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【虎に翼 感想】第62話 大庭家、それぞれの思惑


パラリーガル時代に一番好きだった案件は、相続だった。
依頼を受けると、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍と、相続人に繋がるまでの戸籍を漏れなく取り寄せて相続人を確定させ、Excelで相続関係図を作り、相続割合を計算する。
詳細は割愛するが、子のいない高齢の夫婦が続けて亡くなったときは、相続人が50人以上になり、100通以上の戸籍を取り寄せ、相続関係図がA3サイズ横2枚の大きさになり、相続割合が一番少ない人で数万分の1になった。それを、弁護士の負担にならないところまで仕上げてバトンタッチできたときの達成感ったらなかった。

戸籍には死亡した場所が書かれている。二十歳くらいの男性が「太平洋〇〇沖で死亡」とあると、漁師だったのかなと考えたり、生まれたばかりの子と母親が同じ日に死亡していると、予後が悪かったのかなと考えたり、小学生の兄弟が同じ日に死亡していると、事故に遭ってしまったのかなと、思いを馳せていた。

決して興味本位な気持ちで相続案件が好きだったということではない。関係するすべての人々の生き死にをきちんと確認することによって、相続人と相続割合が確定し、そこからやっと遺産分割の話に進めていけるからだ。だから、ここまでの作業はスピード感をもって取り組まなければならない。5月上旬くらいの記事で猪爪家の関係図を載せたことがあったが、あのくらいの関係図であれば15分で作れるくらいでなければならない。相続人が待っているから1日でも早く作業しなければと、頑張ってしまっていた。

大庭家の話も、相続人が確定してからが、本筋の話となるのだ。


梅子との邂逅

遺言書検認を終えて大庭家の面々が帰ったあとでも、寅子は部屋に残っていた。思いがけない梅子との再会であった。気持ちを整理しきれていない。
だがすぐに梅子は部屋に戻ってきてくれた。検認中の非礼も詫びる。10年以上ぶりの再会でも、すぐにあの頃に戻れる。そんな関係っていいね。

よねと轟も驚いている。お互いに生きているかどうかも分からない時代だ。二人ともそれぞれの表現で喜んでいる。よねもさすがに「二度と来るなと言っただろ」とは言わない。狭い法曹界の中のことだ、この先もしょっちゅう会うに決まっている。

憲法第14条……あれだけ文字がでかいとはいえ、やはり梅子の目にも留まった。それぞれが、それぞれの場所でこの条文を読み、かつての仲間を思い出していたに違いない。だって、この条文は5人(お玉も入れれば6人)そのものだから。

狭い法曹界、弁護士である大庭徹男と顔を合わせていてもおかしくはなかった。だが今となっては腑に落ちることだ。
梅子は、光三郎を連れて家を出てからわずか10日ほどで連れ戻されていた。しかも、直後に徹男が倒れ、看護要員とさせられていた。梅子も、光三郎と一緒にいられるという条件のもと、これを引き受けている。だから、恥ずかしくて寅子たちには知らせることができなかったのだ。

寅子が帰った後、よねと轟のやりとりを見て、梅子は感慨深くなってしまった。花岡の死を悼む言葉は発しなかったが、“一番輝かしい時代” の思い出には花岡も含まれていることを、梅子の背中が物語っているようにも感じた。

寅子が、大庭家の当事者と知り合いであることを上司にきちんと相談している。調停の場合は調停委員が主導するから、それに期待することになった。


大庭家の遺産分割協議

轟とよねが大庭宅を訪問する。
竹もとでの出来事を思い出そう。徹男の特別授業の後に竹もとに集まっていた明律大学の学生たちの前に、徹太たち帝大生が現れて、男子たちが “スン” となった姿を。
同じ弁護士だもの、今日の轟は堂々としていた。徹太は轟を下に見ていそうだったけど。
二人とも、光三郎の成長ぶりに驚いていた。それだけの長い間、梅子はずっとあの家に居たということだ。その間、寅子たちには様々な事が起こっていたのに。梅子、本当によく頑張ってきたよ……。

・・・・・・・・・・・・
遺言書の件はあっさり解決した。轟たちが、証人とされる人物の住所を一つ一つ見に行き、存在しないことを証明したのだ。ファクトチェックは基本。元山すみれ、あっさり退場となる。

徹太の妻、静子は、したたかな面を見せていた。
「お母さんもおばあちゃまも、私が最後までお世話してあげます」
徹太の意思は私の意思と言わんばかりに、夫が全財産を相続するための交換条件を突き付けてきた。こりゃ徹太と気が合いそうだな。

・・・・・・・・・・・・
相続は、金額の多い少ないとかだけではない、亡くなった人との生前の関わり、相続人同士の関わりによって、感情が複雑に絡み合うものだ。

「母さんだけ放棄すればいい」
徹次のこの言葉が、梅子は一番ショックだったのではないだろうか。徹太が「自分がすべて相続する」と主張するのは全員が想定内だ。光三郎は母が傷つくようなことは言わない。
あの頃、梅子は、徹次のことも救いたいと思っていたが、たった10日間とはいえ、自分を置いて出ていった母親に対する徹次の屈折した思いを感じた。
それに、徹次に対して徹太は、「たいした傷でもないのに甘えるな」と言っていたが、傷は、体だけにできるものではないだろうに。そんなことも先回りして考えられない人物に、弁護士業が務まるのであろうか。


花江、笑顔がなくなる

花江がますますワンオペになっている。もう一緒に夕食も食べられていない。そんなときに限って子どもは味噌汁をこぼす。怒らない花江がえらすぎる。直明が手伝うと言っているのに断ってしまっている。寅子は愛のコンサート会場の手配もあり、残業で毎日帰宅が遅い。福来スズ子は大物すぎるから、来てもらえそうな歌手を探そう。

5/30 優三の言葉で聞く日本国憲法」の記事で、「(民法が)改正されたからといって、すぐに何かが変わるわけではないということが、今後、描かれるのだろう」と書いたが、結局、主婦である花江が家事を全て引き受けようとしているし、大庭家でも、“親・夫・息子の面倒は嫁(母)が看る” と刷り込まれている。もちろん、価値観をすぐに転換するのはとても難しいことだ。
大庭家の問題で気をもむ寅子が、自分の家の問題に気が付けるかどうか、試されている。


「虎に翼」 6/25 より

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