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老後の心配はいつするのか?

  
  たまに人様から「老後のことちゃんと考えてる?」と訊かれる。そういう時はいつも「何も考えてません」と答える。本気で心配してくる人もいるし、呆れる人もいる。両親はいつまで経っても私の行く末を心配していて「年をとってから貧しいとみじめだよ」と、父からこの前も言われた。だからなんだ?この年齢で今から公務員になれるわけでもないし、高給取りから求婚されるわけもない。万が一そういうことがあったとしても、金さえあれば誰でもいいわけではない。えり好みをしている場合か!と怒られそうだが、若い人の様に勢いで結婚するような気力体力など、もうないのだ。

 いや、結婚自体してもしなくてもどっちでもいいと思っている。あの紙切れ一枚でいろんなことが優遇されるのは分かっているのだが、それよりも失うものが多いのだ。もちろん、これは私個人の経験則や性格的なものが大きいので、全ての女性という大きな主語で語っているわけではない。結婚して優しい配偶者、かわいい子供を持てば、やはり結婚して良かった!と思う人も少なくないだろう。

 ところで、老後の事を何も考えていないというのは半分は嘘である。私が本気で「老後のこと」を考え始めたが最後、心の病気になってしまうのは間違いない。

 数か月前、かかりつけの精神科の担当医に「たまに破産不安が出てきます」と伝えたところ、「なぜ、そんなにお金のことが不安になるのだ?」と質問されて驚いた。破産不安は、うつ病患者の典型的症状である。うつ病や不安障害や強迫障害の患者というものは自責の念やお先真っ暗という気持ちが強く、過去を後悔し、未来の不安ばかりしているのだ。

 先日鹿児島市の小さな出版社、燦燦舎から発売された漫画、つくしゆかさん著「極度の心配性で苦しむ私は、強迫性障害でした!!」の中で、主人公つくしさんが、強迫性障害や様々な症状に苦しむ中、たまたまみつけた心理相談センターのカウンセラーからの言葉、『「過去と未来」ばかりに捕われず「今」を軸に考えたほうが良いのでは?』にも表れている。

 これは、まさに「老後のこと考えてる?」に対する、私の返答「何も考えてない」の意味なのである。多くの人が、私のこの言葉に「アリとキリギリス」を思い浮かべ、「若いときはそんな呑気なことを言ってられるのだよ。いま、ちゃんと考えて蓄えておかなきゃ将来大変なことになるのに!」との思いで苦言を呈してくださる。

 しかし、今まで生きてきて、ずっと心配していたことより、思いもよらないとんでもないことが起こり、悩まされたことの方が圧倒的に多い。つまり、何が起きるかなんて、その時にならないと分からない。そして、人生が予定通り進んだ試しもほとんど無い。その上元々不安気質の私が「何が起きるか分からない未来のこと」を心配しはじめたら、とてつもなく精神衛生上よろしくなく「将来が不安なので死にます」などと言い出しかねない。

 老後のためには2000万円必要との試算は、あくまでも「東京の人間」が出した数字だ。鹿児島の片田舎でそんなにお金は必要ない。それよりもいざという時に頼れる友人やパートナーや場所の方が大事だ。もちろん、老後に備えて最低限自分自身できる範囲のことはやっておきたいと思っている。

 後悔と取り越し苦労で終わる人生にはしたくない。これだけの話をいちいちするのが面倒なので、これからも老後については「何も考えていない」でやりすごすつもりだ。「今のことしか考えない」は決して「No Future」ではない。ある種の人たちにとっては、一つのライフハックだ。


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