#メディア芸術祭 公募展中止、理由がわからなかったので徹底的に調べてみた。
本エントリーについての続報があります
[8/31] どうやら本気で終わるらしい - R5概算要求から読み解く #メディア芸術祭 の未来
[9/19] Facebookコミュニティ「「文化庁メディア芸術祭とこれからを考える会」が長谷川愛さん塚田有那さんらによって作られました。
[9/21] Google Formによるご意見収集を開始しました(9/27まで)
[9/24] "さいごの"文化庁メディア芸術祭にいってきた" #メディア芸術祭終わらないで
(事の起こり)
先日の朝日新聞記事に、ついツッコミを入れてしまった。
ふだんは頑張って我慢しているのに。
文化庁メディア芸術祭、終了へ 今年度の作品募集せず「役割終えた」:朝日新聞デジタル (神宮桃子 2022年8月24日 21時02分)
新聞社は続けられない理由を取材しては?
メディア芸術祭の件、新聞は朝日新聞しか扱っていない、加えてチープで表層的&煽動的な書き振りで、文化の在り方を考える上で非常に問題あると思う。「続けられない理由を取材しては?」という記者さんに対する気持ちは、社会に対して何か荒立てた過激な行動を促したいというよりも、むしろ新聞が文化や文化政策を扱う上で純粋にもうすこし突っ込んだ取材なり記事化をしていただきたいという気持ちからだった。
少々長めのツイートチェーンで書いたことを、引用しながら補足を以下に綴ってみた。怒りにも似た気持ちはあったけど、先ずは冷静になりたいと思った。
しかし調べるとなると、あらゆる視点でファクトを調べてしまった。
この記事に社会派として攻撃する意図はありません。
ノスタルジーで「メディア芸術祭おわっちゃうんだ…」というふんわりとらえようと思ったのですが、平成から令和のこの分野25年の頑張りが否定されたような気持にもなったし、調べてみたら税金の使われ方の調査という意味で疑問に思う要素もそこそこ出てきたし、まずは1万6千字ぐらいの調査はしてもいいのかなと思いましたので、期間限定で公開します。
要約
ファクトベースでは以下の通り。
・メディア芸術祭の公募展が終了すると宣言された
・メディア芸術祭の展示会の実施と、公募の実施は異なる団体が委託事業として実施している。
・平成から令和にかけて、公募展をやめようとしていた気配はある
・実施者であるCG-ARTS協会に問題はなさそう
・公募展の予算は委託事業として存在している、しかし実施する公募(入札)は出ていない
報道ベースでは、
・メディア芸術祭公募展だけではなく、メディア芸術祭自体が25回で終了する(ITメディア・文科省)
書いてみたら、公募展だけでなく、メディア芸術祭そのものを終了するための段階的な空気づくりであることは感じられた。
いちファンとして、決定に異を唱えるつもりはないのですが、目の前で見てきたことを、誰も知らないままにして終わるのは、そこで育ってきた大人がすることではないなと思い、勇気を出して筆を執ってみました。
みんなも何か感じたら書こう。
これこそがメディアアートです。
メディア芸術祭の思い出(抜粋)
ファクトに入る前にエモーションや自分の立ち位置を並べておきます。個人的な思い出はたくさんあるのですが、近しい指導者だった草原真知子先生の影響もあり、第1回からエントリーしていた記憶があります。
https://twitter.com/o_ob/status/1562683848894271488
ファイナルファンタジー7に負けたら、そら辛いわ…。
という残念な気持ちになりながらも、時のオカリナやメタルギアソリッドの頃にはゲームエンジンの仕事をしたりして、博士課程に戻ったときは学生CGコンテストにも応募したり、一時期海外に渡ったときも、海外から応募したり、帰国時に展示を見に行ったり。
あとは、基本設計に関わったけど、その後退職してしまったのでチームから抜けたこちらの件が受賞したのは嬉しかったですね。
アナグラのうた~消えた博士と残された装置
第15回(2011)エンターテインメント部門
http://archive.j-mediaarts.jp/festival/2011/entertainment/works/15e_Song_of_ANAGURA/
東日本大震災でとても大変な時期だったのですが、受賞本当におめでとうございます。そしていまでも未来館で常設で動いています。
公募がなくなった時点で嫌な予感はしていた
実は、とある海外作品を「日本の文化庁メディア芸術祭に応募してみては」という話をしていた時に『公募がないのでは?』という点に気づいていた。いつもだったら締め切りが近いはずなのに。実際こういうやり取りは多い、自分の作品が採択されるほど私はえらくはないけれど、毎年のように図録を買って、超有名なゲームや映像作品、そして広すぎる世界の現代美術の世界から、新しい作品に公募を通して出会うことができる、「メディア芸術」という分野の、無冠のプレイヤーでもあり、いちファンなのだ。
