【最新作云々㉟】さ~て...本当の"野蛮人"は誰だ?! ゴーストタウンの民泊施設で蠢く狂気の母性とモラルハザードの洪水!!な映画『バーバリアン』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
「昭和から平成にかけて、世界の怪獣ファンに愛されてきた大怪獣“ガメラ”の、新作製作決定! 『GAMERA -Rebirth-』 Netflixにて世界配信決定!」というニュースを聞いて「自分が最初に観たガメラ映画は何だったかな?」と記憶を頼りに検索してみたら『ガメラ対大悪獣ギロン(1969)』だったことが解った、O次郎です。
※わたくし、昭和60年生まれなので当然ながら昭和ガメラはリアルタイム世代ではなく、むしろ平成ガメラシリーズ三部作がドンピシャの世代です。
小学校低学年の時分にまさしくその平成ガメラシリーズ三部作の公開に肖って昭和ガメラ映画がテレビで再放送されており、たしか家族旅行先のホテルでそれは楽しみに楽しみに楽しみに本作を観たのですが、みょうちくりんな宇宙人に囚われて怯えるこの少年二人が好物のドーナツとミルクを提供された途端コロッと態度を変える描写で子どもながらに「そりゃ~ね~よ」と興醒めしたのをなんとなく覚えております…。
今回はDisney+にて配信中の最新ハリウッド映画『バーバリアン』です。
今月初のTBSラジオ『たまむすび』内のコーナー"アメリカ流れ者"にて町山智浩さんが超展開ホラーとして12月公開予定の『MEN 同じ顔の男たち』と本作を紹介されており、それではとばかりに視聴してみた次第です。
かつては自動車産業で栄えながらも数十年前から廃れ始め今では治安も悪くなってすっかりゴーストタウンと化したデトロイトの一角、就職面接のために同地を訪れた若い女性がWEB予約していた民泊を訪れるとまさかの別サイトで予約していた男性とのダブルブッキング。
そこから異常に優しく親切なその男性との恐怖の同宿の一夜をテーマにサスペンススリラーが展開されるのかと思いきや、突如として広大な地下室の探検とそこに潜む異形との遭遇のホラーへと移行し、さらにはまったく異なる登場人物の物語へと変遷して不穏と胸糞の物語世界に引きずり込まれていきます…。
ホラー作品の中でも新境地に挑戦した意欲作と言え、終盤にそれまでの物語がきちんと符合する巧みな構成も十二分に楽しめる作風となった一本です。
ホラー好きな方々、それも一風変わったホラーを求めている方々、読んでいっていただければ之幸いでございます。なお、結末含めたネタバレ含みますので予めご容赦くださいませ。
それでは・・・・・・・・・・・・"つよいぞガメラ つよいぞガメラ つよいぞガ~メ~ラ~ァァ"!!
※もうなんつ~かちびっ子路線全開っ!!っていうね。(´・ω・`)
まぁ、未だにフレーズ覚えてるってことは方法論として正しいのか。
※てっきり『シン・ガメラ』的なコトになるかと思いきや・・・。
まぁ、怪獣映画なら全世界的なコンテンツということで製作費は潤沢に募れるんでしょうからまずはそれでよしでしょうて。
Ⅰ. 作品概要
※日本語版ページが存在しないため、翻訳等でご覧ください。
本作の監督であるザック=クレッガーは本作が単独監督としてはデビュー作だそうですが、20年以上前に刊行された社会における暴力、虐待、および安全に関するノンフィクションの実用書をその元ネタとしているようです。
※例えば危険な人物の特徴として「魅力的で優し過ぎる」「詳細を語り過ぎる」「求められてもいない約束をする」など。
・物語序盤のサスペンス
物語冒頭、主人公の就活中の若い女性テス(演:ジョージナ・キャンベル)がAirbnbで予約した民泊にダブルブッキングされてしまっていた男性キース(演:ビル・スカルスガルド)がまさにこの類型に当て嵌まるタイプであり、大雨で行く当ても無いところに先客の彼に過剰な気遣いを示されて断れず、「もしや彼に何かしら危害を加えられるのではないか?」という疑心暗鬼の中でテスが恐る恐る眠りに就くことになります。
