雨が好き。濡れるのもイヤじゃない。
うんと小さい頃に、傘をささずに外で遊んでいた記憶が残っている。傘は持っていたけど、ささなかったんだと思う。もし、寒くて耐えられないくらいだったら、そもそも外に出ないだろうし、季節は夏だったのかも知れない。
唐突にその頃の感覚の一部が、記憶としてよみがえってきた。
息の温かさ、体から立ち上る湯気に混じった体臭と雨の匂い。
ふと、この感覚が記憶によるものではなくて、おぼろげな記憶をもとに新しく身につけた感覚なんじゃないかという気がしてきた。
その頃、雨が好きだとか、濡れても構わないだとか、そう思っていたかどうか、あやしい。そんな自覚があったとは思えない。気がついたら濡れていたんだと思う。
記憶の中にあるおぼろげな少年の姿が、急に生き生きとして、笑っているように感じられた。
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