朝日新聞が使っているカバー写真「Pendulum Choir」自体が、そういう「行ってみないと出会えない、価値がわからない」、そういう存在だったと思う。
当時、自分が公募展に応募した作品があって「それを上回る作品は何だったんだろう?」という感じに会場に観に行く。審査員の選奨とかには絡んでいて、会場に見に行ったりシンポジウムを聞きに行ったりはする。こういう人は多くはないのかもしれないけど4千件近く応募があれば、もちろん私のように「応募したからこそ、観に行く」という人はそれなりにいるはずだ。
なお「Pendulum Choir」は、映像で見るのと、実際に見るのとは全然違った。音がとっても立体的で、ばかばかしさが非常に良かった。明和電機とは異なる趣がある。
公募展は権威付けだけじゃない、交流にも役に立つ
公募展での権威付けの犠牲にはなったけど、「実際に見ないとな」、という体験は「Ingress」が受賞したときだろうか。
相模Ingress部を運営していた私としては、受賞はなんだか複雑な気持であった。盛り上げてきたのはユーザであり、受賞するのはNianticである。でも米光先生や飯田さんらとともに、実際に青山墓地などを使って、体験ワークショップやマップを配布したりさせていただいた。
なんというか「公募展で賞をとるのはえらい」というのは、そういう権威付けのような面もあるけれど、メディア芸術って、作り手の権威づけのためだけにあるんじゃないんだな、コミュニケーションとか、その芸術を文化として醸成していく過程にあるんだなという善良な市民としての解釈をしていた。
この記事を読むまでは。
「一定の役割を終えたのでは」なるほど。
芸術選奨について
芸術選奨。令和3年度はよしながふみさんと小島秀夫さんが授賞でした。
審査員はこちらの方々。お疲れ様です。
うーん、でもやっぱりメディア芸術「祭」とメディア芸術の公募展を行わないのと、芸術選奨に含まれているのは「同じこと」ではない気がするよ。
どう違うのかについては、やっぱり権威付けの面だけでなく、「コミュニケーション」なんだと思います。
たしかに「文化庁メディア芸術祭授賞」って書くと、マンガは売りやすいと思います。でも使う側としては「本屋大賞」でもいいのですよね、それって。「国書として指定」みたいな響きがあるのがいいのでしょうか。
何千件もエントリーされた中から、審査員の先生方に並べられた推薦エントリーを選んでいくなら、まあ結局は同じことかもしれない。それでも冒頭に書いた通り「俺はエントリーした」というスタートラインには並んでいるのだから、やっぱり公募は違う。日展とか二科展とか院展のような公募展もあるし、いちおう走るようなスピードで審査員が全部見ている公募展もあるけれど「文化庁メディア芸術祭」という「祭」が付いた公募展はやっぱり違う。「祭りを盛り上げよう!」という気持ちで応募するんだもの。
ところで審査員でもあった美術家の中ザワヒデキ先生は第19回、2015年の段階からかなり尖ったご意見を述べられているようです。
「メディアを取って芸術祭で勝負」もしくは「門戸を狭める」、なるほど。おっしゃることはごもっともとは思います。
なお審査員が固定化しているのかというと、そこまででもない。
審査員選ぶのも大変だろうなという気もします。
学生CGコンテストは続いている
同じ画像情報教育振興協会(CG-ARTS協会)さんが、文化庁メディア芸術祭と並列して実施していた「学生CGコンテスト」を「Campus Genius」コンテストにした時(2014年)にも、何だか似たような感じを受けた。
「もうCGじゃないでしょ」とか、もちろんわかるんだけど、これは門戸を拡げてしまった例。最初の審査委員会は全部ライブ中継だったけど、えらい先生方が一方通行で殴りつけている感じがとても気持ち悪かった、その後は良いコンテストになったようにも思う。そもそも作品集めるのが大変だと思う。CG-ARTS協会さんお疲れ様です。
余談ですが、学生VRコンテスト「IVRC」も長年運営しているけど、2020年にリニューアルしました。毎年100件ぐらいは集まるコンテスト「 International collegiate Virtual Reality Contest」が、リニューアルして「Interverse Virtual Reality Challenge」 になりましたが、相変わらず100件ぐらい集まっています。代替わりは大変でしたが、実行委員会の先生方が真剣に集まって、生まれ変わりを遂げました。
本当にやらないのか、なぜやらないのか。
いちおう報道とともにファクトを調べていきたいと思います。
公式を見ても「作品の募集は行わないこととなりました」という1行のみ。
今後のメディア芸術祭自体の開催の予定については何も書いていない。
そして理由がない。
美術手帳による記事
もうちょっと記事として深堀してもいいのでは
落合陽一先生、完全に過去形じゃないですか?