米国本国では大変有名なベストセラー本で内容は言わずもがななのかもしれませんが、該当の危険人物のカテゴライズに一つまた一つと当て嵌まっていく恐怖を味わうためには、海外視聴者のためにたとえばテスがプロローグで当該本を読んでいてその内容の断片が観客に語られるとか、ちょっと工夫が欲しかったところではあります。
ここからじっくりキースの本性を明らかにしていってテスが窮地に陥る展開であればシチュエーションホラーとしてわかり易く、実際、監督も当初はそのように物語を展開させようとしていたようですが、あまりにもお決まり過ぎると嫌って以後の展開は自分の気の赴くままに思いつく恐怖展開を紡いでいったようです。
結果、先客男性キースの危険人物性査定の展開は開始十分程度で留め置かれます。
そして無事に翌朝を迎えてからが急展開。テスは無事に面接を終え(この一帯でAirbnbを利用するのは危険だと忠告は受けますが)、民泊の邸宅へ戻ってきますが、偶然から地下室の奥の隠し通路と長大なトンネルを発見し、調べている間に誤って地下室への扉が閉まってしまいますが、タイミング良く外出から戻ってきたキースが彼女を発見し、救出しつつも今度は彼が探査のためにトンネル深くへ・・・
キースは憐れその背後から突如現れた正体不明の裸の奇形の女性に怪力で壁面に何度も叩き付けられ、絶命してしまいます!
結論が先走ってしまいますが、この女性は実はテスをキースから守ろうとしたのではないかと思います。
そもそもの話としてこの展開が無ければ不穏な傾向を見せていたキースは真綿で首を締めるようにテスを自分の制御下に置こうとしたのかもしれませんし、それを察知するだけの思考が例の女性に残っているかはさて置き、それを差し引いてもキースはトンネルの奥に進むのを恐れるテスに対して「そっちじゃない!こっちだ!」と誘導していました。トンネル途中で負傷した状態でテスの前に姿を見せた際には「そっちはダメだ!奥に逃げるんだ!!」とも。
察するに彼はトンネルの奥で女性に遭遇して攻撃を受け、自らが助かるために咄嗟にテスを女性の人身御供にして逃げ延びようとしたとも考えられます。
女を食い物にする、あるいは女を盾にする・・・・・・そうした男の浅ましさを看破されて女性に始末対象認定されてしまったキースなのかもしれません。
・物語中盤のホラー
そこからいきなり場所と登場人物が移って快晴の山道を陽気なドライブ。
男性俳優のAJギルブライド(ジャスティン・ロング)がカーステレオをバックに歌いながらドライブしていますが、仕事仲間からの電話にてこちらはいきなりのどん底展開が示されます。
番組共演者の女性からのレイプの申し立てにより、テレビシリーズから唐突に解雇されてしまったのです。まさに寝耳に水の事態で自分には身に覚えのないAJですが、訴訟を起こされてしまった時点で信用は失墜。来るべき訴訟に備えて費用を捻出するために資産を売却する必要に迫られたAJはそのデトロイトに所有する賃貸物件を急遽訪れます。その物件こそ、テスとキースが借りていた民泊施設なのです。
その後、AJが所有する民泊施設を訪れて物音のする地下室に降りた時点で、先ほどのテスとキースが女性にトンネルで遭遇して後の時間に同期するのですが、その前に実に胸糞の悪いシーンが有ります。
AJはデトロイトの物件に行く前にバーに行くのですが、そこで会った旧友との会話の内容で件の共演女性から告発のあったAJからのレイプが事実であったことが解るのです。
曰く、「確かに彼女とは寝た。俺は粘り強い性質だから何度でも迫って諦めないし、最初こそ戸惑いは見せていたが終いには彼女のほうがすっかり盛り上がっていた」と。
きっと表向きには"見解の相違"として有耶無耶にする魂胆だったのでしょうが、一方で弁護士に厳禁されていたにもかかわらずこっそり相手女性に電話して許しを請うメッセージを残して同情を買おうとしていたのが実に惨めです。
昨今、洋邦問わずこうした性暴力のニュースは枚挙に暇が無いですが、こうして作品内で直接的にそのテーマをぶち上げただけでなく、彼を決してアッパー層ではないテレビ俳優レベルのキャラクターとして普遍化させたところに監督のメッセージの強さを読み取ることも出来るでしょう。
・物語終盤のスリラー
