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【月はいつも見ている 〜兎〜 】  第1章ep.02

「おはようございます!」

私が、この挨拶をしたことにより店の奥にいる何人かの男性従業員たちが、声を張り上げて返してきた。オーナー自ら挨拶は大きな声でという教育をしてきた結果。いつもうるさいと感じお客さんからもよく従業員がうるさいと耳にするが、やめようとしたことは一度もない

「かほさん、今日の予定ですよろしくお願いします。後半2本ぐらいフリーにしておきましたのでよろしくお願いします。」

この業界では、お客さん人数じゃなくて「本」と数えていく、ここでの仕事は男たちの竿を絞り出していく仕事なので、本数で数えるのは間違いはない

大きな部屋に、いくつも鏡が並べられ寝そべれるようなスペースもある控え室。

「おはようございます。」

「‥‥」

何人かは小声で挨拶は返してくれるが、ほとんど言葉は交わさない、入れ替わりが激しい業界で、みんなそれぞれ何かしらの事情を抱えてここに来ているし、1日だけの体験入店て子たちもいるので、初顔合わせになる子は何人もいる。

私は、その控え室を素通り

私のようなベテランになると固定の客がついて指名も多くなるが、ほとんどの子がフリーの客をここで待つことになる。私はこの店では人気嬢として扱ってくれているので待遇もよく控え室は、お客と対応する部屋に居れる。

ロッカーから今日着用する衣装、下着を取り部屋に入り準備をする。薄暗い部屋での接客だが、メイクもしっかりこの仕事だけ限定のメイクをする。
そうしている間お客さんが入店してくる

「かほさん、お願いします!」

「はい」

ある部屋に通され、お客がいる待合室の裏側。マジックミラーになっていて今から接客する人の顔を見ることが出来る

「2列目、左から2人目の方です」

「‥‥」「はい、大丈夫です」

指名されることは嬉しいことなのだが、恋人同士のように裸で触れ合うこともあり、思い込みが強くなりやすく「つきまとい」中にはストーカーに変貌する時がある。そうなってしまうと店を辞めないといけない状況にもなりかねないので、対応するお客さんは必ずここで確認するようにしている


「じゃぁ、案内しますね」   

「お願いします」

手際よく男性従業員が、他の案内にかち合わないよう狭いプレイルームに客を案内していく。しばらくして従業員が帰ってくる

「準備できました、ではよろしくお願いします」

自分の部屋に案内されたお客が居る部屋、ベニア板で出来たそのドアをノックする前に

軽く握った拳を鼻頭の前あたりで止め、軽く息を吸ってから、スイッチをここでも切り替える

(コンコン!)「こんにちわ!指名してくれてありがとう!」

作りに作ったキャラクター、声のトーンも若干変えて、いつまでもこのキャラは通用しないなぁ。
そう思ってると笑いが出そうに‥あぐらをかいて待っていたお客さんは口をぽかんと開け見上げている

男を勃たせるルーチンをして10分足らず、硬くなった竿を絞り出した

心の中で「はい!一丁あがりぃ!」と低い声で呟いて、表向きは黄色い声で抱き合って軽く会話をする

この日はこれを12本した。時計を見ればもう午後の10時を回っていた


男が出て行ってから、仕事の本数をここのところ増やしてきた、とことん身体を追い詰めて、帰ったら寂しく思う前に疲れて眠らせる。そんな日がここのところ続いている

「かほさん、タクシー呼びましょうか?」

「今日はいいや!なんかゆっくりと歩いて帰りたいし」

「じゃぁ駅まで送って行きます、準備できたら言ってください」

「ありがとっ」

濃いメイクを落とし、店であった客がわからないぐらいのナチュラルなメイクに変えて

「じゃ帰るね」

「お疲れ様でしたあああ!」

「うるさい(笑)」

声が大きい従業員の声に見送られ、店長自ら駅まで見送ってくれることに、外に出てあたりを見回し誰の気配もないことを確認して

「大丈夫です、行きましょう」

私のような数をこなすベテランはなかなか居ないので、店長も特別な待遇をしてくれる、特に会話をすることもなく、店長は駅まで横についてくれた

「じゃぁ、また明日よろしくお願いします」

振り返ることなく足早に店に戻る店長。

顎が痛い、股と乳首がヒリヒリする。風俗嬢の仕事が終わった時のあるあるかな‥明日は「乳首は吸わないで」って言おうかな‥

そこらでお酒の匂いがしてきそうな終電前の大阪駅。
出勤時よりも多い人の中に揉まれながらの大阪環状線。いつものように列車の最後尾に乗っていると

ドアの横に、ショートヘアー身長は170㎝はあるだろうか、近くのサラリーマン風のオヤジよりも背が高い女性が

かなり泣いたのか目を腫らして、顔を赤くして‥身体を電車が揺れるたびに大きくよろめいて、どうやらかなり酔っているようだ。こんな時間に無防備で、治安がいい日本とは言え、女ひとり泥酔。こりゃヤバいよね

そう思って見ていると、今度は肩がギュイっと上がって、頬がぱんぱんに膨らんだと思ったら喉を動かしてすぼめた

(うわぁ‥こりゃかなりヤバいなぁ)

そうしている間に、私が降りる駅に到着。ドアが開いたと同時にヨタヨタと前に進んで、つまずくようにしゃがみ、我慢していたものをぶちまけた

(ありゃあああ、やっちゃったよぉ〜)

降りる人が多いこの駅。その彼女がうずくまっているとこを避けるように人々は去っていく。普段なら私もその人と一緒に言ってしまうのだが、この日は何故かその彼女の事が気になってしまった

「大丈夫ですか?」

背中をさすって、人の嘔吐を見るのは小さな頃から母親のを見てきているから大丈夫。何分かして、後ろに駅員が通り間際に

「あ〜またかよ〜掃除する身にもなってくれよ〜」

「すいません」

私もこの彼女とは他人なのだが、思わず条件反射で言葉に出てしまった

「大丈夫ですか!あとやっておきますから」

「すいません‥立てますか?」

乱れた髪、若い女が涎、鼻水を垂らして。流石にここに置いては帰れない

「救急車呼びましょうか?」

首を左右に振る

「家はどこですか?」

「‥」

会話もままならない‥かと言って放っておけば、なんか大変なことになりそう。

「とにかく、ここでましょうか?歩けますか?」

彼女は頷いて、よろけながらも立ち上がり、駅員も一緒に改札口まで連れて行った

「切符は?」

徐々に正気を取り戻してきたようで、ポケットから切符を出した

「すいません‥」

「あ〜ぁあ!」

やっと言葉を発せたかと思うと、またよろけ出した

「家はどこですが?」

もう一度聞いてみた

「ヤベマンションです」

「あ〜!私もそこなんです。じゃぁ一緒に帰りましょう」

同じマンションだし、駅からも近いし、まぁいいか

「すいません」

今思えば、なんで私が彼女にここまでしたかはわからない。

でも、この彼女との出会いが

のちにケンちゃんとの出会いに繋がった

ほんの偶然やキッカケで人生の道筋が変わる

不思議なものです



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何事も中途半端だった今年で55歳になるじじぃ。クオリティーは求めずまずは小説を完結させることを目指して書いていきたいと思っています。 書き上げたエピソードは何度も書き直し手直しをしちゃいますので、その点を踏まえて読んでいただければありがたいです。

過食症を抱える風俗嬢と、定職をもたない6歳下の青年との同棲物語。

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