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時をかけるテレビ 池上彰 次郎さんの魚が笑ってる~沖縄の陶工・金城次郎~ (ドキュメンタリー NHK)

9/13(金) 午後10:30-午後11:30
公式サイト

沖縄県で初の人間国宝、金城次郎さんがやきものに描く魚は、皆「笑っている」と言う。嘉手納基地にほど近い読谷村に工房をもち暮らしている次郎さんは、沖縄戦の記憶や家族を亡くした悲しみを抱えつつ、黙々と魚を描き続けている。躍る魚、その優しい目。おおらかで躍動感あふれる独特の作品を通して、沖縄の心を表現する次郎さんの日々を伝える。ゲストはガレッジセールのゴリさん。ふるさと沖縄への思いを語る。
▪︎NHK特集「次郎さんの魚が笑ってる~沖縄の陶工 金城次郎~」(初回放送1987年11月2日)より
(以上公式サイトより)

沖縄のやきものについて、これまで意識したことがなかった。沖縄といえば舞踊や三線といった芸能面のイメージが大きい、そんな自分の認識を恥じるほど、中身の濃い番組だった。

昭和15年の壺屋の映像に、27歳の金城次郎さんが映っていた。琉球王朝から続く400年以上の伝統を待つ沖縄の焼物が、この後戦禍にさらされると思うと胸がいたんだ。

その戦争で弟2人を亡くした次郎さんは、未だ2人の遺骨を目にしていない。何処かで生きているかもしれない、生きていて欲しいと思うから、先祖供養に参加しない。
沖縄にはどうしても、戦争や死の影がつきまとう。南風原野戦病院跡での遺骨収集の様子は、生々しく悲しかった。絵に描いたような姿そのままの骨が発掘され、そばにあった万年筆のネームから身元が判明する。

そんな悲しい時代を経て、一貫して職人人生を歩み、沖縄初の人間国宝となる次郎さん。
「内地の焼き物をまねするな。そうしたら沖縄のものでなくなる」
その信念とプライドが、次郎さんの生命を支えてきたのだろう。

抱瓶(たちびん 酒器)や逗子甕(ずしがめ 骨壺)という沖縄独特の焼き物は、沖縄の生活風土そのものである。そこに一つ一つ手彫り、色付け、焼くことで職人の生命が吹き込まれ、形として残る事に"もののあわれ"みたいなものを感じた。


この番組は金城次郎さんの職人としての姿を追いながら、BGMのようにラジオ音声を配している。内容は海邦国体への天皇参加や、君が代・国旗掲揚に関する意識など、返還後の沖縄現地の生の様子がそれとなく判る演出だろう。そこが凄いと思った。
悠久な歴史をもつ沖縄のやきものと、人間同士の戦争や戦後の動き、そこに生きる業を並行して見せる番組のつくりが丁寧で見応えがあった。

番組ゲストのゴリさんが、終盤「洗骨」について語る。ご自身が沖縄出身で「洗骨」という映画を監督されたこともあり、その風習への思いも教えてくれた。
親が死に、棺桶に入れてから3年後に蓋を開ける。ミイラ化して朽ちた死者の骨を、一族皆で愛おしむように優しく撫でながら水で洗う。2度悲しむのが洗骨なのだと言っていた。
その骨を納めるのが逗子甕、今はほとんど作られていないのは火葬になったからで、これも時代の流れとしては仕方がない。
とはいえ、生と死について深く考える機会が減っているのは勿体無いことである。


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