生命の科学 アーユルヴェーダ② 若返りの科学
嘘をつかない、言葉や力でほかの命を傷つけない。エゴを棄てて、へりくだった心で生きること。それが、なによりも強いラサーヤナにな
ると言われています。
アーユルヴェーダは、肉体だけでなく、心や魂からも人を幸福に、健康にする科学なのです。
―佐藤眞紀子
究極の若返り法
アーユルヴェーダのなかには、内科や外科と同じように、「若返り科」ともいうべき診療科目があります。
老化は病なので、治療法があるのです。若く、強く、うつくしくありたいと願うのは、5000年前のインドの人たちも同じこと。古典書には、さまざまな治療法が記されていますが、究極の若返り法は、クティプラペーシカという1年がかりの治療法です。
クティというのは、小屋のこと。この治療法のためだけに建てた小屋に9ヶ月間も籠もって、母親の胎内にいたときと同じように、もう一度すべての組織を再生させるという治療法です。その間に口にしてもよいのは、アーマラキーなどの薬草と、薬草を食べた牛からとれるミルクだけ。今でも、インドで2ヶ所だけは、この治療法を行っている施設があると聞き、ケララ州のトリシュール郊外のクティ(小屋)を見に行ってきました。
三重壁の若返り小屋
小屋といっても、普通の家よりもはるかに大きな建物です。それもそのはず、古典書では、まんなかの居住スペースを囲むように三重に壁をめぐらせ、直接外界の音や風が届かないように、壁ごとに少しずらした位置に窓をあけて、空間を保つようにと書かれています。わたしが学んだ大学にはその模型がありましたが、ケララのクティは、まさにその通りに作られていました。
最初のひと月は、外壁とその内側の壁の間にあるスペースで、マッサージなどを受けながら過ごします。ここはまだ外界の光や風が感じられますが、次のひと月は、さらにその内側の壁と壁の間の廊下的なスペースで過ごします。
そして最後に、いよいよ子宮にたとえられる真っ暗な中心部分に入り、誰とも話さず、ギーのランプのぼんやりとした灯りだけで残りの数ヶ月を過ごし、目や耳などの感覚器官や、知力、精神力もシャープに研ぎ澄ませていきます。
もちろん、この治療には莫大な費用がかかりますが、それでもチェコやロシアなどから、受けに来る人たちは絶えないようです。しかし、ここまでやって、どのくらいの成果があるのか? 9ヶ月間の治療を受けた人たちのデータを見てみると、確かに数値的には多少の改善はあり、写真を見ると、それなりに若返ってはいました。
しかし、わたしたちアーユルヴェーダのセラピストは、日常の治療でも、これ以上の劇的な変化を見ることが多いのです。
オイルの効用
特に、パンチャカルマと呼ばれる浄化療法の効果は絶大です。これも2〜3週間かけて行う治療法ですが、正しく行われると、象の皮膚のようだったアトピーの患者さんが、ゆでたまごのようなツルツル肌になったりすることがあるので驚きます。
どうしてこんなに劇的な変化が起きるのか? というと、体内の汚れを浄化して、身体の外へ排泄するからです。
日本のサロンで行うアビヤンガ(オイルマッサージ)のあとにも、大きな変化を見ることがあります。皮膚がワントーン白くなって、身体が軽くなり、患者さんのお顔が変わります。これも、体内で悪化したヴァータドーシャ(風に象徴されるエネルギー)が上手に鎮静された証拠です。そのためには、質のよい薬草オイルを使い、そのあとにしっかりと発汗させることが大切です。また、自宅でも、毎日オイルマッサージを続けることが、老化を遠ざける近道です。
不老不死? の果実
もうひとつ大切なのが、若返り効果のある生薬を摂ることです。
クティのなかでは、毎日アーマラキー(アムラ)という果実を食べさせられます。これはビタミンCが多く、抗酸化作用が高いことから、最近注目が集まっている生薬ですが、実は奈良の正倉院のなかにも遺されているのです。
日本でも、仏典経由でアーユルヴェーダをとりいれた奈良時代の貴人たちは、こうした老化対策をとっていたのかもしれませんね。
いちばん強い老化対策
ほかにも、食事法や運動など、多くの老化防止法がありますが、そのなかでいちばん強力なものは「心を清らかにすること」だと、古典書には書かれています。
嘘をつかない、言葉や力でほかの命を傷つけない。エゴを棄てて、へりくだった心で生きること。それが、なによりも強いラサーヤナになると言われています。このような生き方をしていれば、ストレスがないということでしょうか。
アーユルヴェーダは、肉体だけでなく、心や魂からも人を幸福に、健康にする科学なのです。
佐藤眞紀子
Satvikアーユルヴェーダスクール代表
表参道アーユルヴェーダ博物館館長
ICU 卒業後、ニュースステーションなどの報道番組で活躍。脈診の名医サラデシュムク博士に師事。スクールでの教育や翻訳、アーユルヴェーダ博物館を運営し、普及活動を続けている。
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