【最新作云々69】その母娘喧嘩、宇宙を駆ける... 別の人生の可能性に未練タラタラな中年女性がマルチバースでバカをやりきって人生に喝!な映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
結論から言おう!!・・・・・・・・・・こんにちは。
ゲーム『バイオハザード』シリーズの破壊系モニュメントでは『7』のミスターエブリウェアが一番好きな、O次郎です。
今回は最新のハリウッド映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』です。
ついこの間の第95回アカデミー賞で11部門でノミネートされ、アジア人女性初の主演女優賞をはじめ作品賞7部門で受賞を果たした記念碑的傑作!!…ながらその中身は切れ味鋭いカンフーとマルチバースへ跳躍するための起爆剤としてのおバカ行為に塗れており、その深奥には家族愛がある、という満漢全席というよりも断然、ゲテモノ料理といったほうがしっくり来るような胃もたれのするようなキワモノ作です。
前評判はもとより、アカデミー賞最多受賞作の伯も付いたことで既にご覧になられた方々も多いでしょうが、感想の一つとして読んでいっていただければ恐悦至極にございます。ネタバレ含みますのでその点ご注意をば。
それでは・・・・・・・・・・ジャック・ベイカー!!
Ⅰ. 作品概要
(あらすじ引用)
コインランドリーや家族の問題と、トラブルを抱えるエヴリン(演:ミシェール・ヨー)。ある日、夫ウェイモンド(演:キー・ホイ・クァン)に乗り移った"別の宇宙の夫"から世界の命運を託されてしまう。そして彼女はマルチバースに飛び込み、カンフーの達人の"別の宇宙のエヴリン"の力を得て、マルチバースの脅威ジョブ・トゥパキと戦うこととなるが、その正体は"別の宇宙の娘"(演:ステファニー・スー)だった。
というわけでなんともなんぞソレ?な筋立てですが、中身を見てもなんともパンクでサイケなドラッギー感満載のヤバさです。
それもむべなるかな、というか、監督のダニエル・クワンと
ダニエル・シャイナートはミュージックビデオの監督からキャリアをスタートさせつつ、長編映画はなんと本作で僅か2本目という。まさに"新進気鋭"の言葉がピッタリのお二人。
冒頭は主人公エヴリンの身の上話。
自宅に併設のコインランドリーは決して儲かっているとはいえず、国税庁には突っつかれ、毎日の家事や遊びに来た高齢の父の世話も忙しく、年頃の娘は同性の恋人が居て自分には理解出来ない・・・・・・こんなことなら数十年前に夫と駆け落ち同然にアメリカに来るんじゃなかった。他の道を選んでいれば幸せな未来もあったはず、と未練タラタラタラタラです。
ディアドラのお説教を受けている内に俄かに夫ウェイモンドの様子が変わり、"目覚めよ"とばかりにエヴリンに種々の指示を与えるところから一気に物語が展開。以降はノンストップでマルチバースの坩堝へと巻き込まれていきます。
そしてそのマルチバースに跳躍するための鍵として"突拍子もないバカなこと"をやることになるのですが、跳躍の度に此方も敵サイドも行うことになるので双方ともおバカ合戦。
他の宇宙からの侵略者に対抗するため、エヴリンも他の可能性の宇宙のエヴリンの体得しているカンフーをインストールして何度も甦る敵ザコ集団やディアドラと死闘を繰り広げますが、還暦過ぎてキレッキレのアクションを披露するミシェルさんの雄姿にただただ圧倒されます。
繰り返される双方のおバカな大暴れですが、これは常識で塗り潰された中年が童心に帰るための儀式でもあるのではないでしょうか。
特にマルチバース展開に入る突端、国税庁オフィス内で一向に追い縋るディアドラにエヴリンがパンチ一発お見舞いするくだりなど、普段から自分を悩ませている上司や目上の相手を殴りたくてしょうがないのにそれを常識で無理やり押さえつけている中年の悲哀の裏返しそのものです。
娘のジョイにも常々「太り過ぎよ!」と注意していますが、思春期の女の子が一番言われたくない類の言葉であり、まさに自分の思い通りにならない娘を押さえつけようとするいらちな母親。
ではそうまでして童心に帰る必要性とは何かというと、それはやはり仲違いしている娘の気持ちに寄り添うことである筈であり、その目的がオーバーラップしてマルチバースの戦いでのラスボスが娘の形をしたジョブ・トゥパキとなっているのも頷けるというもの。
さらに娘のことを真に受け容れるためには、彼女が生まれる以外のエヴリンの別の人生の可能性に見切りをつける儀式も必要なのか、エヴリン自身がこれまでの人生で何百回何千回と夢想したであろう、大女優やスター歌手という華やかな人生もマルチバースの本流の中で疑似体験していきます。
善人だがうだつの上がらない夫に辟易していた筈が、別の可能性として在り得た無数の人生の中で、逆説的に彼への愛を確かなものと認識していきます。
様々な宇宙の中を潜り抜けた一家は再び元のコインランドリーへと戻ってきますが、当初はそれぞれが自分の意を捲し立てるばかりの一方通行の関係だったものが、ぎこちなくも確かに互いの方向に向き合います。
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は今回は最新のハリウッド映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』について語りました。
きちんとしたプロの映画評論家の論評を聞いたうえでないととても内容を咀嚼できない快作にして怪作ですが、とにもかくにもまずは予備知識を入れずにこの訳の分からなさを二時間半堪能するのが筋なのでは、とも思います。
ともあれ、造り手側の多様性はもとより、こんだけのカオスな作品が盛大に評価されて保守的な映画賞に風穴を開けた、ということだけでも手放しで喜ぶべきことではないかと思います。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。