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【名作迷作ザックザク㊷】軽いノリだが人情に厚い凸凹カルテットは和製ルパンファミリーの開祖か⁉ 愉快痛快義賊譚に公害,戦争,権力への皮肉も込めたごった煮娯楽映画『かもとネギ』(1968)
結論から言おう………こんにちは!(ΦωΦ)
ついこの間、仕事で相談に訪れた市役所で思いの外スムーズに事が運んで次の予定まで微妙に時間が空いたので玄関先で催されてた献血に勤しんでみた、O次郎です。
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もしくは大学生だった15年前…いや、忘れてるだけで数年前に会社の勧めで行ったかも?
とか思ってたんですが、氏名・生年月日から検索してもらったらなんと19年前‼
そういえば浪人生の年の秋、教員だった大真面目な父に「役場での献血に教員も協力することに
なってたんだけど急用が入ったから、行けるなら勉強の合間に代理で行って来い」と言われて
馬鹿正直に行ったのを思い出しました…係員の人、明らかに名簿と年齢が違うんで
戸惑ってるところに代理で参上した旨を伝えたらキョトンとしてたな。
まぁ、代理でまで馳せ参じるような人って普通居ないよね。(¯人¯)
今回は1968年の邦画『カモとねぎ』についての感想です。
CSの日本映画専門チャンネルの"蔵出し名画座"枠の今月の放映作品が本作でした。
三船敏郎さんの俳優デビュー作として有名な山岳アクション映画『銀嶺の果て』(1947)や"和製007"を目指した『国際秘密警察シリーズ』(1963~1967)の谷口千吉監督のキャリア晩年の一本。ちょっと調べてみたらどうやら70年代は公式記録映画を一本と自主映画を一本のみのようなので商業映画としては本作が最後となったようです。
個性の強い男女四人による駆け引きと悪漢から大金を掠め取る大泥棒劇…プロットからすると『ルパン三世』(本作公開とちょうど同時期に第一作が連載されていたようです)あるいは『スパイ大作戦』を強く感じさせ、それだけに古い作品と言えど四人の軽妙な掛け合いこそ楽しみどころということが直感的に判る、偉大なるマンネリの一型です。
しかしながらその一方で1968年という世相とその社会的問題意識が要所にエッセンスとして散りばめられており、単なる能天気には留まっていません。
また、メイン四人を演じる森雅之さん、緑魔子さん、高島忠夫さん、砂塚秀夫さんは他の代表作品でのイメージとは一味違った印象を残しているので、そういう面でもまさしく掘り出しもん感でした。
"大昔の笑いは今観ても白けるだけ"と思ってる方々、ギャグやスラップスティックに頼らない、掛け合いから生まれる、笑いの時代に依拠しない安定感を感じるべく読んでいっていただければと存じます。
それでは・・・・・・・・・・『いつか家族に』!!
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数十年前の片田舎、大病に罹ってしまった幼い息子の手術費用を工面するために
父親が全国の病院を駆け巡ってボロボロになりながら売血でお金を工面する描写がありました。
日本でも50~60年代半ばぐらいまでは金銭を得られて、
反社のシノギの一種でもあったとのことのようですが…隔世の感が有るなぁ。(;°°)
Ⅰ. 作品概要
(あらすじ抜粋)
その端正な風貌から“貴族詐欺師”と呼ばれる石黒信吉(演:森雅之さん)とキザなチンピラ丸木久平(演:高島忠夫さん)、発明狂の堅物森洋介(演:砂塚秀夫さん)の三人の詐欺師は、競艇で八百長を仕組み、まんまと三百万円を手にしたが、丸木と森の不注意からその金を謎の女に持ち逃げされてしまった。女の残したマッチを手掛りに、三人はようやくのことで暴力バーのホステスである女、麻美(演:緑魔子さん)を見つけたのだが彼女は情夫の保釈金にその三百万を使っていた。たまたま、麻美が金庫破りの技術を持っていたことから、彼女が仲間に入ることになり、信吉はフイになった三百万円の穴埋めに、ある暴力バーに税務署員に化けて乗込み、支配人から脱税の口止め料として大金をせしめたのである。ある日、信吉はベトナム特需でボロ儲けの東西油脂工場に目をつけ、大仕事を企んだ…。
というわけで冒頭での三人と麻実との出会いから紆余曲折を経てカルテットを組んでのチームワークまで流れるように話が進み、その中でさりげなく各人の個性も盛り込む演出が成されているのでストレス無く物語とキャラクターに没入出来ます。