学生さんとか、公募にチャレンジしたほうが良いのでは…何かビジョンがあるなら聞きたいです。
その後ご返信いただきました。
(最初のつぶやきのあとで気づいたのですが、もしかして文化庁に関係が近い先生方には箝口令が敷かれているかもしれないです。そんな中で最小限でご返信いただいた落合陽一先生には感謝です)
ところで文化審議会第20期文化政策部会については文末に補足しておきます
ITメディアによる記事
現状(8/28)、インタビュー中心ではありますが、一番まともな記事であるという印象がありますが、実はどこにも書いていないことが書いてあります。
なぜ冒頭から文部科学省に訊いているんだろう?これってソースはどこにあるのでしょうか。まあ文化庁の管轄は文科省だけど。
公募展ではなく、「メディア芸術祭が終了する」という記事になっています。
「第25回受賞作品展でメディア芸術祭は最後となる」と明記されています。
やらないのは公募や公募展だけではなく、メディア芸術祭そのものを終了させるという文科省の代理報道になっているようにも読めます。
まるで「官製芸術」扱いですね…。25年、お役所の人事交代を考えても3年x8世代ぐらいの担当者が続けてきたメディア芸術祭が「どうするかと見直している段階」で公募をいきなり終了、加えてITメディアを使って終了予告とは、なかなか思い切ったことしますよね。
文化庁のパブリックコメントは「文化芸術推進基本計画(第2期)の策定に向けた意見募集の実施について」があったけど、8/12で「募集は終了しております」という状態。
https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/index.html
つまり「役割を終えた」なんてことを書いているのは朝日新聞か、朝日新聞に語った担当者が勝手に言っているということですかね…。それ以上に、ITメディアも、誰が言ったかわからない記事で「メディア芸術祭終了」の空気を作っているのですが。
「悲しい」、そういう気持ちもありますが、中学高校の教科書にまでなって、大学にもそれを専門としている人々がいるメディア芸術がいきなり終了するってどういうことでしょうか。メディア芸術、メディア技術を使ったインスタレーションと狭くとらえても、広く「漫画アニメゲームなど」、いわゆる中国語では「ACG」を含めても、「クリエイターからもヒアリングしつつ」ということであれば、できるだけ早い段階で意見収集を行ったほうが良いと思います。
ITの上での歴史、過去の事件と今後の問題
実は「メディア芸術祭がなくなる」という話は今回が初めてではありません。実は過去には派手にドメイン丸ごと消滅したことがあります。
消滅の境界にあるのは、平成23年度(第15回)文化庁メディア芸術祭 です。
東日本大震災があった2011年ごろの出来事ですが、企画競争による公募落札情報と、国立新美術館のウェブサイトにほんの少しだけファクト情報が残っていたので紹介します。
落札会社 財団法人NHKインターナショナル
落札金額 258,599,253円 契約日 2011/04/01
主催が文化庁と新美術館になって、NHKインターナショナルが委託事業を受けた時期があるのです。
そのころのメディア芸術祭のウェブサイトは、記載されている通り「megei.jp」になりました。現在、このドメインはギャンブル情報サイトになっています(あえてリンクしませんが)。
そしてそのころのメディア芸術祭のサイトは jmaf.jp というドメインに置かれていました。こちらは国会図書館にもアーカイブされていません。
2013年4月ぐらいのインターネットアーカイブを見ると、文化庁の plaza.bunka.go.jp からjmaf.jp にリンクしている様子が残っていますが、サイトは残っていません。文化の消失です。
なお一般社団法人NHKインターナショナルも、私がかつてポスドク時代に所属していたNHK-ESや交響楽団などと共に統合が実施されるようです。
そんなわけで「メディアアートの歴史がある日突然消える」という出来事は起きたことがある出来事なので、自家製バックアップ取ってみました。
さらに j-mediaarts.jp が消滅したとしても、いちおう国会図書館にはアーカイブが残っていることがわかりました。
