つい店側が特別扱いしてしまうお客さんとは
マッサージ・エステで5年間働いてきた。
「30万のブライダルコース、一括で」とカードを差し出され、震える手でゼロの数を確認したこともあれば、施術後に「実はお金がないので払えません」と真顔でおっしゃるお客さんと、警察に行ったこともある。
学生時代にしていた飲食店のバイトを含めると、接客の仕事に9年間携わってきた。
接客している側も人間なので「このお客さんは特別扱いしたい」というお客さんも中には出てくる。それは大金を払ってくれるお客さんというより、思いやりを感じるお客さんである。
接客というと高圧的なお客さんにペコペコして特別扱いするイメージがあるかもしれないが、実際には、店員にも思いやりのあるお客さんを大事にすることが多い。
例えば以前エステ店で、販売していた美容液の在庫がなくなったとき、いつも遅刻してきたり割引を強要してくるお客さんに何を言われても「すみません、もう在庫ないです」と機械的に答えてしまっていた。
でもいつも予約の5分前に来てくれたり、借りたタオルを丁寧に畳んでから返してくださるお客さんの場合「本部に確認して何とか取り寄せますので、少々お待ちいただけますか」とこっそりお伝えしていた。
特別扱いはいけないけど、店員だって人間である。上から目線で高圧的な態度をとってくるお客さんより、思いやりのあるお客さんの方を大切にしたいと思うのは人情だと思う。
ちなみに文章でも、書き手が読者の上から目線で書く文章より、書き手と読者が同じ高さを見ている文章の方が読みやすいとされている。立ち位置的にも私はできる人・あなたはできない人と区別するように書くのではなく、共に学ぶ人という立ち位置で書くのが望ましい。
強い言葉を使った方がいいのではないか、という疑問もあるかもしれない。特に昨今のSNSではバズることが一番とされ「あなたは○○すべきなんです!」「絶対に〇〇してはいけません」など強い言葉を使うよう指導している文章教室もある。
ではなぜ強い言葉を使ってはいけないのか。それは読者が書き手に依存してしまうからと言われている。心が弱っている時ほど、強い言葉は響く。この人の言う通りにすればこの苦しみから逃れられる、そんな気になってすがり付いてしまう。
接客業時代、強い言葉を使う同僚には指名客がたくさんついていた。何だかカリスマ性があるように見えるのだ。でもその同僚に依存してしまうお客さんは多かった。毎日6時間マッサージを受けにくるお客さんもいた。
マッサージ屋は自分の身体を休める時間もないお客さんや、つい頑張ってしまうお客さんのためにあるけれど、さすがに毎日6時間受けるのはやりすぎだ。その時間にラジオ体操をしたりストレッチしたりせい、と言いたくなってしまう。
お客さんとどういう関係性でいたいか。それは人によると思うけど、私はなるべくお客さんと思いやりを持って、長く健やかな関係性でいたい。
たかが言葉、されど言葉。
望む関係性を咲かせるためにどんな言葉の種をまくか、いつも意識的でいたい。