とりわけ話運びについては、半世紀以上前の作品となるとどうしてもスピード感の無さで間延びを感じてしまうところですが、本作については気になりませんでした。同時代の他のコメディー映画で間々見られた一発ギャグや劇中歌の類の演出が無かったのも要因かもしれません。
で、まずはリーダーの森雅之さんですが、溝口健二監督作『雨月物語』や黒澤明監督作『羅生門』、成瀬巳喜男監督作『浮雲』といった代表作的作品での知的でニヒルな二枚目ぶりとはニュアンスが異なり、悪党ながらも義侠心を秘め、大人の包容力を見せつけながらどこか抜けたところもある粋なおじさんぶりが実に魅力的でした。
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如何にも冴えない中間管理職感を醸し出しながら、
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隣の高島忠夫さんの眼帯姿は露骨過ぎるけどいざみると笑っちゃう…。
他にも変装という面では自衛隊員や、果てはCIA局員(ドーラン塗った顔にカタコトの日本語はさすがに時代を感じますがそれもまた一興…)までバリエーションに富んでおり、ひょっとすると戦後すぐから60年まで映画がシリーズ化され人気を博した多羅尾伴内シリーズのユーモアに肖った部分も有るのかもしれません。
手下である高島さんと砂塚さんを顎で使いつつ彼らの不満を一笑に付す丹力を示しながらも、その一方でベトナム特需であぶく銭を稼ぎつつ工業廃水を垂れ流して市井の人々を苦しめる悪徳企業に怒りを露わにする姿は、森さん自身の存在感も相俟って人物を立体的にしています。
そんな彼はとみに髪の長い女性が好み、ということで彼の大人の男の色気に惹かれたショートカットの緑さんをやきもきさせたりするのですが、実は彼は戦中にお守りとして婚約者の長い髪を渡されて死線を生き延び、ようやく復員した時には想い人は空襲で既に帰らぬ人となっていて…という背景。それを以て亡き伴侶に操を立てるのではなく髪の長い女に執着、というのは些か即物的な気もしますが、過去の傷をそこまでに留め置いているというのがバイタリティーの顕れといえるのかも。
四人のチームの紅一点であるヒロインの緑さんもそれまでの作品での魔性の女ないしファムファタール的な劇薬感は鳴りを潜め、男を手玉に取りつつも純情さも捨てきれない姿がなんともいじましい限りです。
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奪ったものの、それを保釈金に充てた情夫は他の女と逃げてしまう。
これ以前に突き抜けた悪女は散々演じられてる筈なのに、本作では
可愛らしさすら感じてしまうのは見事の一言。
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でのあのけだるい感じがなんとも恐ろしく。
レモン齧ってたの、冴えた演出でした。
高島さんはちゃらんぽらんで女好きという、ある意味平常運転なキャラクターではありましたが、それだけに意外性のあるキャスティングの中に在って抜群の安定感。
子分の砂塚さんとともにいつも安月給で危ない橋を渡らされる境遇をぼやきながらも、泥棒として独立する気概までは持ち合わせていない内弁慶ぶりを親分である森さんに見透かされて不満を溜め込んでいる姿はなんとも言えない哀感と共感を誘うところです。
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彼女らの主催するバザーでピンク映画を上映してやろうと虎視眈々…の図。
それにしてもまぁ、多分に誇張してあるとはいえ、"子どもの教育のため"を盾に
自らの道徳を唯一絶対の正義として振りかざすご婦人方の意気には眩暈がしました。(- -;)
物語中盤には某工場の敷地内に戦時中の不発弾が埋まっているという噂を元に、自衛隊員に扮して警察も巻き込みながら工場のスタッフを軒並み退去させて金品強奪を企てるのですが、上記の婦人団体やら警察組織やらといったお堅い団体や公権力を殊更に扱き下ろす演出はいかにもこの時代のコメディー作品というか、後年の『トラック野郎』シリーズっぽい危険な笑いも醸し出しています。
そして残る砂塚さん。実は彼が四人の中で一番屈折したキャラクターであり、普段はオネェ言葉でナヨっとした雰囲気を出しつつも実は裏で緑さんとともに裏切りを画策し、それが果たせぬとなって最後には高島さんと上下関係を逆転させつつ二人で大金をネコババして海外へ密航まで企てます。
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という洒落たセリフが有りますが、男二人の翻意には予め勘付いていて
これまでの退職金代わりに大仕事の金をくれてやったのかも…?
