差添い(さしぞい)
温泉に行った時、「あっ」という声がして振り返ったら、おばあさんが支えられていた。
どうやら、転びそうになったおばあさんを見知らぬ人が支えてくれたらしい。
付き添いの娘さんが支えた人にお礼を言った後、「ちょっと目を離すとこうなんだから。」とおばあさんに言った。
その声に不機嫌な感じはなくて、朗らかだった。
見る人が見れば、足元がおぼつかない老人から目を離すと怒るかもしれないけど、意思ある人間をずっと見張っておくのも無理がある。
支える人は一人でなくてもいいのだと思う。もっと言えば近しい人でなくてもよい。
「ハンカチを落とした人がいたら拾ってあげる」くらいの親切心で、人を少しだけ支えてあげてもいいのではないかと思う。
そのくらいの距離感で手伝う感じの方が、支えられる方も気が楽だ。
温泉から上がると、先ほどのおばあさんが瓶牛乳を飲んでいた。
一人で静かに座っている姿を見たら、こちらもゆったりとした気分になった。