2021年時点のクロールですがこちらのリンクから辿ることができるはずです。
お金がないのではないか?という視点での調査
経費が掛かりすぎているのではないか?予算の確保ができていないのではないか?という視点でも調査してしてみます。
また以前にも学生CGコンテストの変革や、メディア芸術祭関連の公募事業、それからメディア芸術関連の委託事業は文化庁直接ではなく、CG-ARTS協会さんが公募→受託して実施という形態が多かったので、公募入札やWebサイトの維持を中心に調べてみました。
このまま、CG-ARTS協会さんがメディア芸術祭の事業やサイトの維持を受注しない場合は、ドメインやコンテンツの移管が行われるべきですが、その辺はどういった契約になっているのかは不明です。
まずはどんな予算によって実施されてきたのかを調査してみます。
文化庁メディア芸術祭の予算確保について調べてみた
文化庁予算の概算要求を見ていました
この時点では特に問題なさそう
令和4年度 概算要求の概要
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/pdf/93352001_01.pdf
令和4年度 予算の概要
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/pdf/93692701_01.pdf
たしかに、概算要求→予算までで2100万円が減額になっています。隣に「プレゼンスキルの向上、ビジネスノウハウサポートのための講座」などが削られていますがメディア芸術祭「地方展」なども含めて特にスケールダウンや中止がうたわれている内容ではありません。
というかこのまま特に明確な理由や審議もなく「不実施」となると文化庁や文部科学省、財務省は予算不履行となって困るのではないでしょうか?
過去の公募入札データから調べてみた
文化庁の公募はこちらから出ています
過去の仕様書を発見しました。
・平成28年度 文化庁メディア芸術祭の企画・運営民間競争入札実施要項(案)
・平成29年度 文化庁メディア芸術祭の企画・運営民間競争入札実施要項(案)
まずはフェスティバルの運営費用。
前の年度で次年度のコンテストの企画運営を行っているようですが、平成30年度の実施以降の仕様書が見つかりません。先の資料でも予算としては実施に入っているはずです。
・平成30年度文化庁メディア芸術祭の企画・運営の実施状況について(令和元年6月20日文化庁)
気になる点としては3点。
・入場者数が減少している
・2021年に行政レビューにかけられている
・コンテストは公募が出ていないが地方展は公募がある
報告書から読み解く
まず報告書としては「応募作品について 70 以上の国と地域数からの応募、3,900 以上の応募作品数を確保すること」という要求に対して、「102 の国・地域から 4,384 点の応募があり、要件のとおり達成した。」とあります。そして「受賞作品等を発表する記者発表会には、50 以上の報道機関の出席を確保すること」→出席者は 17 機関 24 名であった。
「受賞作品展には 50,000 人以上の来場者数を確保すること」→42,023 人が来場した。
つまり、コロナ前、平成30年度の実施において、来場者数と報道機関の集まりが良くなかったことが見受けられます。
行政レビューから読み解く
令和2年度文部科学省行政事業レビューシート
令和3年度文部科学省行政事業レビューシート
神エクセルでとても見づらいのですが、かなり具体的に把握できるようになっています。
令和2年度
支出先10社リストなどもあるので興味がある人は観てみてください。
令和3年度
こうしてみると6200万円で実施していたんですねえ、公募展。
行政レビューのシート、他にもいろいろ気になることはありましたが、行政レビューを書く側の大変さも思い出して泣きそうになってきたので、いったんここで終わっておきます。
コンテストは公募が出ていない、が地方展がある
Google で「文化庁メディア芸術祭(コンテスト)の企画・運営」というキーワードで検索してみると、平成30年度までは総務省の公募データベースに情報が残っていますが、令和に入るとコンテストの公募仕様書である「実施要項(案)」を発見することができません。