全体を通してもちろん義賊的な痛快盗人劇ではあるのですが、戦中の不発弾だったりベトナム戦争だったり公害問題だったりと、説教臭くならない形で当時の社会情勢を盛り込んでいる手腕は見事だと思います。
また、メインの四人以外のキャストにも名優が配されており、上述の工業廃水で病魔に蝕まれた老男性を懸命に介護する娘を演じるは、初期ウルトラシリーズや実相寺昭雄監督作品でお馴染みの桜井浩子さん。他作品だとその颯爽ぶりや妖艶さが際立っていますが、本作でのまさに野菊の花の如き純情ぶりはレアかもと。
そして泥棒稼業に欠かせない変装アイテムや車両等の道具を用立てる怪しげな何でも屋役の小沢昭一さんの回演ぶりも実に楽しいもの。森さんとの会話で昔からの腐れ縁であることは薄々察せられるものの付かず離れず、代金の値引きの是非でレジをガチャガチャやり合う掛け合いも思わず笑っちゃう。
さらに本作のラスボスとも言える東西油脂工場の支社長はなんと東野英治郎さん。緑魔子さんのハニートラップにまんまと引っ掛かってしまうような脇の甘さながら、口止め料を渋り、受け取りに来た三人をまとめて始末しようと諮って哄笑する姿は、やっていることは大悪党ながらさすがのユーモア。『水戸黄門』での黄門役のスタートは本作の翌年からのようですが、豪快さという観点からすればその原型の一つかもしれません。ただ、「こいつらを機械に放り込んで石鹼の原料にしちゃる!!・・・・・・まるでアウシュビッツや!」というセリフはあまりにも際どくて…。(o|o)
ともあれ、メインキャラクターがやり取りしてるだけで自然と話が転がっていくような模範的なプロットだし、コンゲームのバリエーションでいくらでも続篇が作れそうな内容だと思うんですが、これ一本きりなばかりか知る人ぞ知るな知名度に留まっていることを鑑みるに、満足な興収とはならなかったのでしょうか。
そして今更ながらですが、『カモとねぎ』ってどういう意図でのタイトルなのか。"鴨が葱を背負って来る"から来てるにしても内容を表してるようなそうでもないような…?(-_-)
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は1968年の邦画『カモとねぎ』について語りました。
オープニングのクレジット画面からして中々オシャレなアニメーションが展開されてて"一味違う"感が出てましたが、今観てもコメディー映画として笑うべき点で笑いが起きる全時代性は担保されてるように思います。
しかしながらどうにも気になってしまったのがラストシーン。四人にやり込められた婦人団体の仕返しによって服役の憂き目に遭った森さんの出所を、待ちに待っていた緑さんが迎え、遂に彼女の想いに応えて森さんから口づけを交わして物語が幕を閉じます。
谷口監督は本作公開の十余年前に元々は不倫関係にあった八千草薫さんと結婚していますが、二人は親子ほどの年の差があり、しかも監督の方は3度目の結婚・・・当時大いに波紋を呼んだということで、本作でのピュアな年の差ロマンス描写は監督自身の過去のあれこれを作品で美化することでなんとか折り合いを付けられたのかな、などと邪推もしてしまいました。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・・・・・・どうぞよしなに。
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本多猪四郎監督作品だけあって、
後の『ゴジラ』(1954)と同じロケ地だそうでその点でも注目なり。
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