「島守の塔」 (映画 2022)
島田叡氏は、もっと世に知られるべき人物である。
母校の先輩だからではない。
敗戦を目前とした沖縄に、ひとり決死の覚悟で赴任。沖縄県民と同じ目線で地獄を生き、軍に異を唱え、運命を共にした。
沖縄戦の史実に加えて、その地にこんな気骨ある人がいた事を、もっと広く知らしめるべきだと予てより思っていた。
数年前のテレビドラマ、昨年のドキュメンタリー等、島田叡氏に関する作品を幾つか見てきた。が、今回はこの映画に限っての感想を思いつくまま述べてみたい。
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物語は、沖縄の平和な風景から始まる。戦時中ではあるが、家族集まってご馳走様を食べ、庭で踊る余裕があった。
女学生達は歌い笑いながら防空壕を掘り、アメリカが来ても神風が吹くと信じていた。
そんな日常に、戦争が飛び込んでくる。
カジマヤー(97歳長寿祝い)で、晴れ着と風車で装ったおばあ達が空襲を受ける。
そのシーンから一気に映画のカラーが変わる展開は、鑑賞者も共に沖縄戦へと引きずり込むのだ。
対馬丸沈没事件も挿入され、悲劇度も増してゆく。
本作の主人公・島田叡が登場するのは、開始から30分後。デキる男ゆえに、軍司令官より沖縄県知事に推挙されてしまう。
神戸で家族と平和に暮らしている島田に電話が入り、その場で即決、家族に反対されるシーン。結末を知っているだけに、胸が痛んだ。死ぬのが判っていて何故そこに行くのか、家族なら止めるのが当然だろう。
この映画の上手いところは、沖縄戦下での様々な出来事を並行して描きつつも解りやすい点ある。
・県知事として責任をもって高度する顔と、島民と明るく歌い踊る顔も持つ島田の人柄は、とても魅力的だった
・血の匂いがしそうな夜戦病院では、看護婦として従軍している女学生の健気さも際立って見えた。
・官報を配る鉄血勤皇隊の少年が「もっと勉強したい」と心情を吐露するも、後に死亡する。死を覚悟して制服に着替える女学生たち。これらは若者の希望を奪う戦争の罪を表現している。
終盤、島田は避難民を誘導しながら絶望的な光景を目にする。
恐らくここで、彼は「もうダメだ」と悟ったのかもしれない。
軍からは見放され、逃げても爆撃され、幼な児を抱いたまま息絶える親達を見て、島民たちと共に生き残る希望を打ち砕かれたのかもしれない、と思ったら涙が止まらなかった。
文武両道、野球でも常に本塁生還を目指した根性のある彼が、敵に勝てないと思った刹那、さぞかし悔しかっただろうと思う。
末筆になるが、この映画は沖縄県警察部長・荒井退造氏にもスポットが当てられている。
栃木県出身ながら1943年7月より沖縄に赴任した彼も、島田同様に県民を思い、共に救おうと尽力した。
地獄のような沖縄戦の最中、島田さんの側に荒井さんがいてくれて本当に良かった、と思わずにはいられない。
野球好きだった2人が「一緒に野球をしよう」と歩き出すラストシーンは、創作だろうが悲しい最期にひと筋の光を見せてくれたように思う。
人々に「生きろ」と説いた彼だ。生き残ることも可能だっただろう。しかしあれだけの死を目のあたりした島田は、沖縄県知事として死ぬことで責任を取ったのだと私は推測している。