・令和3年度 第24回文化庁メディア芸術祭(コンテスト)の企画・運営
・令和4年度 文化庁メディア芸術祭(コンテスト)の企画・運営 2021/10/01
は民間の自動生成一般公募入札で出てはいますが、有料でしか閲覧できず、その後どのように実施されたのか、追いかけることができませんでした。もしディスクロージャーデータをお持ちの方がいらっしゃいましたらお伝えください。
文部科学省調達予定情報には情報がありました
前年度文部科学省調達予定情報(令和3年度)
https://pf.mext.go.jp/gpo3/kanpo/gpoIppanProcur_P.asp
その代わり、公募データベースには「地方展」の公募を見つけることができます。
・令和4年度文化庁メディア芸術祭地方展の企画・運営 登録日 2022.01.12
また実態調査報告書があったので紹介しておきます
令和元年度 メディア芸術分野実態調査 報告書 令和2年3月27日
https://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/artscouncil/mediahoukoku.pdf
マンガ・アニメーション分野
戸田康太(独立行政法人日本芸術文化振興会プログラムオフィサー)
ゲーム・メディアアート分野
小林桂子(独立行政法人日本芸術文化振興会プログラムオフィサー)
CG: Computer Graphics
CM: Computer Music
IA Interactive Art
DM&SA: Digital Musics & Sound Art
CA: Computer Animation
HA: Hybrid Art
AI&LA: Artificial Intelligence & Life Art
DC: Digital Communities
u19-c: u19 – CREATE YOUR WORLD
アルスエレクトロニカがこのように変化してきているというデータを見るのもなかなか貴重な機会だと思います。インタラクティブアートという分野がなくなっており、デジタルミュージック&サウンドアート、そしてu19部門がしっかりと存在しています。
テクノロジーを使ったアートはどこへいくのか
ここまでのデータやファクトを読んでみると、まず「メディア芸術」と呼んでいる分野のうち、マンガ、アニメ、ゲーム(ACG)は出版芸術、商業芸術として十分に市場が成立しており、文化庁が保護したり応援したりする要素があまりないように見えます。一方で、原理的メディアアートと呼んでいた分野、つまりインタラクティブアート、インスタレーション、ネットワークアート、テクノロジーアートの分野は、結局はそのアート分野の定義があいまいなまま変遷していきながら、八谷和彦先生の言うように「世間に溶けた」のではないかと思います。
また、データを見ると、クリエイターの規模に対して、公募展が多すぎるように思います。
理系アートという文化をもう少し大切にしてほしい
テクノロジーアート、理系アート、呼び方はなんでもいいのですが、もう少しアートとテクノロジーの融合分野を大事にしてほしいです。
本来、技術と芸術は「術」(arts)であり、大きな隔たりはなかったはずです。
理系アートが秀逸。『第22回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展』 : アートの定理 http://theory-of-art.blog.jp/archives/29421025.html
ちなみにこの (euglena)さんのwatageですが、こんな事件が起きています。
文化庁芸術祭受賞作を紛失 作者に伝えず勝手に交換: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45814600X00C19A6CC0000
理系とか文系とか関係なく、作品の破壊と勝手に修理して秘密にする…なんて行為は如何でしょうか、これが重要文化財だったら犯罪ですよね。
芸術科学会副会長という立場から考えると、これからはせめて「メディア技術を使ったアート」は物理的展示に限定せず、AIを使った芸術としてもしっかりと存在していくでしょうし、アルスエレクトロニカでもしっかりと残っているので、明確なジャンルとして残していかねばです。
