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【最新作云々㉝】"母性"その無償の全肯定の愛の矛先が狂った時、家庭は歪に瓦解する... "愛"のボタンを掛け違った人々が織り成す世にも醜悪な自己愛群像劇映画『母性』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(Ζ_Ζ)
昨晩入った焼き鳥居酒屋で食べ物メニューの実に6割ほどがその日は提供不可とのことで驚天動地の思いだった、O次郎です。
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「ほんじゃあ〇〇を…」→「それも品切れですね。」
の此方と店員さんのラリーの続くこと続くこと!!
個人経営のようだったので、おそらくは常日頃から食材の余分な在庫は持てないし、
かといってメニュー表のレパートリー絞り過ぎてお客さんガッカリさせたくもない、
ってことだったのかな? まぁ焼き鳥は美味しゅうございましたので…。(´・ω・`)
今回は邦画の最新映画『母性』です。
公開日は11/23(水・祝)ですが、こないだラッキーにもnoteクリエイター特別試写会に当たって観てきまして、ひと足お先、光の速さであしたへダッシュさ、な感想です。
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実は宇宙刑事より凄いよね、っていう話。
湊かなえさんの2012年刊行のミステリー小説の映画化作品。
生々しくも釘づけにされてしまう女性の内面描写に人を食ったようなどんでん返しが印象的なストーリーテリングが最大の持ち味かと思いますが、その中でも同じく映画化された『告白』『少女』と並ぶほどの女性心理の残酷さと孤高ぶりで、ショッキング映像こそ無いものの登場人物それぞれの人間的歪さが織り成す不協和音への嫌悪感は本作が屈指だと思います。
満たされない愛の代償として無自覚に他人を傷つける劇中の各々の姿に言いようの無い眩暈と胃もたれを禁じ得ませんでした。
過去の映像化作品同様に鑑賞には些か覚悟の必要な一本だと思いますが、時として自分がとある相手を慈しむ気持ちが別の誰かを歪ませることはあるにせよ、それが多重構造になるとこんなにも醜悪で救いようのない様相を呈するのかとハッとさせられます。
自分の感じたまま理解したままを書いていきますので、感想の一例として読んでいっていただければ之幸いでございます。
未だ公開前なのですがネタバレ気にせず書いておりますので、ミステリーとしての楽しみを重視されている方は特にご鑑賞後にご覧いただければと。
それでは・・・・・・・・・・・・"忍者トットリ"!!
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ちなみにわたくしお隣の兵庫県出身ですが、幼少期たしかに毎年秋口に近所のおばちゃんが
伝手で二十世紀梨を仕入れて直売してたので、ガンガンで読んだ時に
「スゲ~、ちゃんと地方ネタ調べてる~」と子どもながらに感心したもので。
Ⅰ. 作品概要
ちなみに作中に登場する電化製品等から察するに時代は90年代のようです。内容的に普遍的な人間心理が主軸なのであまり重要なところではありませんが。
また、原作から登場人物がある程度オミットされているようで、作中には憲子(ルミ子の夫・田所の上の妹、ルミ子の義妹)や田所家のご近所さん(中峰敏子・彰子)は登場しませんでした。
とある若い女性が市民サークルで出会った男性と結婚し、二人の間に生まれた娘と一軒家で暮らすも数年後に災害で全焼……その後は夫の実家での姑と義妹も交えた生活が始まる。
災害による自宅の焼損は稀有且つショッキングな事故ですが、それ以外は全国遍く見られる家族の風景に思えます・・・その女性の愛情が何時如何なる時でも"母親"に向けられていること以外は。
Ⅱ. 歪な愛の数々
物語冒頭、女子高生が自宅の中庭で倒れているところを母親が発見する場面をプロローグのミステリー的フックとしつつ、主人公ルミ子(演:戸田恵梨香さん)と後の夫である田所(演:三浦誠己さん)との馴れ初めから物語が始まります。
絵画サークルで描く己の絵と田所の描く絵の相容れなさからして彼を生理的に避けますが、実母が(演:大地真央さん)彼の絵を大層気に入ったことで態度を一変させ、実母の勧めるままに彼との結婚へ向かっていきます。
その依存ぶりの奇特さも然ることながら、ルミ子の絵を通して互いの母娘の愛情を確かめ合い、慈しみの深さを讃え合う姿はもはやホラーの域に踏み込む濃密さです。
