
青森旅行 終章
青森旅行最終日。
私は青函連絡船の八甲田丸を見學しているのでありました。
前回に引き續き、船内を見て廻ります。

1等座席を發った私が向かった先は1等個室であります。
国鉄マークの浴衣、當時の罐ビール等、豪華な雰囲氣です。
手前にソファー。奥が寝台となっている様です。
もしもこの個室でソファーに座って酒と肴などを戴き乍らゆるりと旅が出來たら…と思うとワクワクしてきます。
ベッドで眠って朝目が覺めたらそこは北の大地、北海道…。
なんと素敵な旅路ではないでしょうか。
備品や調度品の寄贈者のお名前もしっかり展示してあるところがまた素晴らしいと思います。

こちらは応接室。
賓客級の方をおもてなしする際に使うのでしょうか。
奥の名札は歴代の桟橋長のお名前がズラリ…。

こちらは船長室。
マネキンの船長さんはデスクで海圖を見ているのでしょうか。

船長さんにはこの通り専用の寝台が用意されている様です。
乗組員でも船長は特別扱いでしょうか。旅客と同じく、きちんと毛布が畳まれています。

この札、今度模寫して複製を作って部屋の前に貼っておこうかと思います。

船長室から階段を上がって行くと、この船の船橋に辿り着きました。
前面を一望出來る窓からの眺めは乗り物好きにはたまりません。
硝子に附着する氷や雪を吹き飛ばす円い旋回窓が極寒の地で就航する船を物語っている様です。
前方のマネキンの航海長さんは受話器を取って何やら確認中の様です。
その向かって右隣に電波探信儀、俗に言うレーダーが備わっております。
この水眼鏡の様な円い穴を覗き込むと円い画面が有り、よく見かけるレーダースクリーンが見えるのです。
画像中央の舵輪は實際に触れる事が出來ます。

船橋内部を別角度から…。
この通りかなり廣々としており180度の眺望が望めます。
寫眞奥の方にこの船の號鐘が展示されています。

この鐘も鳴らす事が出來ますが、もの凄く大きな音が出るので慎ましく鳴らすのがエチケットです。

こちらは通信室。
通信台の上に有る時計の赤い部分に時刻が來ると15分毎に3分間ずつ通信を止めて緊急事態を知らせる他の船舶からの通信を受信する様にしている様です。
モールス信號でSOSの出し方は「・・・ーーー・・・」だったと思います。
覺えておくと日常生活で役に立つ事があるかもしれません。
…どうでも良い話ですが、かの『天空の城ラピュタ』の冒頭、ムスカ大佐はこの電文を送る前の「・・・ー・・・ー・・・ー」と云うテスト送信か友軍への呼びかけの最中に酒瓶で殴られた様です。SOSは出せず仕舞だったのかもしれません。

これは万が一、船に浸水した際に隔壁を操作する装置の様です。

これは大事な事です。
日本人程に安全を重視している民族は他に居ないかもしれないと思っております。
日常生活でも充分に戒めたいです。事故の有りません様に…。

船橋の窓から港を見ると海上自衛隊の護衛艦と思しき艦船が停泊中でした。
突堤に停まっている自動車と比べるとその大きさも實感出來ます。
日本の安全の為に日夜務められている自衛隊の方には頭が下がります。
敬礼…!

青函連絡船が就役していた當時の青森驛の模型が展示されております。
丁度、船尾より貨物列車を船に積み込んでいる最中です。
その車輛を見に、今度は階段を下りて船底へ向かいます。

下層甲板にはこの様に線路が敷かれており、客車が積載されておりました。

船にはこの様に客車を繋ぎ留めておく聯結器が備わっており、これに車輛を繋いでおく訳であります。

郵便の「ユ」と荷物の「ニ」の字が形式名に附いている事から、これは郵便物と小荷物を運ぶ車輛を示しております。
車内には郵便物の仕分け作業をするスペースが有り、この中で目的地へ着く迄の間に郵便職員はお手紙の仕分けをする様です。

お次は特急の車輛。電車ではなくディーゼルエンジンで動く氣動車です。
室内灯が点灯しているところを見ると、静態保存と雖も生きている感じがします。

車内設備もほゞ完全な状態ではなかろうかと存じます。
貴重な国鉄時代の車輛、いつまでも大切に保存して戴きたいものです。

DD16形ディーゼル機關車の31號機も一緒に津軽海峡を渡って行きます。

地味でも大切な控車 ヒ600
控車(ひかえしゃ)とは機關車と輸送目的の車輛の間に聯結する車の事で、これは客車や貨車を船から出し入れする際に不安定な桟橋の上を安全に渡る為に使われた物の様です。
直に車輛と機關車を聯結すると目方の重い機關車のせいで船と桟橋との高低差が生じて車輪の空轉や脱線事故が起きる可能性がある様で、それを防ぐ為に使われるとの事です。

線路が途切れていますが、この壁が開くと港の桟橋に有る線路と繋がる様です。
壁の向こう側は…

…桟橋に通じていて、こうなっております。
嘗ては澤山の車輛がこうして船に積み込まれて北海道と本州を行き來していたのでしょう……。

更に船底を進んで最後にやって來たのが船の機關室。
前回迄の豪華な雰囲氣とは一轉。何やら秘密基地の様な場所へ入り込みました。

機關室の配置圖ですが見ても全軆の把握は難しい位に複雑です。
當時の機關部員さん方のご苦労が偲ばれます。

機關室の一角に在る洗面台。
嘗ては汗や油に汚れた機關士の方がここでひと時の清涼を味わったのでしょうか…。

複雑に入り組んだ造りがまるでダンジョンの様です。
こう云う空間、それはそれで見學していると面白いものです。

今にもエンジンの唸る音が聞こえて來そうです。
澤山の機器が整然と並んでいます。
こうして一通り船内を見て廻った私は高揚感と浪漫、そして少々の寂しさを胸に下船致した次第であります…。

船の傍には、あの『津軽海峡冬景色』のモニュメントが…。
しかもスピーカーが内蔵されていて石川さゆりさんの歌声が流れてくる仕組みになっております。
今回お伺いした季節は夏でありますが、やはり本州は北の果て。
どことなく厳冬の白い景色が目に浮かんで來る様であります。
こうして私は愈々當地に別れを告げる時間を迎えてしまいました。
…すみません、随分削ったのですが長くなってしまいましたので續きます。
どうぞ惡しからず………。