https://twitter.com/o_ob/status/1563833074802012160
また、現在の日本の文化庁がメディア芸術分野で推し進めている「メディア芸術データベース」があります。これは見方によってはAIを学習させるためのデータセットの手前になる存在とも考えられます。コンテストなども開催れていますが、図書館情報的な整備だけでなく、もっと実用的で本格的なAIとメディア芸術・メディア芸術産業のデータセットの整備、そして何より法整備を進めていただきたい気持ちもあります。
CG-ARTS協会さんに問題あるかという視点
平成から令和のメディア芸術祭において起きた出来事を2つ挙げると、コロナによる展示イベントコストとを20年間支えてこられたCG-ARTS協会、そして文化庁メディア芸術祭事務局部長だった阿部芳久氏のご退職(現在、嵯峨美術大学 客員教授)があげられるかと思います。
令和4年度文化庁メディア芸術祭(コンテスト)の企画・運営が今まで通りの公募入札とならなかった背景はよくわからないのですが、もしかすると行政レビューの影響もあるのかもしれません。そもそも平成30年度には公募型の文化庁メディア芸術祭は終わっていて、なんとなく概算要求や予算書には乗っかっているけれども、どういう形態で実施するのか見当がつかないまま、いままでの貢献者だった阿部さんはいないし…で、ズルズルとこの状態になってしまった、という事なのでしょうか。
仕様書が出ているかどうか?という視点と、CG-ARTS協会さん以外でも務まるのかどうか、という視点。
CG-ARTS協会は比較的小さな予算で存在感のある仕事をしていた。CG-ARTS協会以外の実施者、たとえば過去にはNHKインターナショナルでも実施していた実績があるので「CG-ARTS協会じゃないとダメ」という癒着ではない。この移行期のおかげもあって、平成末期のメディア芸術祭は仕様書もしっかり書かれており、Webサイトの移行メンテナンスについてもうたわれている。一方でほかの団体で同じようなきめ細かな公募展が実施できたかどうかについては、現時点でも問題があって、作品の保全とか、実施コスト効果的にも(展示会予算に対して)こんな小さな予算でやること多すぎるのではないか?とか数値目標を高く設定しすぎなのではという印象はあります。Webサイト移行メンテナンスについてはうたわれていますが、このまま移行先の事業者がみつからないと、 や のように、インターネットの藻屑に消える可能性はないとも言えないです。
誰に訊いたらいいのかはだいたい見えてきた
ITメディアの報道では何故か文科省側のご意見に忖度した記事になっていました。それにそもそも行政レビューの視点では、別の団体でも務まるような実施をしなければならないよう圧が掛かっていると感じます。そもそもの視点では数十年続けるような公募展は直接運営以外は難しい。じゃあやれないのか?というとそれについては無印の「メディア芸術」ではなく「芸術選奨」がある。そしてマンガもゲームも芸術選奨しているからもういいですよね、というところ。
じゃあメディアアートは文化財として保護される必要はないのだろうか?寺院仏閣に継続的な補修が必要なように、無形文化財に能楽堂が必要なように、メディアアートにはフェスティバルが必要なのではないだろうか。
ここまで調査してきて、文化庁大丈夫ですか?という気持ちが強くなってきました。いままで「メディア芸術」と呼んでいたものは、相変わらず官製芸術だったのでしょうか。メディア技術を使ったアートや、イベント、YouTube動画、社会現象、ネットミームなど、文化庁がわざわざ「萌芽的な分野」として擁護する必要はなくなったとしても、メタバース時代にみんなでフェスティバルとしてメディア芸術を共有する場をどうしたいのか?褒め称えるお祭りをいきなり終わらせておいて、連続的なビジョンなくして「はい終了」というのは、ずいぶんと思い切った判断かと思います。
今回の調査によって、この「メディア芸術祭公募展の中止」がどのあたりの方々のご判断で実施されたのは見えてきました。
公式な窓口はこちらになります。
