Broken Silence
――目が覚めると、世界は静寂を喪っていた。
オルゴールが延々と鳴り響くメリーゴーランド、輪廻の果てに地上は見えず、視界を切り刻むのは、鳥たちが無垢に飛び交う碧色の空だけ。
灰色の路上、裸足の花売り、裸のマッチ売り。
此処で枯れゆく心、焦げつく足に祈りはなく――人々は殺意に酔い痴れた車の下敷きになっても尚、その手に握り締めた造花を手放すことはない。
淫らに散らばる花弁のような、或いは雪のような色彩。彼女らはきっと、救いようのない愛と憎悪に溺れているだけ。そう、鳥葬された十字架すら、讚美歌のサイレンを鳴らさないから、CallGirl,110,119,肢体だけを掻き集める109前には、もう赤いシルビアとセダンはいない。
「7月は爪を剥ぐような寒さ」と、いつかの少女は言った。だが、この世界に驟雨は存在せず、僕らは砂塵の中で鉄条網と電線を縺れさせ続けている。
水色を壊す褐色の季節、芥子の寝室にクーラーの呻き__花瓶の水面に浮かぶ蜘蛛と蛍の死骸にいざなわれた陰翳が「夏の色」だと貴女が云うから――
神を名乗る君が、神を殺した白昼に(夢)という名のリキュールを攪拌させれば、きっと、壊れた静寂だけが表層を終わりなく漂い続ける。
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