金田冬一(おばけ)

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こいつ

親指を立てた握り拳のグッジョブマークを横に倒して隣にいる人間を指して「こいつ、誰?」って正面の知り合いに訊く奴がいて、俺はそいつが嫌いだった。そいつ、と言うと一人って感じになるけど、正確にはそいつら。人数もそれぞれの特徴も覚えていないけれど複数人の「こいつ、誰?」って言いながら俺を指して来たそいつら一人一人にいつか再開したら「お前こそ誰?」って中指を立ててやろうと思っている。 そういうのって、ずっと覚えてる。 それなのに、俺は今日二回も「こいつ」って言いながらグッジョブマ

    • わかった 十月に誘うわ

      中学の頃からの友だちからLINEが来た。お互いにふざけながら今月行くはずだったメシの約束をバラした。そいつとは定期的に絶縁になって、定期的にゼロ距離になる。身長も体重も同じくらいで色白でおしゃべりなところも似ていて、よく俺とそいつを間違えるみたいなノリを別の友だちにされていた。そういえば高校も一緒だった。中学二年の頃に絶縁して、高一の八月くらいからまた仲良くなった。大学は別だけどそいつを自分の大学のサークルに連れていったら俺よりもサークルの人たちと仲良くなった。サークルはイン

      • 日記2024/8/15

        夜勤明け、家にTさんがいてホットアイマスクをつけてソファーで爆睡してた。ナルトの31巻を少し読んで煙草を1本だけ吸って歯を磨いて寝た。禁煙してるって周りには言ってるけど、どうしても1日に2.3本は吸ってしまう。17時くらいに起きてYちゃんと松屋に行った。モンスターエナジーがメニューにあったのでふたりともそれを付けた。Yちゃんは最近落ち込み気味なので俺が奢った。19時頃に帰ってきて、Sに電話した。Sは会社を辞めたいらしい。中学高校大学ん時いろいろ巻き込んでごめんなって言ったら、

        • 『コウスケの風船』

           彫刻刀を版画版に突き立てて素早く表面を削るような小気味の良い音をたてながらコウスケを乗せたスケートボードがこっちに向かってくる。  コウスケの音が近くなると二人の六年生は振り返った。おれの髪の毛を掴んでいた日焼けした手が開かれる。つんのめるようにしておれは必死に目の前の丸坊主から離れて、そのままアスファルトの地面に転んだ。涙と鼻血で頭がクラクラする。マンションの向こうに見える鰯雲が俺らに関係ないくせに目立っていてむかつく。  ユウヤを助けなきゃ。あ、コウスケが来たからもう大

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          世界はバラバラでいい

          時計を発明したやつがいて、そこ(その時間)から世界はおかしくなった スリムクラブさんのネタで 「お礼にこれ、この山のてっぺんに咲いてた世界に1本しかないお花です」 …ほおぉ 「これ、5本あげます」 …世界に1本じゃないの!?……5本あるよね?! 「………」 …なんで? 「世界はひとつじゃないから」 ってのがあるけど「時計(時間)」が無理やり世界をひとつにした 2023年9月11日22時00分の日本では、歩きスマホの人 (多少の時差はあるけど) 2023年9月11日22

          世界はバラバラでいい

          日記2020+3/4/2

          #短歌 そのうちになんて信じる馬鹿だから永遠なんて余裕で待てる #tanka 必要なものを必要な分だけ荷物にしたいのに何が必要なのか分からなくてつまらない。ちょうど半分ほど捨てなきゃいけないのに全部要る気がするんだ。腐った橋はそろそろ崩れる。いっそ全部置いて……。困ったな。時間がないんだ。いやな予感が話しかけてくる。それでいいの?って。わからないよ。わからないけれど選ぶしかないのだ。まあどうにかなるよ。 寝る おやすみなさい

          日記2020+3/4/1

          #短歌 少年は錆びたフェンスに手を掛ける立ち入り禁止地区の夕暮れ #tanka 上から僕の右の手を引く誰かの手。下から僕の左手を引く誰かの手。真っ二つになれたら楽なのに。左右どちらの手に力を込めても手を繋いだまま上か下に三人で着くだけだ。二人とも僕だから。一人にしてくれろ。わかったから。まだここにいたいんだ。 寝る おやすみなさい

          日記2020+3/3/31

          #短歌 生きてれば見つかるよってジェネリックみたいなそんな言葉は飽きた #tanka 安眠できる場所がないから起きているだけだ。マジックアワー。軽トラックの荷台から見た一面のすすきと紫とオレンジ色の入道雲。大きなビルの非常階段。バナナ農園の門にぶら下がる蝙蝠。僕は知っている。安眠できる場所なんかないって。本当は安眠なんかしたくないって。眠ることも起きていることもそんなに変わらないって。僕のやっていることはあの子からしたら無意味なことらしい。自分でも意味があることなのかわ

