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旅たぬ記 分福茶釜之巻(巻之參)

はや立春を迎えねば寒さ一際厳しき今日この頃ですが、これで暦の上でも令和7年を迎える事になりました。
偶然にも今日は「オリヂナルキャラクター」の日めくりも月と日で狸のキャラクターが揃いました。

さてそんな訳で、前回の續きを執筆する事に致します。
前回、分福茶釜の舞台と言うべき茂林寺さんへ伺いましたが、その境内を少しブラブラ致してみます。

山門

総門と本堂の間に山門があります。
茅葺の見事な屋根です。通称「赤門」
お寺の資料によりますと元禄7年の建立。西暦では1694年との事。訪問した去年の時点で丁度330年となる計算です。
なにせ世界最古の木造建築物を持つ國、日本。330年と云う間を存在し續ける訳でありますから我が國の木造建築の技術は誠に素晴らしいのであります。
木材に關係する商売をしていた身の上と致しましては、柱や梁の木目を見て材料としての価値を考えるだけでも樂しいものです。

分福、是即ち福を分ける意なり

そこには、これまた年季の入ったベンチがあります。
かすれた文字に「福分けだんご」と…。どんなお團子か氣になるところです。
最近はこの変軆仮名の「ご」が讀めない方が多いのだとか何とか…(片仮名の「ボ」ではなく、これは音讀みの「古」の字が元になっております)

涼しげな境内

緑豊かな境内です。
訪れたのが夏の眞っ盛りの時期だった為、辺り木々のさえずりと一面の蝉の「オーケストラ」であります。時折小鳥達の「コーラス」が入る様です。
木陰も涼しく、散策するには良い雰囲氣でございます。

茂林寺のラカンマキ

ラカンマキとしては群馬縣でも最大級の巨木だそうです。
葉先が尖っているのでヒイラギと共に魔除けの意味もある様です。

尚、ラカンマキは漢字で書くと「羅漢槙」となり、羅漢とは仏の弟子で迷いの輪廻から脱した聖者の事を指します。この境地に達すると輪廻轉生をしない様になるらしいのです。

さてその羅漢ですが、實は『分福茶釜』の物語の中に出てくる「守鶴和尚」の正軆は羅漢の化身だったと云う結末があるのです。

そもそも原典となった『分福茶釜』では狸は茶釜に化けておらず、和尚の方に化けていたのです。
そして茶釜は、その狸が化けた和尚の持つ神通力によって不思議な力を發現させていたのです。
然るに、その和尚の居なくなった後となっては只の茶釜に過ぎないと云う見方も出來ます。

この狸こそが實は古代天竺で釈迦の教えを受けた数千年を生きる羅漢の化身だったと言うのです。
或る日、守鶴和尚は疲れ果てて熟睡している時にとうとう狸の姿を現してしまい人々に正軆がバレてしまいます。
最早正軆がバレてしまった以上、偽りの姿(和尚)として残る訳にはいかないと和尚は人々に別れを告げます。
多くの人々から慕われていた守鶴和尚をみんなが慰留しますが別れの時に持っている妖力で源平合戰の様子を見せたり釈迦の説法を見せたりと、宛ら「過去を映すビデオ」の様な技を見せた後に鶴になって何処かへ飛び去ったと言うのです。

和尚さんの「守鶴」の名からも本當の姿は狸ではなく、鶴だったのかもしれません。
即ち「守鶴和尚」とは羅漢の化身の鶴が化けた狸がまたまた化けた和尚さんだったのであり、恐るべき形態の多重セキュリティが施されていた様であります。

お寺の中には、その守鶴和尚を祀る庵と像があります(御神軆につき撮影致しませんでした)

その代わりに撮った見事な巨木

また守鶴和尚はお寺の主ではなく、あくまでも歴代の住職に仕えた役僧であり、解り易く言えば「ドラゴンボールの神様に對するミスターポポ」の様な位置附けです。
かの漫画では神様よりもミスターポポの方が謎の存在でありますが、茂林寺の『分福茶釜』でも同じ様な事が言えます。

違う傳説によると守鶴和尚は元々、同じ群馬縣内に在る他の寺の住職だったのでありましたが、やはり狸の正軆がバレてしまい、その時に茶釜を持って茂林寺に逃げてきたと云うのであります(この際に茶釜の蓋を紛失してしまったらしいのです)

そのせいもあってか群馬縣内には「分福茶釜が存在した寺」が5つも在るのです。
もしこれらのどのお寺にも守鶴和尚が居たとすれば、どれだけ正軆をバラしてしまっているのかとツッコミを入れたくなりますが、もしかしたら仏の教えをより多くの人に傳える為に敢えて羅漢の化身がそうしたのかもしれません。

その辺りもあって『分福茶釜』は非常に謎めいた物語なのですが、今や日本で有名な狸の一つとなっているのであります。
今回の旅も、そうした日本獨自の不思議な狸の取材を兼ねていたのでありますが、とりあえず境内から退散致しまして門前の賣店でも覗いてみる事に致します。

お土産を購入

狸のお菓子に狸の小間物、そして當地で作られた漬物等の食べ物を少々購入致します。
誰も外を歩かない様な激烈な猛暑の中、一人熱心にお寺を見學してきたのでありますが、それだけにお店の人との會話も弾みます。
茂林寺の事や法事に見えられる團軆さんの事、この辺りの土地の事等、色々な面白いお話が聞けました。
仕舞にはサービスで「暑いからこれ持っていきなよ!」と、柚餅子を1つ戴きました。

やはりこう云う温かなコミュニケーションは非常に大事だと思うのです。
「イラッシャイマセ コンニチワー」「アリガトウゴザイマシタ マタドウゾー」としか言わないお店どころか店員が全く無言で機械に言わせているお店すら増えていますが、狸の置物が示す様に商いの素晴らしさとは、それをする方もされる方も、心にいさゝかの幸福を得て然るべきではなかろうかと思うのであります。

これぞ夏の風物

別のお店にお邪魔してラムネを戴きます。
暑い日の水分補給は大切です。
自販機のペットボトルではなく、冷水に硝子瓶である事が非常に良き物です。勿論栓抜きも健在。ビー玉を落として「プシュッ」としましょう。

御馳走様でした

今日の寒空など知る由も無かった、かの夏の一日。
お寺で珍しいものを見聞した後に、こうして縁台でラムネを片手に上機嫌であります。

さて、次にどこへ向かおうかと云うところでありますが茂林寺総門へ引き返します。

次の目的地はここだ!

お店の人にも教えて戴いたのですが、入口に氣になる看板があります。
「茂林寺沼」と云う場所へ行ってみましょう。
當地を隈なく愉しむのもまた旅の面白さです。

續く…


昨日はお陰様で今年も節分を迎える事が出來ました。

恵方巻にいわし、福豆、そして熱燗
節分のお酒は勿論「鬼ころし」
後ろに見える熱燗器でじっくりと熱してやるのです
きちんと方位を確認して
四緑方位、庚の方角に歳徳神あり
縁起の良い純國産の福豆で「鬼は外!福は内!」

さてもさても寒き今夜。
これからゆっくりと藥湯のお風呂にでも入ってきましょう。

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