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*いしのなかにいる*

前回、地底世界の大冒險と洒落込んで大谷石の地下採石場を見學して參りましたが、まだまだこの施設では見所がいっぱいであります。
大谷石に囲まれてそれらの見物はまさしく「*いしのなかにいる*」と言った形容が當てはまります。

*おおっと*

地下から階段を上がった先の地上にはこうした大谷石の諸展示があり、なかなかに面白いものです。
多くの人は地下を見物してお寫眞を撮り終えると足早に帰ってしまうところが實に勿軆無く、且つ残念でなりませんが、こう云う物に触れてこそ見學の意味があるものだと思います。

まずはトロッコに載った大谷石の石材が資料館の入口で出迎えております。
この大谷石は太古の昔、日本列島の大半がまだ海底であった頃に僅かに存在した陸上の火山の噴火によって火山灰や輕石が海底に堆積した物が長い年月を經て凝縮して出來たと言われております。
その間約1500万年。
石の上にも三年と申しますが、石になるには1500万年程かかる様であります。53万の戦闘力を持つフリーザ様も眞っ青な途方も無い歳月であります。

石材としては約1400年前に古墳の石室に使われたのが始まりとされております。
地下採石場の本格的な稼働は今から約100年程前、大正時代に遡る様でございます。
あの地下空間は大正時代から石を掘り進めていった結果、生まれたものだったのです。

改めてその場所の凄さを知る
(詳しくは前回「アングラ記事」にて…)

元々はこの場所も大谷石で詰まっていた訳でありますから、これだけの空間を作り出す勞力、そしてその石材の生産量は膨大なものであった事が實感出來ます。

大谷石の層

この様に分布しているらしく、採石される層によって品質が違ってくる様です。

この附近一帯が産地

この辺りの土地から産出するのであり古くから採石されていた様です。
主にこの地域に住むお百姓さんが農業の合間に掘り出して稼いでいたとの事であります。

附近の古地圖

石の展示の中では天井材のジプトーンも面白く見える様でありますが、この繪圖の青いブロック状の部分が地下採石場であり、その間を隧道を示す白い線が繋がっております。
あの立入禁止區域の先にも、長大な地下トンネルを抜けてこうした空間が幾つも廣がっていると考えると或る種の不氣味さを覺えます。
また、繪圖の上の方に櫛状になった隧道が見えますが、これがどうやら陸軍の地下工場らしいです。

複雑に地下通路が行き交うそれはまさしく「ダンジョン」
嘗ては人の出入りありしも、今では閉ざされ誰も居ない深淵なる闇の空間が存在しているのであります。
こうして展示からも色々な想像が思い浮かびます。
これこそが「取材」の意義なのであります。地下を見てそれでおしまいではないのです。
創作のネタを仕入れ、その事柄に触れて知識を深める。そして樂しい。
まさに知的好奇心を満たす探求の醍醐味ではなかろうかと存じます。
家に閉じ籠ってばかりでは良いものは出來ますまい。

石屋さん分布

この辺りに石屋さんが多いのも納得出來ます。
全盛期よりも数が減ったとしてもここへ來る迄に色々な石屋さんを見かけます。
そしてそれぞれに自慢の大谷石の建物や造作を拵えているのが面白いものです。
更にこの展示の上の方に注目。
さりげなく「現在も徐々に採掘区域が拡大されつつある」との文字。
さっき迄見てきた地下の世界は、ほんの一部分に過ぎないと云う事を思い知らされます。

アイテム展示

人足の方々が使っていた色々な道具も展示されております。

今にも使えそうな物ばかり

こうした道具を見るにつけ、この採石場で働く生活の様子が垣間見える様です。

装備品も

藍染の半纏に職人さんのプライドが滲み出ている様であります。

足場板

この梯子の様な物は石を切り出す際に使った足場であり、画像上の方の寫眞の様にしていた様です。
地下空間の巨大な石柱にこの足場を掛けて石を掘り出す寸法です。
恐らく全盛期はこうした足場が縦横に組まれており、それを行き來していたであろう事を想像すると「ダンジョン」の深みもより一層増してきます。

