五十嵐早香のnoteは何故、面白いのか?第8回「たこの釣餌と食べること」
皆さんは、食べることがお好きでしょうか?
人間が生きていく上で、重要なことですよね。
3大欲求の一つでもあり、食べるという行動によって幸せを感じることもありますし、力を出すための燃料というか手段として食べることもあります。
早香先生こと、五十嵐早香さんの作品には、「食べる」という行動が登場します。食べることの幸福感やその対象と向き合う時間の楽しさを描いた「孤独の早香」というシリーズがありました。ラーメン屋さんでラーメンを食べるだけなのに、彼女の視線を通して描くととても「豊かな時間」を感じられました。思えば、僕らは一日の中でどれぐらい「豊かな時間」を過ごしているんだろう、と考える時があります。だらだらSNSを追っていたり、動画を眺めている時間は自分にとって「豊かな時間」なのか、ということです。
僕が考える「豊かな時間」の一つが、自分の思考から遠く離れた人や才能に触れた時です。
それは彼女が2020年3月22日にSKEの公式ブログで発表したブログが、僕にとってはそうでした。指をスマホの画面からゆっくり動かしながら、素晴らしい内容に震えました。
読み終わった後、ああ、「豊かな時間」を過ごせたなと思いました。
そんな時間をふと、思い出したのは、彼女のこのポストからです。
ここから、彼女がSKE48在席時代に書いた公式ブログを探していくことになりました。該当のブログを見つけるまでに様々な彼女のブログを読んで行きましたが、五十嵐早香さんの文章の中で「食べる」ことは何回も登場してきます。彼女自身がラーメンを始めとして食べることが大好きということもあると思うんですが、この「食べる」という行為を幸せではなく恐ろしい行為にも変えてみせられるのが彼女の凄いところだと思います。
過去に書いたブログでは、食べてみたいという欲求を恐ろしい方向に向けた短編を書いてらっしゃいます。
さて、今回はどこかその作品の延長線上にあるような話になっています。
まず、内容に入っていく前に一言、言わせてください。
サムネイルの画像が素晴らしい!!
もう、ここで僕はワクワクしました。
写真と字のフォントと色。
完璧だと思いました。
今回は、死体を「食べる」闇バイトという、もう設定を思いついただけで、凄いなと思う短編の第1話です。
僕の好きな日本映画の一つ「メランコリック」という作品があります。
銭湯が実は死体を処理する場所になっていて、そこの店主と店員さんが殺しを請け負っている人で、うっかり東大卒のフリーターがアルバイトに来てしまってというところから物語は始まります。
なるほど、死体を燃やして処理するなら銭湯は丁度いいな、と思ったもんですが、今回の早香先生の作品は「食べる」という飢餓も防げるし、死体を無駄にしないSDGs精神あふれる闇バイトになっています。
ただですね。
死体をもぐもぐ食べることで、死体が隠蔽されるのなら、殺人も増えていきますよね。しかも、大手企業がそのサービスを始めたので、お金さえあれば安全かつスムーズに人を殺せて( あるいは、バイトの方は人を食べられて )、毎日過ごせるわけです。
これは静かな怖さがあります。
そこで始まったのが「バイト狩り」。
それでも闇バイトを必要とする上流階級の人間とそれを排除したい一般市民。闇バイトの人数は300人程度まで減りました。
で、ここまでこの世界の説明がされた後、主人公らしき「私」が登場します。彼女はバイトに向かうのですが、「初めて」のという箇所です。まだ人を食べたことの無い人物、つまり、一般市民側だった彼女。何故、バイトを始めることになったのか? いよいよ次回は物語が動き始めるのではないでしょうか。
僕は今回、この終わり方が凄く好きで、映画だったら、ここでタイトル出てくるんじゃないか、と想像しました。
また、細部の話をするとこの記事の冒頭で挙げた公式ブログの方の彼女が15歳から20年以上も闇殺人を続けていたという衝撃の事実。あの時のおまわりさんは、やられてしまったか、取り逃がしてしまったんでしょうね。そして、死体の処理方法についての描写も面白くて、確かに人間一人の身体って「食べる」っていう視点で考えたら、結構多いよな、とか、都市伝説でこういうのギリギリありそうだな、とか読みながら思考が広がりました。
最後に気になる点を挙げていくと、「たこの餌食」というタイトルを連想させることがまだ出ていないこと。おそらく次回以降に出てくるんでしょうね。僕の勝手な予想ですが、「釣餌」ってえさにすることですよね。ということは、生き物のたこに食われるのか、何か比喩としてのたこに食われるのか。
僕の勝手な予想ですが、たこって自分の足を食べることがありますよね。
ということは…と予想しています。
色々な想像が膨らむ引きのある終わり方にワクワクされた方も居たのではないか、と思います。
次回の更新までに色々と想像しながら待ちたいと思います。
きっとこの待っている時間も「豊かな時間」だと思います。
※前作は僕の2023年の暫定ベストなので、まだ未読の方は是非!!
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