、目に見える成果を残さなくても立派に生きている人をたくさん知っている。だから9年間の研究を投げ出して辞めたとしても、それは無駄ではないと考えるのも当然だ。

「私は、優未が自分で選んだ道を生きて欲しい」
「あなたが進む道は地獄かもしれない。それでも進む覚悟はあるのね」

……このときの寅子の話し方がセリフっぽかったし、優未もずっとキョトンとしていたようにも見えた……地獄って何?みたいな……優未はそこまで深刻に考えていたのかな……真剣に考えたとは思うけど……
でも、母親の言葉はうれしかったし、辞めてもいい方向に話が進んでいるから……ちょっと便乗したな、優未。

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のどかの
「普通の家庭も子どももいらない。自分の人生を自分のためにだけ使いたい」
との言葉は、相手が誰であろうと、彼女の根本的な考えなのではないか。
だから大好きな吉川誠也くんにも、髪を切って画家を辞めて自分の芯を捨てるなどして欲しくなかったのではないか。彼が普通になってしまうなら別れてもいいくらいの気概を感じたのだが……なのに吉川くんが勘違い、というか言質をとったぞといわんばかりに結婚宣言して、急に航一と寅子をお義父さんお義母さんと呼び始めたから、のどかもそれに便乗していなかったか……

優未ものどかも、ほどよくノリが軽くて、まいっか、何とかなる、戦争しているわけじゃないんだから死ぬわけでもなし。みたいな現代っ子のノリがすがすがしいくらいだった。

皆がそれぞれ別の方向を向いていたけど、それぞれが相手を思ったうえでのことだったのだ。ちょとずつ方向が違っていただけ。

吉川くんの言うように、親の許可は必ずしもいらないし、自分のことは自分で決めていい。時代は少しずつ変わっている。

はるさんが寅子に地獄を問うたのは30年以上前だったけど、寅子は同じノリで話しちゃって、航一が説得していたところを話の腰を折っちゃって、優未は結局、大学院を中退し、今はいわゆる “家事手伝い” ということか。
思い返せば優未は、はるさんと花江からみっちり家事を仕込まれていたから、研究より向いているのかもしれないね。

寅子は “自分が恵まれていることに気が付いていない” とオノマチに言われていたけど、たぶん優未は気が付いている。自分の家が比較的裕福なことを。だから先のことはゆっくり考えると思うよ。

法曹の父である穂高教授の “雨垂れ石を穿つ” だけでなく、母であるはるさんの “地獄” も踏襲しようとした。教授の予言どおり寅子はもう古い側にいる。そして自分で決めろと言った手前、口出しできず優未を見守っている。いつの世も親の心配は尽きないものだ。

航一は、当たり前だけど優未のことものどかのことも本気で心配している。娘が二人いるとパパは大変だ。今日はダブルで娘の人生の局面に立ち会ってしまったから疲れたよね。本当にお疲れさま。


昭和45年3月

学生運動や少年犯罪の凶悪化に対応するため、政府は少年法改正に向けて法制審議会への諮問を行うとした。

この頃、問題となっていたのが水俣病をはじめとする公害問題で、多くの訴訟が起こされていた。昔のプラカードの絵ってなんか怖い……

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桂場は一体どこを見ているのか。
強引な法解釈により、公害に苦しむ人々は救われたが、桂場はその人たちのほうを向いていたのだろうか。

政治家に司法のテリトリーに立ち入らせないために、裁判を利用していないといえるのか。

昭和45年6月

少年事件の家庭裁判所全件送致の見直しと厳罰化が検討され始める。
少年法部会に出席する人選……家庭裁判所所長、久藤からの寅子に対する信頼は厚い。

花岡家を象徴するあの絵……今まさに土足で踏み込まれ、乱暴に取り外されようとする危機に直面している。

愛の裁判所の理念はもう古いのか……時代の変化とともに少年法も改正すべきなのか……

思うようにならない体で庭を見つめるしかない多岐川は、この気運をどう思っているのだろうか。


「虎に翼」 9/12 より

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