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文学フリマはもはや、プロ商業の場へ

先週の日曜日は文学フリマ京都に参加してきた。30冊ほど刷ったエッセイ集を携え、夜行バスに乗り朝6時に京都へ。その後、出店者である自分は10時ちょうどに会場・みやこメッセへ入場。

自分の右隣のブースは「キャンセル」と張り紙が書かれていていない。一人粛々とブースの飾り付けなどしていると、左ブースにご夫婦がやってきた。どうやら奥さんの日記本を旦那と一緒に売り込むスタイルらしい。奥さんは甲高い声で「よろしくお願いしまーす!」と私始め周囲に挨拶していた。

そして11時になると一般来場者が入場。
すると自分の左隣にいた奥さんは声を張って「こんにちはー!無料の冊子お配りしておりまーす!!」と呼びかけ始めた。ここで自分は戸惑う。事前に文フリ事務局から送られてきた資料には「大声での呼びかけ禁止」と書かれていたからだ。

奥さんは無料の冊子を配り、それを受け取った人に「見本だけでも、読みませんか!?」と見本を読むことを勧めている。じゃあ、と見本誌を手に取った来場者に「私の1月からの日記と、7月からの日記なんですう」と話しかけている。そうやって近距離で話しかけられ続けるうちに、来場者も「じゃあ一冊・・」となり、隣のブースでは飛ぶように本が売れていった。

チラと横を見ると、かなり表紙の装飾に手をかけていて、パッと見ただけでもセンスでオシャレの良い表紙はかなり通行人の目を引く。それにのぼりやポスターなど目立つように作り込んでいて、なんというかプロの場が出来上がっていた。

それに比べてどうだろう。自分のブースは手書きの値札に、素人感満載の飾りつけ。頑張って作ったZINEも、隣の立派な日記本に比べると急にみすぼらしいものに見える。盛り上がりを増す隣のブースに比べ、おとなしくて引っ込み思案の自分は通りかかる人に「こんにちは・・」と挨拶するくらいが精いっぱい。

奥さんは懸命に声を上げ続け、寄ってくるお客さんに「これ押しつけになっちゃうかもなんですけどお・・」と2冊の本をセットで買うように勧めている。もしかしたら日記本で商業出版したいけどツテもなく、文フリで○○部売れた実績が欲しいのかもしれない、と強引な売り方からそんな思惑を勘繰ってしまう。

甘い声で「喉が痛くなっちゃたあ」と旦那に話しかけている奥さんに、注意すべきか迷う。しかし大声とはどの程度のことなのか。売れてないあなたがやっかんでるだけではないのか。そもそもあなた、うちほど売れる努力をしてきたんですか?
そう切り返されたら一貫の終わりである。

「困った時には文フリ本部に連絡を」とありスマホを取り出すも、これが妨害行為にあたるのか自信が持てない。

文フリ京都会場は窓が一つもなく、閉め切っているドアも多かった。そしてその日はいいお天気ということもあり、5000人を超える人が集まる会場は熱気に包まれている。

他を圧倒する営業スタイルのお隣さんを横目に、汗を拭いながらスマホを握りしめていた時、ふと高校の時バスの中で痴漢にあった時のことを思い出した。

痴漢と言っても色々なタイプがいると思うが、自分が被害にあったのはハッキリと触ってくるというより「これ触られてる?」と判断に迷うものが多かった。

20年も前のことだが、混んでいるバスの車内で、自分の斜め後ろにいた男性が、揺れに合わせて自分の足をなぞってきた。あの時も声を上げるか否か迷った。しかし男性の隣には奥さんもいて、「万が一違ったら奥さんも悲しい目に合わせてしまう」と我慢した。あの時も、私は声を上げられなかった。

空気の薄い会場で隣だけが盛り上がる中、忌まわしい記憶を思い出していたら少し気が遠くなりかけた。
だがちょうど一番クラクラしていたその時、大好きな友人たちが応援にきてくれて、少し正気に戻った。声があげられなくて惨めな想いをした高校生の時の自分を助けにきてくれたような気がして、ちょっと泣きそうになった。

社会には余白というものがある。「確かにルール上は可能であるが、さすがにやらない」ような、人々の良識によって支えられている余白である。システムの余白をつくことは賢い人のように囚われがちだが、今回それを絶妙な感覚で体現されているのを横で見て「これが文学フリマなのだとしたら、もう自分は行かない」と思ってしまった。

もちろんいいこともあった。10名の知らない方が見本やフリーペーパーを読んで本をお買い上げくださったこと。大ファンであるnoterのハナムラタケ子さまにお会いできたこと。そして助けに来てくれた友人たちと美味しい豆腐料理を楽しんだことは、すっかり暗いイメージのついてしまった文フリの記憶の中で光る、美しい星のような思い出である。

商業の如く準備にお金をかけ、SNSを駆使し、強気の営業スタイルを取れない自分に、どうやら文フリは向いてないようだ。
そんなグチャグチャな想いのまま、みやこメッセを後にした。


(暗くなってしまってすみません、明日に続きます。明日はそこから自分の道を思い出す物語です)

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小澤仁美
最後までお読みくださり、ありがとうございます。書き続けます。

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