【最新作云々79】"人生ほど重いパンチは無い!!"を地で行く過去の積弊の恐怖... 立ち塞がる"もう一人の自分"の妄執を断ち切るために錆びた拳でぶつかる神聖かまってちゃん映画『クリード 過去の逆襲』
結論から言おう!!・・・・・・・・・・・・こんにちは。(⦿_⦿)
ボクシング映画は数多有れど、『サウスポー』(2015)を観た時の旨にじんわり染み渡るハートフルさをいまだに思い出す、O次郎です。
今回は最新のハリウッド映画『クリード 過去の逆襲』です。
『ロッキー』シリーズのスピンオフ映画の第三弾にしてとうとうロッキー本人は登場しなくなりましたが、"リングを降りた人生こそ本当の闘い""たとえピークを過ぎても、周囲に笑われても筋を通さねばならない時がある"という作品全体を通してのメッセージ性はこの上なくロッキー的であり、むしろ気力・体力共に充実した十全たる王者の奮闘を描いた過去二作よりも、盛りを過ぎた男が無様ながらも力強く足掻く物語は親近感の湧くところです。
ボクシング映画にあまり興味の無い方も、『クリード』シリーズに移行してから離れてしまったロッキー好きの方々も参考までに読んでいっていただければ幸いです。ラストまでネタバレ含みますのでその点は予めご容赦をば。
それでは・・・・・・・・・・・『ロッキー(セガ・マークIII)』!!
Ⅰ. 作品概要
(あらすじ引用)
2018年、アドニス(演:マイケル・B・ジョーダン)はかつて黒星を喫したコンラン(演:アンソニー・ベリュー)を相手に勝利を収め、チャンピオンとして引退した。それから3年、引退後はリトル・デューク(演:ウッド・ハリス)と共に後進のボクサーを育てつつ、愛娘アマーラ(演:ミラ・デイヴィス=ケント)の相手をし、妻ビアンカ(演:テッサ・トンプソン)や義母メアリー(演:フィリシア=ラシャド)との関係も良好な順風満帆な生活を送っていた。
ある日、アドニスの幼馴染で兄貴分でもあったデイミアン(演:ジョナサン・メジャース)が訪ねてくる。彼はかつてアマチュアながら天才ボクサー少年であったが、過去に起きたある事件によって、18年もの刑務所生活を強いられており、出所したばかりだった。久々の再会も兼ねてダイナーで食事をしつつ、お互いの近況を語り合う。その中で、デイミアンは「ボクシングに挑戦する」と発言。アドニス以上の年齢もあり、挑戦は厳しいが兄貴分の挑戦を応援したいアドニスは彼をジムへと誘う…。
そしてあれよあれよという間にデイムがなりふり構わず現役ランカー達を血祭りに上げていき、彼の暴挙を止めるべく再びリングに上がることを決意するアドニスであった……という筋立てはもう予告篇を観るだけで分かるベタな展開ではありますが、それだけにあれこれと考えるまでも無く素直に胸が熱くなるところです。
実際の大筋はまさにその通りなのですが、予想外でありつつ好印象だったのが、デイムが絵に描いたような悪漢ではなく、年齢なりの焦燥と孤独そして共感力も持った等身大の中年男性であった、ということに尽きます。
「お前の父は落ちこぼれにもチャンスを与える男だった」という言葉が象徴的なように最終的にはアドニスの同情を誘いつつ、その裏をかくように現役選手達を故障に追い込んでまんまとアドニスをリングに引き摺り出しはするのですが、自宅に招待するアドニスからの歓待を快く受け、アマーラにも優しく挨拶し、ビアンカも誉めそやす姿は、少年期に自分が身を挺して守ったアドニスの今の人生がそれに見合うものであるかを真摯に見定めているようでもありました。
父アポロの愛人の子であったアドニスは幼少期に母に捨てられ孤児となりましたが、グループホームで孤独に生きる中をアポロの妻メアリーに拾われ実の子として育てられることに。同じく成長して同じグループホームを出て新進のボクサーとして活躍するデイムと楽しい日々を過ごすアドニスでしたが、とあるコンビニで偶然再会したホームの虐待看守にお礼参りとばかりに殴りかかるアドニスを救うべく、駆け付けた警官に対して銃を向けたデイムが収監されてしまった過去が有ったのです。
