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鎌倉さんぽ部 古都トコトコ記 ─鶴岡八幡宮の巻─

 鎌倉に暮らして10年以上になる。
 「鎌倉のへそは?」と聞かれたら、わたしは迷わず鶴岡八幡宮と答える。
 「誰もがそう答えるよね…」と、ひとりつぶやきながら。

 鎌倉に住む(住まわせてもらう)身のわたしには、それほど心のなかで大きな位置を占めていると感じる場所でありながら、八幡さまへ足を運ぶことはまれである。
 都心に近い観光地の鎌倉のなかでも、最も大勢の観光客でにぎわう場所の筆頭が八幡さまだろう。
 いつも観光客でいっぱいなので、地元の人間はそう頻繁には伺うことがないのではないだろうか。
 わたしも、いつもは「遠くから来る方優先で」と思っている。
 それでも、どうしても八幡さまへ行きたくなる時期があるのだ。
 それは桜の季節と蓮の季節で、八幡さまの源氏池と平家池はどんなぐあいかなと花を見に行きたくなる。

 八幡宮へ通じる段葛は道の両側に桜の樹が植えられていて、いつもなら人疲れしてしまう行程も、桜の季節は心楽しいものになるのもいい。
 池を縁取るように咲く満開の桜は、今年も花を見ることができた喜びを、日本に住むことの喜びを、大勢の人たちに与えてくれている。
 そして春が過ぎ、夏ともなれば、同じ池とは思えないほど様変わりをする源氏池と平家池。
 池いっぱいに蓮の大きな葉が、風にふうわりふわりと揺れながら、ピンクと白の大ぶりな花を葉の上に掲げている。
 夏の暑さのなかで咲く蓮の花は、まさに極楽浄土のシンボルにふさわしい美しさだ。

 この池には鯉や亀のほかにも水鳥が飛来してきて、多くの生き物たちの生息地でもあるのだが、「危険! スッポン注意」という立て看板があり、池のなかに目をこらせば、亀を少し大きくしたようなスッポンが泳いでいるのを見ることがある。

 一度、びっくりするほど大きなスッポンを見たことがある。
 頭だけしか見えなかったけれど、夏みかんくらいもある大きさの頭を持っていた。

 「あれって…河童みたいだ」と、心の声。

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 桜の季節、満月の夜ともなると、河童の子らはもうどうしても我慢ができなくなり、お母さんに「人間に見られるから池の外にはけっして出てはいけませんよ」と言われたことを忘れて、弁天宮にかかる橋に腰かけては、草笛を吹くのでありました。
 また蓮の花の季節には、大きな葉の陰で河童の子どもたちは、かくれんぼをすることもありました。
 そんな物語が、ふと浮かんでくる。

 八幡さまの二つの池は、いろいろな魅力を持っている。
 桜の季節と蓮の季節、わたしは八幡さまの源氏池と平家池を見に、これからも足を運ぶことだろう。                 (文/N)

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