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その実、愛情をお互いだけでラリーさせて自家中毒に陥っているようです。
実父は物語上登場しませんが、離縁したのかそれとも死別か、もし存命で近くに居れば
二人の濃密な"母娘カプセル"感を指摘し得たかもしれませんが、それは叶わず。
二人で乗り越えてきたゆえにその絆も呪縛にも等しい深さになったのやもと察します。
結婚前ないし結婚当初にその相手である田所が二人の異常な親密さをそれとなく指摘すれば別の展開もあり得たのでしょうが、彼は彼で別の愛に飢えており、またルリ子の実母への執着を利用しようとしているフシも有り、問題とはされずに看過されてしまいます。
かくしてルリ子と田所の間に生まれた娘・清佳(さやか)は大切に育てられます・・・・・・表向きには。
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であれば彼女にとり、娘の清佳は自分と同じように"実母(祖母)が喜ぶこと"を至上命題とする
同質の存在でなければなりません。
ゆえに清佳が祖母を失望させるような言動(もっと正確にはルリ子にそう感じさせるような言動)を
行った際には冷淡な態度を取りますが、ルリ子の主観ではあくまで優しく諭したつもりです。
なぜならば自分は何時如何なる時でも、どんな人に対しても慈しみを持った態度を取れる、
実母の理想でなければならないから。
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それはさながら、年老いた醜い母が若返るための代替えの肉体としてのみ
その生を許された少女のように…。
そしてここで示される不幸は、実母から子への愛情つまりは"母性"に底無しで際限が無かったことでしょう。
普通(と言い切ってしまうのも些か軽率なような気はしますが…)は孫娘が生まれたともなればその祖母の全愛情がその子へと向き、娘に対してはぞんざいになるとまでは言わないまでも「あなたも母親になったのだから私に甘えるのは控えなさい」「娘の幸せを第一に考えなさい」と時に厳しく諭すのではないかと思います。いわば"無償の愛"が無償ではなくなる節目でもあるのでしょう。
しかしながらこの実母はあまりにも愛深きゆえに、誕生した孫娘と同等にこれまで通りに娘にも"無償の愛"を、"母性"を与えてしまっているのです。
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言い換えれば断乳のタイミングを逸してしまったわけです。
もしルリ子が自分がこれまで享受してきた"母性"を娘に奪われる構図になっていれば
嫉妬からルリ子が清佳を折檻するような過ちも生まれたでしょうが、
それによって実母は己の"際限のない母性"の弊害を自覚し、
一方のルリ子は"母性の供給者"への脱皮を迫られた筈です。
しかし、本来迎えるべき親子の相克はこの時点でも未然に防がれてしまいました…。
そこから自宅で悲運の火災が発生し、夫は仕事で不在の中、常日頃から頻繁に遊びに来ていた実母が清佳を庇う形で亡くなってしまいます。
ここに来てようやくルリ子の愛情が実母である自分にしか向けられていない歪さを悟るわけですが時すでに遅し・・・。
痛ましい事故によってついぞ永遠に実母からルリ子への"母性"の引き継ぎが行われず、ルリ子だけでなくその娘である清佳までも"母性"の供給元を失ってしまうのでした。
そこからは田所の実家での、ルリ子と清佳がそれぞれに"母性"を求めるも得られず飢え続ける受難の日々が始まります。
実家で実権を握る、田所の母親であるルミ子の義母(演:高畑淳子さん)は、実子である田所と律子(田所の妹)には過保護なまでに愛を注ぎながら、義理の娘であるルリ子とその娘の清佳にはひたすら冷淡です。
今でいうところの"毒親"ですが、同時に"有限な母性を持った"という意味で"普通の母親"でもあるのです。
世に遍く存在するただでさえ深刻な嫁姑問題に加え、"母性"の需要供給バランスの崩壊から来る愛情の機能不全も相俟って家庭内は不協和音に溢れています。
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・・・・・・アッ、画像間違えた。(*゚ー゚*)
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とルリ子にあらゆるイビりを尽くす妖女マリバロンもとい高畑さんのド迫力!!
