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1枚の切り札はなくても手元には複数の防御札




久しぶりに親父と一定の間電話した

彼の血をまんま引いたあたしは 電話越しのお互いの声のぎこちなさにむず痒さくなった


いつものようにべろべろに酔っていたクソ親父は いつものように母親との結婚からあたしが出来た今までをべらべらと語り出した

元々 子供が欲しくなかったのだと散々に言われてきた

だけど今はお前の幸せしか考えてないよ

幾度となく傷つけられた覚えしかないけれど 弱さを一切許さない彼の甘さ




川から拾って来たと言われていた 2人を足して引いて掛けて割ったあたしにも 2人とかけ離れたところがいくつかある

その中でも圧倒的に1番なのが運動



小さい頃気管支が弱いからと入れられたスイミングスクールの2階が体操クラブだった

25mプールから眺めたその景色はあまりにも魅力的で


日曜のプリキュアが終わり次第すぐに家を出ることになったけど その早い朝も苦痛でないくらい体操は楽しかった

そして朝イチの体操が終わって スイミングのクラスが始まる前は必ず腹痛を起こしていたのを思い出す




両親共に球技が出来る

元卓球部キャプテンの母親と 中学から始めたにも関わらず1年でスタメンだった元バスケ部の親父

代わりに母親はカナヅチだし 父親は体操や陸上の類がもっぱらダメ

普通に生活してきて人並み以上には出来た球技なんて 彼らにとっては歯を磨くこととなんら変わらなくて

自分達が出来ないことを子供にさせた結果 真逆の子へと育ってしまった


そして球技が知識すらない代わりに 平らな場所さえあればどこでも側転やらロンダートやらしていたあたし

今でも体操競技の床が1番好きなスポーツ

入った入らないの点数を競うよりも ヒトの身体が生む美の限界に挑んだような個人競技が好き

パルクール フリーランニング 床 走り フィギュアスケート

あたしを虜にして堪らなかったものたち


中3の時 野球の夏季大会に応援でスコアボードの12の数字を見て 野球は12回まであるものだと思っていたくらい

その後 9回が終わり逆転のチャンスなく大惨敗で負けた結果を伝えてると 両親はその事実に驚愕し落胆した




それでも球技が全く出来ない訳では決してなく人並みに楽しめるレベルには出来る

そしてそれは体操に至っても同じで

側転やロンダートの基礎的な技が完成度を伴うくらいには完璧に出来る一方で バク転やバク宙の高難易度の技はできない

所謂器用貧乏なのがあたし


ずっとそんな自分の性質が嫌だった

何でも出来て 何にも出来ない

全てが平均な自分



父親にそのことを愚痴った

彼の一点に長けたその性質が羨ましいと


すると彼はあたしのその器用貧乏な性質が羨ましいと返した

いいか 1から2に質を上げるのは簡単なんだ

何事も数をこなせばそれなりに極まってくる

身体が慣れるんだ

ただ0を1にするには相当の努力が必要だ


結局ここでもないものねだりかと思いつつ その言葉に救われたあたしがいた

確かにあたしは1を10にする才能はあると思う

一方で0を1に 何もない場所から創り出す才能は皆無だ

だけど自分の手持ち札で生き残ってこれるだけの力はある




出来ないことを嘆いたって元々の力は顕著になるだけだ

幸運なことに自分が出来ることとそれらの伸ばし方は知っている

だったらもう指標は立った

あとは走るだけ

あたしの大好きな個を高める時間だ
















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