石を運び出す「もっこ」

この巨大な凧の様な物は切り出した石を運ぶ際に用いる籠で金属のワイヤーで出來ております。
画像が切れてしまっていますが左手前に寫っているウインチに繋げて使う物らしいです。
その大きさに機械化が進んだ頃の採石の様子が目に浮かぶ様であります。

旧帝国ホテル・ライト館

この石材で有名なのがこの帝国ホテル旧館、通称ライト館であります。
その壁材に大谷石が使われており、設計者のライト博士は日本中から石の見本を取り寄せて、この帝国ホテルの壁材に大谷石を選んだとの事であります。

博士が愛した石材

恰も「ラピュタブロック」を思わせる様な複雑な造作にも使われており、その美しさはまさしく帝都・東京を代表するホテルに相應しいものであったと思います。
今では愛知縣の明治村でその様子を見學出來る様でありますが「ちゃきちゃきの都民」である私もいつかはお金を貯めて東京の帝国ホテルに泊まってみたいものです。

お待ちかね模型展示

地下採石場の全軆を見渡せる模型は展示物の中でも一番の樂しみでした。

この部分の模型

入口の階段を下りた先に廣がるこの一部分だけでもその巨大さが傳わって參ります。
そして模型の寫眞、左下方に更に地下へと續く穴の存在も確認出來ます。

最新の科學技術で調査

この3Dデータでも地下空間の廣大さが理解出來ます。

現地に灯篭と蛙はおりません。

山の断面を切ったカットモデルでも面白い發見があります。
画像左下に地下深くへと續く竪穴が存在している事が判ります。
模型上の地表からの距離を考えるとその深部の實際の様子がとっても氣になるところであります。

山は大きい。然してその地下は廣大である。

手前の建物が今まさに私の居る場所。資料館であります。
模型では途切れてしまっていますが四角形の石柱の並ぶ空間は、まだずっと先に續いている様です。
そしてよく見るとトロッコの線路と思しき軌框も設置されております(灯篭の右側附近)
この場所から得られる所謂「インスピレヰション」は計り知れないものでありました。

巨大な岩山が聳え立つ

資料館を出てみるとそこは夏の炎天下の下に巨大な岩山が聳え立っております。

外の日差しも眩しく奇岩の様を見せつける山々

手前に見える観光バスの大きさと比べてみてもその岩の大きさがよく解ります。
石を切り出した跡が奇妙な形に遺り、奇岩を目の當たりにしている様であります。

地下世界の闇から幾らも離れていない筈のこの外の様子が違う世界の様であるのは数多のRPG主人公達がダンジョンを抜けて見てきた光景そのものではなかろうかと存じます。

地下空洞内摂氏13度。外の氣温は摂氏38度。
先程迄の地下の涼しさが嘘の様であり、私の軆内は炎と冷氣の相反作用から「極大消滅呪文」が生じている様でございます。

お飲み物コーナーに避難!

そんな時は冷たい飲み物を賈いましょう。
「自販機の洞窟」に飛び込みます。

涼し涼しなかなか

採石跡を休憩所として活用している様であります。
しかしその先を覗いてみると…

未だ作業中

奥の方に泊まっているワンボックスカーの後ろには、これまた闇の空間が廣がっている様であります。この山は今も尚生きているのです。

さあ、一息ついて時間は丁度お昼前。
これから昼飯を求める「クエスト」を始める事に致しましょう。
鞄の中に豫備のスポーツドリンクを入れて自轉車に跨っての移動開始であります。

旧坑道出入口

その矢先、肌を突き刺す様な冷風が吹き込んできました。
よく見ると冷風はこの穴から吹いてくる様です。
ここはあの地下空間に繋がっている旧出入口。

ここに繋がっている

前回の記事にて掲載した寫眞ですが、遠くに見た旧坑道の出入口はここだったのであります。一条の光の先はここに出られる様です。

異空間を繋ぐ場所。
そのなんだか不思議な雰囲氣を感じつゝ、我が愛車は歩を進めます。

續く…

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