          日記2020+3/3/31

          日記2020+3/3/30

          #短歌 ますように… 嘘の光に祈ってる どうか… プラネタリウムの流星 #tanka あれも違う。これも違う。全部違う。中途半端に勝ち気なノリも余裕のないセンチメンタルも気持ちのいい親切心も全部違う。血管を巡る思い出が僕を承認に飢えるゾンビにした。リーズナブルな感動は要らないんだ。久しぶりに会った友だちは変わりすぎてて知らない誰かになっていた。もういいんだって。憂鬱に満たされた浴槽に鼻まで沈めて泡になるのはもう飽きたんだ。もう少しなんだ。本当にもう少しだけなんだ。何が足

          日記2020+3/3/29

          #短歌 また失くすような気がして嘘をつく要らないよって平気だよって #tanka 言い訳のストックが尽きたから諦めて謝ったんだ。優秀なゴーストライターが追加分の言い訳を書いてくれたら僕はきっとそれを使う。そしてずっと逃げ続ける。意味のないループに飽きているのにコンティニューボタンを連打するんだ。ごめんね。って言う時にはもう遅かったりする。ねえ、このパーティーつまらないからふたりで抜け出さない?ふたりは後ろから撃たれた。つまらないルールで動く世界だ。生き延びるのだ。 寝

          日記2020+3/3/29

          日記2020+3/3/28

          #短歌 大丈夫平気だよって繰り返す僕は言葉をあまり知らない #tanka 困ったね。使いすぎた自慰の方法が効かなくなった。スタンプで返事をして忙しいふりをして寝返りを打つ。大抵のことは「どっちでもいいわ」なのに持論を求められる。えーっと普通に良いと思います。普通に。カレンダーに書き込まれた実行されなかった昨日以前の計画が目を細めて口角を上げて軽蔑してくる。全部間に合うから、全部間に合わせるから、そんな顔しないでよ。鏡の中に映った醜い自分に言い聞かす。大丈夫、お前は大丈夫

          日記2020+3/3/27

          #短歌 実感がなければ愛も意味ないね 一緒にビッグ・ブラザー殺す? #tanka 心臓に絡みつく生命力の高い植物を処理できる農薬を探している。内部の核がグッて上昇する時の高さが制限されている。それが邪魔でしかたない。とびっきりのスマッシュになるはずの感動も醒めるんだ。誰か焼いてよ。実感がなければ意味がないんだ。何だってそうなんだ。どかす手間と時間を払った時にはもう空いたスペースを動き回るほどの勢いは残っていない。何が(誰が)問題なのかは分かっているんだ。見えない剃刀が首

          日記2020+3/3/26

          #短歌 本当は信じたいんだ難病の猫のクラウドファンディングとか #tanka 色んな人が色々なことを言う。良いとか悪いとかやるべきだとか辞めておけとか。それ全部英語で言ってよ。日本語だとちゃんと聞き取れてしまうからさ。すべての色を混ぜると黒になってしまうんだって知ってるでしょう。頼むから明るく参りましょう。お願いだから明るく参らせてください。僕には見えない雨が降っている。あなたが差している傘がとても重そうに見えたんだ。カッパを着たら良いって思ったんだ。それだけなんだよ。

          日記2020+3/3/25

          #短歌 通り魔が現れそうなほど澄んだ空だったから遅刻しました #tanka でたらめに動いて時間を稼いでいる感覚だ。内部の底面に明けない夜が溜まっていく。ロッカーの番号も秘密の呪文も自分の顔も忘れたんだ。ウニの形をした痛い思い出が胸の中で一瞬膨らんだ。SIMカードみたいに別の心に取り替えたいんだ。もっとよく動いてシンプルな喜怒哀楽を作り出す明確な心がほしいんだ。髪を切ろうか。髭を剃ろうか。ロボトミー手術を受けようか。ほら春ですよ。もっと明るく参りましょう。ご自愛ください

          日記2020+3/3/24

          #短歌 狂ってるのはいつだって世界ってみんなが呼んでいる場所の方 #tanka 意味がわかることの方が少ない。そうなんですね!って顔でそうなんですね!って言う。LEDライトを発光させて回る巨大な観覧車。タクシーと大型トラックだけが通る真夜中の国道。欄干にココアの空き缶。歩道橋の街灯に群がる羽虫。意味はわからないし意味があるのかもわからないけれど選んだ分が終わるまで続けるしかないんだ。少しだけどまだ残っている時間をどう使おうか。 寝る おやすみなさい

          日記2020+3/3/23

          #短歌 もう何も望みたくない遥か遠く回り続ける夜の灯台 #tanka レンガの壁に背中を預けてそのまま膝を曲げて座り込んだ。狭い空は曇っている。湿った風に前髪を馬鹿にされる。肩から胸へ這って締め付ける蔦(つた)の先端は毒蛇の頭になっている。乾いた砂を入れた瓶を振るような鳴き声で毒蛇が囁く。僕は英語のリスニングの点数が低いから、牙の先から毒の雫を垂らした真っ赤な口が何を伝えてるのか汲み取れない。噛んでもいいよ。もう少し休んだらすべてを千切って、埃を払って、出発するんだ。