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【虎に翼 感想】第78話 どっちつかずの寅子

「よそ者のくせに、こっち側のふりして」
「波風を立てず、立つ鳥跡を濁さずでお願いしたい」

東京生まれ、東京育ちの寅子にはカルチャーショックだったに違いない。
これまで、”男性” 対 ”女性" という構図ではじかれる経験は度々あったものの、”東京” 対 ”地方”の構図ではじかれる経験は、もちろん初めてのこと。

高瀬の発言はごもっともだ。
森口との問題を、寅子の仲裁により解決できたとしても、3年もすれば異動していなくなってしまうこの後ろ盾は危うい。後ろ盾がなくなった後の、相手のさらなる攻撃が想像必至である。
寅子はどう向き合うか。

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「お前がしっかりしないと、次男坊が心配して、成仏しないぞ」
森口の知っている、”体の弱い高瀬をおぶって何度も医者に連れて行った兄貴” の姿。高瀬からしたらそれは、
兄貴のことは俺が一番よく分かってるんだ
なのか、それとも、
お前の知っている兄貴は本当の兄貴じゃないんだ
なのか。
杉田(弟)が「最近の若い者は」と嘆いても、周りがどう推測しても、高瀬本人が語ってくれないと、誰にも分からないことだ。
・・・・・・・・・・・・

田舎も狭いけど、首都東京で有名人になり、理想に燃えていた、ついこの間までの寅子の環境も、実のところ狭い世界の話だったんだよね……。


優未、まさかの44点を88点に書き換える荒業を披露しようとしていたなんて……。
テストになると緊張してお腹が痛くなるところがパパに似てしまった。微笑ましいが、本人には深刻な問題だ。

東京家庭裁判所での福田夫妻の離婚調停の件が思い出されるが、ここでも、寅子の “伝え方が足りない” 問題が出てしまった。あれでは優未は、もう自分からは尋ねてこないだろう。
だが、優未に問われて、寅子は、優三さんのことをどう伝えればよいのかという問題に、はたと気が付いたのだ。
「今は伝えられない」とだけでも話せたら、優未の小さながっかりを増やすことはなかったのになぁと思った。せっかく優未が、パパの実像をつかむことができそうだったのに。
だが思い返すと、穂高先生に「雨垂れのひとしずくなんて言って欲しくなかった」と怒りをぶつけた寅子だ。“導く者(寅子)” が “導かれる者(優未)” に、迷いや弱っている姿を見せることは、根本の価値観として持ち合わせていないようにも思えた。

寅子と優未をつなぐ糸は、まだまだ細いなぁ……。


「ゆうべ、泣きました?」
異常に鋭い人はいる。
前最高裁判所長官の息子ともなると、杉田兄弟のような、すり寄り人間どもにたくさん出会ってきただろうから、うんざりしていること間違いなしだ。
裏表のある人間をたくさん見てきたせいなのか知らないが、航一は、人間の本心とか、心の機微に敏感な人物と見える。常に警戒しているのだとすれば、航一のいつも冷めたような、何を考えているのか分からない様にも納得がいく。

寅子は、杉田(弟)の航一に対するすり寄りに折衷案を出すが、双方から押されぎみになっている。

・・・・・・・・・・・・
「(高瀬が)思い出にできるほど、お兄さんの死を受け入れられていなかったのでしょう」

寅子にもヒントになる航一の言葉だった。
死を受け入れられていない……そうだろうなと、察せられる点はある。

優三さんの死が判明したのが昭和21年。それから6年という月日は、まだ短すぎる。
あのとき、焼き鳥の包み紙に書かれた日本国憲法に出会ったのは奇跡と言ってもいい。そこからは、ある種の高揚感に押されて寅子は行動していたともいえる。
日本国憲法そのものである優三さんの言葉を芯に持ち、司法省で無我夢中で働いていた頃は、思い返す暇もなかったはずだ。そこから東京家庭裁判所に移りイケイケだった頃は、かわいそうだが、あまり顧みていなかったかもしれない。
いろいろあって、過去がぎゅうぎゅうに詰まった東京から離れた今、やっと静かに想い起す時間を与えられたところなのだ。

それに、この時代の戦争未亡人が皆そうだったように、夫が死ぬ姿を直接目にしていないし、骨も帰って来ていないことも、実感を得られていない理由としてあるのではないか。
現代において私たちが墓参りをするのは、そこに大事な人の骨があるから。そう考えると、死んでも骨が残るということは、実感をもたされて、そこに縛られること。ある意味、やっかいなものなのだ。

今となっては、男性 対 女性、権力 対 雨垂れのひとしずく の対立構造で吠えていた頃が、懐かしくさえ思える今日の水曜日であった。


「虎に翼」 7/17 より

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おっちぃ
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