話をストーリーに戻しますと、地下室の奥からの奇声に気付いたAJはトンネル深くへと進んだ結果、例の奇形女性から攻撃を受けて穴に落ちてしまいます。
彼女の願いは、トンネル内に迷い込んだ人間たちを"赤子"として飼い育てることでした。
この広大な地下トンネル空間と奇形女性の元凶である、既に枯れ枝のようになったフランク(演:リチャード・ブレイク)は備え持っていた拳銃で自殺してしまいます。
テスとAJに通報されると悟っていまさら服役するぐらいならと拒否したのか、それとも今さらながらに己の業を悔いたのかは定かではありません。
とにもかくにもテスが命懸けでトンネルに留め置こうとする女性を振り切って邸外に脱出しますが、やっとの思いで辿り着いたガソリンスタンドで通報の末にやってきた警察が、それまで囚われていた彼女のみすぼらしい成りと荒唐無稽な言動から薬物中毒を疑ってろくに請け合わずに別の事件現場に行ってしまったのがなんとも…。
薬物中毒と見做されたのなら連行されそうなものですが、それが見逃されたあたり、地域一帯の薬物蔓延を暗に表彰しているのかもしれません。
警察の助けが期待出来ない中でも勇敢にもAJを救いに邸宅に戻るテス。
這う這うの体の彼らの逃亡を近所のホームレスの男性アンドレが助けてくれます。彼曰く、あの奇形女性は多世代近親相姦の末の産物とのことですが、あえなく邸外まで執念深く追いかけてきた女性に殺されてしまいます…。
そこからラストのテス&AJ VS 女性の追走劇ですが、ここにきてAJの人間性の醜悪さが頂点に達し、彼は己が助かるためにテスを塔から押しのけて女性の囮にしようとさえします。もし先に邸外に脱出できたのが彼であれば警察への通報まではしたとしても、テスを助けるために危険を顧みず戻ったりはしなかったのでしょう・・・しかしテスはきちんと彼の救助に戻ったのです。おまけに出合い頭に彼の持つ拳銃で誤射されながらも。
そこまでテスに借りが有りながらそれを綺麗さっぱり無かったことにして我が身を優先するAJこそモンスターのようです。一方の件の女性はテスを殺すどころか直後にジャンプして落下から彼女を守りったのに…。
そこまでの経緯で女性から紛うこと無き"有害男性"認定をされてしまったのでしょう。AJは憐れ彼女に万力のように頭を両の腕で締め付けられて殺害されてしまいます。
残ったテスを女性は優しく抱き抱えますが、彼女の意図がまたテスを邸内に連れ戻すことであることは明白であり、どうしようもない断絶の中でテスは傍らに落ちていたAJの持っていた拳銃で彼女を・・・。
本作のタイトルはバーバリアン、"野蛮人"です。
全編を通しての殺害人数と異形の姿からすればそれは地下室の女性なのですが、それはあくまで表向きでしょう。
それは例えば(おそらくは)テスを自分の意のままに操ろうとしていたキースであったり、己の欲望のために長年に渡り何人もの女性を監禁虐待してきた不動産持ちのフランクであったり、同じく不動産持ちで自分の有意な立場を利用して女性を蹂躙しつつ我が身可愛さに恩義ある人間を裏切ったりしたAJであったり・・・。
物語全体を俯瞰するに、"本来は高いモラルを備えていると思われるハイクラスの人間こそ実は…"という製作側の意図もあるように思えました。
本当のバーバリアンはだあれ?
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回はDisney+にて配信中の最新ハリウッド映画『バーバリアン』について語りました。
ベタなのは序盤だけでそこからは中盤・後半と思いも寄らない方向に物語が展開していきますが、監督の初期衝動が吐き出されたものが奇跡的に上手くまとまったという体なのが結果的に上手くいったのだと思います。
おそらくですがあまり監督として作品を重ね過ぎると、どんでん返しの予測不可能な混沌の物語であってもどこかよくまとめられた作品に落ち着いてしまうような気はします。
ともあれ、こうした造り手がやりたいようにやった結果が商業的にも批評的にも上手くいくというのは稀有で素晴らしいことでしょう。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。