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【小説】次の夜明け - aoi【ファンタジー】

- 序 -

明けない夜はない。止まない雨はない。君たちは軽々しくそう言うけど暗闇を照らすライトや、雨を凌ぐ傘をくれようとはしないよな。いや、別に君たちが間違ってるとは思わない。ただ、ふとそう思っただけなんだ。

- 本篇 -

「この国は狂ってしまっている!」
 そう言って1人の若者が赤い旗を掲げた。
 元よりこの国はおかしいと思っていた国民の多くは彼に賛同し、兵となった。この国は人口が5万人ほどの小さな国だ。国土もそれほど大きくない。馬であれば1日で端から端まで行けてしまうほどだ。
 国王は代々同じ家系で継がれており、その国王の言葉が絶対というなんとも古臭い国であった。庶民の意見も聞き入れず、またその生活をしたことの無い国王であればこうなるのは必然であろう。
 などと考えながら俺は騒々しい街の角の喫茶店でアメリカンコーヒーを啜っていた。なに、俺もこの国がおかしいと思ったさ。ただ彼のように勇気がある訳でもないし、状況を打破する切り札がある訳でもない。要は現実的で味がない、ただの小心者だ。賢明な判断だと俺は思う。
 どうせ彼が上手いことやってくれるのだから……。

 これから半年後、呆気なく革命は終わった。
 血筋の権力だけで国民を従わせていたのだ。自衛する手段など持ち合わせていない者を殺めるなど簡単な話だろう。
 革命軍が清々しい表情で帰ってきた。国民は皆歓喜した。
 ……ここまでは良かった。いや、元から禁忌を犯してしまっていたのかもしれない。そりゃそうだ。さっきも言ったがこの国の国土は小さい。国土だけじゃ国の食料の全てを賄うことができない。そのため一部を他国に頼っている。血筋だけの家系とはいえ、他国からの信頼はあった。それが一気に崩れたのだ。他国からの信用も失うのは目に見えているだろう。
 当然のようにこの国の生活は厳しくなった。食料の貯蓄が無くなれば無くなるほどに。
 そんな時、革命軍のトップが声を荒げた。
「明けない夜はありません! 今は凌ぐときです! 共に頑張りましょう!」
 聞こえだけはとてもいい言葉だ。しかし食糧難は加速し、食べ物を求めて強盗が相次ぎ、治安が悪化した。
 そもそも彼は20代前半の青年。一国をまとめあげることなど出来ないだろう。口だけばかりの政治に国民からも不安が募った。
 そんな時だ。友人のひとりが相談をしに来た。
「なぁ、今のこの国をどう思う?」
「最初は上手いこと行ってたと思う。元々俺もこの国に不満はあったしな。ただ、なんつか、前の方がマシな気がしてだな…まぁ、結果論だが」
「そう、だよな」
 あまり歯切れが良くないように感じる。
 彼は続けて、
「俺はこの国を変えたい。もっといい方向に」
「俺もこの国の今が良いものだとは思わない。しかし……」
 彼の目が強く訴えていた。
「……わかった、手伝うよ」
 そこから数ヶ月が経過した。俺たちを取り巻く環境も大きく変化した。
 まず、結論から言うと俺たちは何もしていない。正確にはする必要がなかった。
 ある日、青年が国の主導権を放棄した。彼には武術の才能とリーダーシップはあったが、国を纏める政治能力はなかった。そこからはとんとんと良くなっていった。政治に詳しい者が国を回し、他国と交流のある者を介して国交が回復して行った。
 生活に困ることも無くなったし、夜道に気をつける必要もなくなった。女子供でも1人で歩けるほどだ。俺は愛する彼女と結婚することも出来た。全てはこの国のおかげだ。
 俺たちは結局コーヒー店でべちゃくちゃ話しながら文句を言い合うよくいる連中でしか無かっただけのことだ。それでも、得られたものがなかった訳じゃない。
 俺にはライトをつけてくれる良き友もいるし、傘を差し出してくれる妻もいる。
 これ以上の幸せは無い。この幸せをかみしめて生きていこう。

 さぁ、次の夜が明ける。


- 評言 -

自分が生きている世界に言いたいことはあるけど、何もしていない自分と重ねて書きました。

自分はいなくても世界は回る。されどそのなかで小さくてもいいから喜びを見つけられる自分になりたいなと思います。

サークル・オベリニカ|読後にスキを。

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