Bluetoothイヤホン
三代目である
僕のBluetoothイヤホン歴を語ってみようと思う。
初めて買った初代Bluetoothイヤホン…この世にBluetoothイヤホンがある、という事を知ってから、僕はなんとなく探してはいた。
お金に余裕があって、フラッと電気屋さんに立ち寄って、良さげなものがあれば買おう、決して求めたりはせず、タイミングがバッチリ合って、出会ってしまった時に買おう、そのくらいの感じだったのだが、出会ってしまった。
確か5000円もしなかったように記憶している。本当にたまたま、なんの用事だったか、プリンタインクが切れたとかそんな理由だった気がする。
フラッと寄った電気屋さんで、Bluetoothイヤホンセール!みたいなコーナーを見かけたので、おおそういえば、探しておったわ、と思い買ってしまったのだ。
初めて使ったBluetoothイヤホンは、それはもう衝撃だった。めちゃくちゃ便利だった。
僕は、中学一年の時に、バンプオブチキンの音楽を聴くために、ウォークマン的な「携帯式音楽聴き機」を買ってもらったのだけど、あの時と同じくらいの衝撃を受けて、感激した。どこでも音楽聴き放題や!と、心は躍った。
唯一、あの当時思った欠点というか、邪魔だなあと思ったのが、イヤホンと音楽聴き機の本体を繋げるあのコードである。
すごい邪魔で、よく絡まった。僕のコードの収め方が悪かったのか、コードの調子が良かった時、僕は亀甲縛りにされていた。イヤホンのコードに責められていた。
それがだ。Bluetoothイヤホンには、当然ながらコードは無い。音楽聴き機とイヤホンは、なんと電波で繋がっているのだ。技術の進歩すごい。亀甲縛りをされる心配もない。
しかしそれが、最初の惨事のきっかけとなる。
初代
初めて買った、僕にとっての初代Bluetoothイヤホン。音質などの良し悪しは僕にはよくわからないが、とにかく最高だった。僕はラジオをよく聴くので、いつでもどこでも、しょっちゅう聴いている。
出展中ですら、片耳に装着して聴いている。
付き合いたてのカップルより、僕らはずっと、一緒にいた。密着していた。
「もうこの耳は君のものだよ」
そんな事すら、言ったかもしれない。
ある日のことだった。トイレに行った。
察しの良い読者の方は、もうどういう結末を迎えたか、気付いた事と思う。ふとした拍子に、イヤホンちゃんは僕の耳からポロッと外れ、便器の中に着座した。
「……」
たしかあの時、言葉も出なかったように記憶している。
人間は、目の前で、本当に悲惨な─ショッキングな光景を見た場合などは、言葉を発することができなくなる、という事を聞いた事がある。まさに僕はそれを、トイレで経験する事となった。
しかし僕は、思いの外、落ち着いていた。
まだトイレに入ったばかりなので、用を足してはいない。便器内の水は、汚いが、綺麗だ。
ならば手を、突っ込むか。いや、ちょっと嫌だ。ちょっとではない、普通に嫌だ。
何かこう、掴む物はないか。パンを掴むアレ。カチカチしちゃうやつ。ない。そんなものは持っていない。
じゃあアレは。バーベキューの時、炭とかを掴むやつ。
ある。アレはある。しかし、物置だ。今から外に出て物置に行くか。
いや、超めんどくさい。何か、他にないか。
イヤホンちゃんを、救出しなければならない。
トイレの端に目をやる。ブラシがあった。これしかないと思った。
迷わず、ブラシを突っ込む。イヤホンちゃんは、何故か、逃げるように、便器内を泳いだ。ブラシを、あまりに勢いよく突っ込んだからなのか。便器内の水が波を立てる。
僕は再び心を落ち着かせ、平常心を装った。
ゆっくり、ブラシ部分を上手に使って、引っ掛けるようにイヤホンちゃんの手を取る。
「OK、大丈夫だ。この手を離さないで」
息を切らしながら、なんとか救出には成功し、便器をゴシゴシと掃除するブラシで、イヤホンちゃんをサルベージできた。
良かった。そう思ったのも束の間、指で掴んだ瞬間にツルッと滑り落ち、イヤホンちゃんは再び便器の中に着座していた。
ぽちゃん、と音が鳴っていた。
ちゃぽん、だったかもしれない。
オゥ、シット!!一度ならず二度までも!!
イヤホンちゃんは、僕の耳よりも、便器の中を選んだのだ。
僕は、命を懸けてイヤホンちゃんを救出したのに。ショックだった。
僕は初代イヤホンちゃんに別れを告げた。
グッバイ。君の運命の耳は僕じゃない。辛いけど否めない。
二代目
なんか落として、踏んで壊れた。
三代目
現在進行形で使っているのが、AirPods proである。けっこう高かった。
しかし、やはり高いだけあって、すごく性能は良いように思う。
音質的な事はあまりよくわからないけれど、ノイズキャンセリングがものすごい。両耳に装着すると、水中にいるかのような感覚に陥るのだ。
あれはちょっと怖くなるくらい、周りの音がシャットアウトされる。
集中したい時などには、もってこいの機能なのではないかと思う。本当に誰の声も聞こえなくなる。自分だけの世界に没入できるのだ。
あれはぜひ一度、試してみてほしい。
本当に何も聴こえなくなる。
僕はラジオに聴き飽きたりすると、そのノイズキャンセリングを楽しんでいる。あまりに静かすぎると僕は逆に絵を描けなくなったりもするので、作業をするというよりは、ぼーっとする。
音のない世界で、目を閉じて、ぼーっとする。思考が整理されていくような感覚。浮かんでいるアイディアを、まとめていく。
不意に肩を強く叩かれた。
ビクぅ!!となって、叩かれた方向を見る。鬼のような顔をした僕の奥さんが立っていた。
「ご飯だって言ってンダロ!」
奥さんの指先には、今にも捻り潰されそうなAirPodsがあった。
四代目を買う日も、そう遠くはなさそうです。
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