そしてデイムは一方で、長い刑務所生活の中で内に秘めてきた己の願望もビアンカに対して漏らします。「アドニスは復帰を望んだことは無いのか?」と。
そこからは前作の仇敵であるヴィクター・ドラゴ(演:フロリアン・ムンテアヌ)をパーティーの場で仲間に奇襲させたり、現チャンピオンのフェリックス(演:ホセ・ベナビデス・Jr)を反則スレスレの危険なファイトでリングに沈めたりと暴虐の限りを尽くしますが、逆を言うとそうまでしてアドニスとの対戦を渇望していたことが覗えます。
彼の拳は、王者の威厳の示威であったコンランや世の理不尽への怒りの体現であったドラゴのそれと違い、刑務所生活の中で浦島太郎状態となった自分に世間と何よりアドニスを振り向かせるための唯一の"言語"であったのでしょう。
それだけにTV番組を通して現役復帰と彼への挑戦を口にしたアドニスへの不敵ながら満足げな様子は相当のものでした。
「お前を救ったのは俺なのに、その俺を忘れて何不自由ない生活を送るお前はひどいじゃないか」と責めることはある意味容易ですが、それではデイムは本当の意味でアドニスを赦せないし、アドニスも真の意味で過去に向き合ったとはいえない。
それだけに本当の対話を成すために二人を結び付けたボクシングで向き合う展開には大いに首肯するところでした。
いざ復帰を決意したアドニスでしたが、かつてリング上で何度も脳震盪を経験し、指の骨にも長年の激闘の疲労が蓄積されており、前途多難どころではないところ。
「弱点を克服することができないなら…アドバンテージを最大限に強化するしかない!」というデュークのアドバイスを胸に徐々にファイターとして息を吹き返していく姿が、おじさん以上の世代にはこの上なく刺さります。
そもそもの『ロッキー』の一作目からして肉体的にはピークを過ぎた男の再起の物語だっただけに、このアドニスの再鍛錬のシークエンスでも先祖帰りを確かに感じました。
そして遂に直接対決!
ラスト30分をフルに使って迫力のバトルを展開してくれます。
事前に「長年の闘いで痛めている弱点を衝かれるだろう」というデュークからの忠告も有りましたが、実際は最終ラウンドに至るまでほぼクリーンなファイトでアドニスと対話するデイム。
このことからも彼がチャンプという地位に固執しているのではなく、あくまでアドニスと一対一の一人間として向き合うことを獄中の数十年記念し続ていたことが伝わって来てまたぞろ胸が熱くなります。
白熱の死闘の末、デイムのファイトスタイルを継承しつつもそれを超える技巧と気迫で遂に彼を破るアドニス。
その後の控室での二人の握手が象徴的ですが、アドニスのファイトはデイムを完膚無きまでに打ちのめしたのではなく、遠い昔の彼の献身とファイトがアドニスの人生に確かに生きていることを示して、結果としてデイムの心も救ったのでしょう。
逆恨みの物語かと思いきや、数十年を経て心も体も鈍くなった中年同士でも本気で向かい合えば互いを認め合える、というなんともハートフルなドラマでありました。
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は最新のハリウッド映画『クリード 過去の逆襲』について語りました。
本作そのものは一貫して面白く観られたのですが、一方で俄然気になるのが今回の仇敵役のジョナサン・メジャースの暴行逮捕の影響の行方でしょうか。
一風変わったスリラードラマシリーズ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』での主演で注目させてもらい、今作でのガチムチな肉体の造り込みでさらに感心させてもらいましたが、それはそれとして人倫に悖る行為には社会的な制裁を、という話も当然でもあり…。
本作がその影響も無く予定通り封切られたのが正しいのか否かは容易に判断を下せないところではありますが、少なくとも作品自体が力作であることは疑いようの無いところだと思いました。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。