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Hayato Ito著『普通の人が資産運用で99点をとる方法とその考え方』を読んで

2020年1月に突如ネット上に現れ、資産形成に悩む個人投資家から絶大な反響を受けたウェブ記事(以下「例の記事」)が、4年9ヶ月の時を経て今回、書籍化されました。本記事はこの本のレビューです。

出版のお知らせ 「普通の人が資産運用で99点をとる方法とその考え方」 - hayato (hayatoito.github.io)


著者は、Googleにお勤めのソフトウェアエンジニアHayato Itoさんです。SNSでの活動はほとんどゼロに等しく、正直、素性はよくわかりません。

Hayato Itoさんのものと思しきXアカウント

例の記事には、①最も効率の高いポートフォリオと具体的な運用方法(いわゆるインデックス投資)、②インデックス投資が優秀である理由、この2つわかりやすく示されています。

インデックス投資が優秀であるという結論は、いくつかの経済学の偉大な研究(※)から導き出されているわけですが、それらの理論の中身を詳しく知るのは普通の人にはとても難しい。数学や金融工学の素養がないと読むことさえできないような代物です。

現代ポートフォリオ理論資本資産価格モデル(CAPM)、トービンの分離定理など。小淵も詳しくはよくわからん。

例の記事は、Hayato Itoさんがそういった難しい理論を噛み砕き、個人投資家が無理なく実践できるレベルにまで落とし込んで書かれている点で(しかもそれが1ページにまとめられている点で)(さらには無料公開されている点で)、非常に有益だと小淵は思っています。

Hayato Itoさんは、金融工学の極地と、凡百のわれわれ個人投資家とをつなぐ、水先案内人だと思うのです。その証拠に、X上では、私以外にも例の記事ファンもしくはHayato Itoファンが多数おられるようです。

ウェブ版と書籍版との違い

ウェブ版と書籍版は、基本的に内容は同じです。ですので、内容についての具体個別のレビューは省略します。

本記事では、ウェブ版と書籍版との相違点を述べるにとどめます。

また、出版後も元の記事は公開され続けるとのことです。そのため、本書を購入するかどうかは、以下の相違点を見て判断いただくのがいいかと思います。

相違点① 細かな文章構成

全体を通じて、文章は細かい点で加筆・削除・修正・順序交換がされています。書籍としてとても読みやすくなっています。

ウェブ版では段落の中にあった一部分が、書籍版では「コラム」として別枠に出されているなど、可読性を重視してか誌面構造を変えている部分がいくつかあります。

また、標準偏差の説明の中で「μ+2σ」を「97.7%」と変更するなど、一部の数学的表現が平易に変更されています。

それでも理論の内容が変更されているわけではありません。読みやすさが向上したということです。

相違点② 図表・資料の追加

ウェブ版では文章中に書かれていた部分が図表として表現されるなどの変更点があります。また、グラフ中に吹き出しと文字を追加するなどして、注目すべき点を強調する装飾がほどこされました。

一点特筆したいのは、ドルコスト平均法の節で、ドルコストと一括投資を比較したモンテカルロ・シミュレーションの検証結果が追加されました。ここは完全に書籍版オリジナルの部分です。

相違点③ Q&Aが充実

第3部Q&A編が、かなり追加・加筆されました。

・含み益は利益を確定して、再投資しないと、複利にならないと聞きました
・含み益は幻なので、利益は定期的に確定したほうがよいのでは?

こういった、超基本だけど誰も教えてくれない、検索してもうまく答えが出てこない、考え始めたらわからなくなりがちな疑問にも答えてくれています。

おわりに

本書は3部で構成されています。

  • 第1部 結論編

  • 第2部 理論編

  • 第3部 Q&A編

それぞれのボリュームは、ページ数でざっくりと1:2:3です。

実際に手を動かして実行することは、結論編の中でも最初の見開き2ページに収まっています。たったの2ページ!

過去100年にもわたる経済学・金融工学の叡智の恩恵が、今この時代、わずか2ページに収まる手順で享受できるのです。手を動かす時間も年に30分とかかりません。

ウェブ版でもちろん十分ですが、座右の書として本書を手元に置いておくというのは、すべての個人投資家が検討してもいいのではないかと小淵は考えます。

――いやもう、回りくどい言い方はやめましょう。

小淵の意見です。

みんな、この本買おう。

誰も、99点から転落しないように。

そして投資に興味を持ち始めた知人が現れたら、この本を貸してあげよう。

洗濯は洗濯機に任せて、人生をより充実させよう。


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