https://www.bunka.go.jp/koh.../sonota_oshirase/93731801.html
<現在のご担当>
文化庁参事官(芸術文化担当)付メディア芸術発信係
文化戦略官 林保太
参事官補佐 吉井淳
メディア芸術発信係 岩瀬、五十嵐
電話:03-5253-4111(代表)
それから行政レビューにおける文科省側のご担当さま
平成2年度 (芸術文化担当) 参事官 梶山正司
平成3年度 (芸術文化担当) 参事官 山田 素子
阿部さんのご指摘の通り、政府の各省庁が毎年8月末までに大蔵大臣に提出する「概算要求」の時期には何かしらの説明が出てくると思うのですが、このブログが上記のご担当者さんや文化庁長官・都倉俊一さんの目に留まることを祈ります。
文化庁の他の施策に対する不満
最初は朝日新聞に対する記事のファクトを調べていただけだったので、文化庁を批判するつもりはなかったのですが、その他の施策についても不満があったりもしますので、最後に少しだけ書き綴っておきます。
特に、改正著作権法35条の中にある、「授業目的公衆送信補償金制度(sartras; サートラス)」。権利解決大変すぎだし、学校の先生方は真面目なので「公的機関から問い合わせが来たから解決しなきゃ」となります。
実際には無作為抽出された(しかし公表されている)学校で使われたかどうかだけを調べて、補償金はとりまとめ団体に渡す、という運用になっているようですが、これはレポーティングコストが高すぎます。
https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/figure.png
何が問題かというと、大学の講義などでは90分の講義で使用する資料の数は10や20ではありません。また自分の著書や論文、YouTubeの動画などもあります。これらをすべて「資料」としてカウントすると、50~100件ぐらいになることもあります。ちょうどフルペーパーの論文1本/8~10ページを紹介しようと思ったら、その引用論文はだいたい30-50件はあるでしょう。その引用先の論文は国際的には「フェアユースの範疇」ですが、このルールはそうではないという解釈をします。そしてZoom等の利用を「公衆送信と見做す」となると、受益者はとりまとめ団体であるにもかかわらず、ただでさえ圧迫されている先生たちの時間を集計作業や報告作業、ライツ記載作業に投じるという事にはなりませんでしょうか。
たとえばYouTubeであれば音楽についてはコンテンツIDで管理されています。アップロードすれば検出されるのですから、コンテンツの利用報告についてはこのような形式をとることができます。TuneCoreやYouTubeと交渉すれば解決すべき問題を、新たに受益団体を選んで立ち上げてしまっている状態です。問題は「教育目的/フェアユースの定義」と「報告コストの圧縮」であるにもかかわらずそれを増やしてしまっています。
先生と呼ばれる方々だれもが、国家公務員のようにレポーティング能力が高く、固定給で働いている方々ではないので、なかなかこの作業を遵守していくことが難しいように思います。がんばってみますけど。
その他、調査を進めて知ったこと
・文化庁のその他の施策や調査資料、もっと知られたほうが良いな
・関係深い人には箝口令がひかれているらしい
取材してもまともなソースが示されないのはそのせい
(自分もgo.jpに勤めていた時期があるので何となくわかる)
時期が来ればきっと公開されると信じたいです。
これは国民の文化の話ですからね。
明るい話もある
こんな話を書いているときに、ちょっと明るいニュースがありました。
https://www.asahi.com/articles/ASQ8W7TZRQ8QUOHB00L.html
修学旅行の中学生に壊された美術作品 美術家が逆転の発想で新作に:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASQ8W7TZRQ8QUOHB00L.html
クワクボリョウタさんが、中学生に破壊された「LOST#6」から新作「エントロピア」を発表するというメディアアーティストの本懐を感じるニュースです。
取材した新潟の朝日新聞ライターさんグッジョブ。
素敵な作品…!