いわば"24時間終生仕えねばならないパワハラ上司"かと思うと、経験の無い自分は
見てるだけで気が狂いそうというか、数日で耐えきれずに手にかけてしまいそうです…。(゜Д゜)
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清佳は奴隷のように扱き使われる母ルリ子の身を案じて祖母に食い下がりますが、
当のルリ子は失った実母からの"母性"を代わりに義母からなんとか得るべく必至なため、
義母に盾突く清佳の存在が我慢なりません。
自分だけならまだしも孫の清佳にも冷淡な義母と一向に助け舟を出さない夫に見切りをつけて
離縁するのが筋かに見えますがそうはなりません。
行われるべき"母性"の交通整理が行われなかった野放図の果てが此処に在り…という感じです。
他方でルリ子の夫の田所ですが、彼は彼で父親から(おそらくは"長男への期待"の大義名分の下に)幼少期より厳しい折檻を受けており、その鬱憤を若い頃に学生運動に傾倒することで転嫁解消していたようです。
そこでその代償行為の底の浅さを自覚して区切りをつけられていればよかったのでしょうが、彼は結局、母の勧めていた幼馴染みの仁美(演:中村ゆりさん)との結婚を思い止まってルリ子と結婚し、彼女と娘が実家で"母性"を巡る自家中毒に陥っていく中、安らぎを求めて秘かにルリ子の実家で仁美と逢瀬を重ねます。
いわば責任転嫁と代償行為という、手段の目的化がクセになってしまっているように見えました。
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本来望んでいなかった結婚となれば同情される余地が生まれるし、
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自分の少年期からの鬱積を理解している相手ならば自尊心も満たしてくれて不倫相手にピッタリ。
彼女の側も他の誰でもない自分こそがパートナーに無くてはならない存在と内心誇れます。
・・・・・・アレ?どっかの王室でも似たような話が?(´・ω・`)
その二人の密会を発見して涙ながらに断罪する清佳の姿はただただ健気なのですが、彼女の"母性"を欲する背景を持った母ルリ子への誠意が届かないことを知っているがゆえ、しかもそのうえ田所と仁美が醜い自己弁護で開き直っているおぞましさゆえに、清い景色では決してありません。
そこから物語はクライマックスへ向かい、清佳が己の"原罪"と向かい合って懺悔します。
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「子どもはまた産める」とまで言い放ったのです。
そこからして実母は娘の"母性"の芽を自らが摘んでしまっていた罪の重さを悟り、
自らを罰するとともに娘に自戒を促すために手近に在ったハサミで自死したのでした…。
母の言いつけ通り娘を業火から救出したルリ子の心中は渾然一体としていたことでしょう。
父から祖母の死の顛末を聞き知り、(もちろん清佳に責任は無いにしろ)そ自分がその遠因となったことに関して母ルリ子に滂沱の涙を流しながら謝罪するのですが・・・
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しかし・・・
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母ルリ子からの残酷な裁定を一度は拒否して逃げ出す清佳でしたが、間も無くしてあらためて自ら死を選ぼうとします。求め続けた"母性"がついぞ得られないばかりか存在すら否定された絶望は如何ばかりだったでしょうか。
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ここで作中初めてルリ子は"清佳"と娘の名前を呼びます。
受洗者に洗礼名が与えられた、ということでしょうか。
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エンディングにて清佳は結婚指輪をしており、身籠ってもいるようです。
お相手は高校の同級生で、母ルリ子に自身の妊娠を伝えると「命を繋げてくれてありがとう」と。かつて実母がルリ子の妊娠の際にかけた言葉と同じです。
これまでの類稀な経験で普段からやたらと正義感を振りかざす嫌いのある清佳ですが、夫の指摘を受け容れて自覚はあるようですし、生まれてくる我が子に連綿とそれを押し付けることは無いと信じたいところです。
ルリ子は痴呆の進んだ義母を献身的に介護しつつその傍らには夫が居て、部屋は離れから母屋へ移っており、駆け落ち同然に家を飛び出した義妹は伴侶とともに今はなんとか飲食店を経営している。
"母性"の行き違いを主軸にした物語ではありましたが、その一方で各々の人生で生じる様々な歪を一歩一歩矯正する女性の普遍的な力強さを讃えた作品でもあるのかもしれません。
Ⅲ. おしまいに
という訳で今回は邦画の最新映画『母性』について語りました。
"恋愛映画の名手"と称される廣木隆一監督作品ですが、たしかに視点を変えれば娘・母・祖母の一途ながらも絶妙に噛み合わない凄惨な恋愛にも見えるかもしれません。
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著者井上荒野先生のお父上の井上光晴先生と
瀬戸内寂聴さんの不倫を基にした作品とのことで。
泣かせに来ているような恋愛映画は正直苦手なのですが、本作のようなおぞましさを湛えたそれは予告編観た時点からついつい惹き込まれてしまいます。心がどんより疲れてしまうので事前に相応の覚悟が必要なのが難点ではありますが。
新旧問わず、おススメのおぞましい恋愛映画ございましたらコメントいただければ恐悦至極にございます。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
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"いっこうのたましいはしょうめつしてしまった"(´;ω;`)
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![O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76767168/profile_964813fba38d4eb07b414646ca645b37.jpg?width=600&crop=1:1,smart)