スケッチも含めてこちらのサイトで見ることができます。
https://www.echigo-tsumari.jp/news/0726_01/
以上でいったん調査を終了します。
いったんのまとめ
ファクトベースでは以下の通りです。
・メディア芸術祭の公募展が終了すると宣言された
・メディア芸術祭の展示会の実施と、公募の実施は異なる団体が委託事業として実施している。
・平成から令和にかけて、公募展をやめようとしていた気配はある
・実施者であるCG-ARTS協会に問題はなさそう
・公募展の予算は委託事業として存在している、しかし実施する公募(入札)は出ていない
報道ベースでは、
・メディア芸術祭公募展だけではなく、メディア芸術祭自体が25回で終了する(ITメディア・文科省)
メディア芸術という分野の定義があいまいなのは本質だとは思いますが、ここまであいまいに空気のように物事を進めていくのはいかがなものかと思います。
一方では関わってきた人たちにも問いたい。四半世紀の歴史に対する責任という意味では「僕は別にどっちでもいいけどね」という態度はよくないなと思います。
私は最初の時点では朝日新聞の記事しか情報がなかったので
続けてほしいとか、やめるのはけしからんというつもりはありませんが、ファクトがないままあいまいな新聞記事で政争の具にされるのもどうかなとおもいました。
新聞だってメディア芸術なんです、本当は。
そしてこの調査をしながら、ITメディアの記事を裏付ける形で、メディア芸術祭自体をやめるという空気を作っている人たちが、文科省側にいるということもわかりました。
この調査の中で、今年の6月に新潟の中学生に作品を破壊されたクワクボリョウタさんの「LOST#6ロスト事件」やその後の再起。そして2008年に政争の具にされてしまった「国立メディア芸術総合センター」のことを思い出しました。あれはどうして潰される必要があったのか。政争の具にされるきっかけを作ったのは新聞ですし、メディア芸術と呼ばれる分野に対して、みんながモヤモヤとした何かを抱いているからです。
メディア芸術は、とても素朴なものです。
人々が好きだな、これいいな、という空気みたいな存在のミームで出来上がっています。商業や出版、SNSやNFTのように価値交換的にも成立している分野もあります。
えらい人、天才、巨匠が研鑚とファインチューニングの末に紡ぎ出す、そういうファインアートととは異なる要素があります。
でもそれが時には、メディアの中で、政治をひっくり返すような力も持ちます。期間限定のフェスティバルや、国を挙げてのお祭りだからこそ、元気に盛り上げることができる。
メディア芸術は空気のような芸術として世間に溶けている。だからこそふだんは「ニュートラルでいたい」。
私は今回は素朴な疑問を投げかけてみたいと思いました。
メディア芸術祭は公募だけでなく、フェスティバルが終わるのか。
メディア芸術は官製芸術だったのか。
終了、だったとしても構わない、文化庁がこれからどういう官製芸術を焚き上げていくつもりなのか?それこそがメディア芸術であり、文化政策であり、他国が畏怖と尊敬と協調をしたくなるような方策であることを祈ります。
でもあまり変な方向に火が付くようであれば、この記事はとりさげてしまうかもしれないです。それは、メディア芸術の中の重要なプレイヤーであるからこそ、メディア芸術祭の公募展に育ててもらったからこそ、
「負けていられないな」という気持ちになって作り続けてきたんです。
だから、届くべき人に届けばいいと思います
今後のメディア芸術分野のあらたな文化施策に期待します。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
みんなも何か感じたら書こう。
これこそがメディアアートです。
なお、カバー画像はAIで生成しています。
おまけ:メディア芸術祭を応援する企画
メディア芸術祭、上映企画、公開されています(無料)
https://j-mediaarts.jp/festival/screening/
どれも魅力的…モルカーとか。
9/24の「見習い魔女を探して」なんかもいいですよね…
おジャ魔女どれみ20周年記念作品です。
こういうのNetflixで見たらいいのでは?と思うかもしれないですけど、僕は本当に大好きな人たちと一緒にスクリーンを囲んでみるのが好きです。
おまけ:文化芸術基本法
文化芸術基本法 条文リーフレット
ちゃんと法律に「メディア芸術」の定義があった。
オワコンでもなんでもなかった。
関係者に置かれましては文化芸術基本法第9条違反になるような行為をされませんようお祈り申し上げます。
おまけ:文化審議会第20期文化政策部会
落合陽一とのやりとりで伝えられた部会。
今後の国の文化政策がどういうものであるべきなのかをディスカッションする資料として大変良くまとまっている。
文化審議会第20期文化政策部会(第1回)配布資料
資料7 文化芸術推進基本計画(第2期)関連データ集 (PDF:4.9MB) PDF
メディア芸術データベース
掲載件数 70万件 アクセス数11万件
R3事業費407百万円 R4事業費414百万円
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ほんと、これだけしかない。