【最新作云々55】標的は札束で全てを揉み消してきた淫奔の悪魔... 遅過ぎる救援の手に憤る被害者たちのトラウマを糾合した報道に己が叫びを託した映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
「スケートボード禁止」という立て看板が設置されている公園は頻繁に見かけますが、そもそも"スケボーOK"とされている空間を見掛けたことがない気がする、O次郎です。
※で、スケボーつって思い出すのがこのゲームとそのCM。CM内ではスノボやってるけど他にも公道でスケボーと自転車がレースしたりとカオスなゲームで、あの頃のアメゲーっぽい大味さが楽しくて中学生の頃に友人とゲラゲラ笑いながらプレイしたのもまたおかし。
今回は最新のハリウッド映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』です。
数年前に世界的な拡がりを見せた#MeToo運動の大きなきっかけとなった、ニューヨーク・タイムズ紙による映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏の性暴力報道を世に出した二人の女性記者の闘いの物語。
ハリウッド大作ではあるものの相手巨悪からの此方の命を狙った妨害工作のような派手なスペクタクル展開は極力排されており、無数の関係者たちの自己保身と無関心の連なりによって長年野放しにされてきた裸の王様の性暴力を根絶するため、累積した悪行を丹念に取材して詳らかにする地味で堅実な一本です。
記者たちがその被害者たちの声を掬い上げに行くことで彼女らは封印していた自らのトラウマに己を曝すことになるのですが、力無き普通の人々がなけなしの勇気を振り絞って巨大な不条理に立ち向かう姿は実話ベースゆえの凄みを感じさせます。
"雨垂れ石をも穿つ"展開がどストライクな方々、読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・"片翼の天使"!!
Ⅰ. 作品概要
まずもって本作の凄いのが、とにかく登場する人物名の悉くが実名というところです。
渦中のワインスタイン氏は勿論のこと、被害者の一人であるグウィネス=パルトロウは画面には登場しないまでも電話にてそのままの名で登場し、他の女優・映画スタッフ・ミラマックス社員等々の女性に到るまで、実際のお名前が出てきます。
映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ「たまむすび」で仰っていたように、昨年末のTVドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』が実在の事件をモチーフとしていたことで"攻めた"としてかなり持て囃されている日本の状況がかなり遅れて見えてなんともかんとも。
とどのつまりそれは作品の関係者のどこかに"覚悟"が足りずに自己保身や忖度に走っている向きがあるということであって、誰かが臆すればそれが伝染していってしまう、ということでしょう。
それを鑑みるに、製作サイドが一致団結して"覚悟"を示した作品、ということは言えそうです。
物語序盤、ゾーイ・カザン演じるジョディがトランプ氏の例の性スキャンダルを掴んで電話にて彼と直接対決のうえ報道するも国民は結局彼を大統領に選んでしまいます。作中では特には触れられていませんが、実際の彼女はそのことで心底アメリカの民意に失望して鬱を患ってしまったとか…。
ジョーイは夫と娘二人がおり、基本的には夫が家事をやって彼女が稼いでいるようですが、家庭を疎かにするようなことはせず、家族との他愛ないひと時も合間合間に挿入されます。
それがゆえに仕事に没入し過ぎて追い詰められずに済んでいるのでしょうが、一方で時には取材対象の被害者たちの厳しい拒絶や悲痛な叫びを受け止めつつ家に帰れば良き妻良き母でいるにはあまりにもメンタルの振れ幅が大きいだろうなというのは察されます。
もう一人の主人公の記者ミーガン(演:キャリー・マリガン)も未だ幼い子を抱えており、夫婦や親子の時間を大切にしながらも渦中の巨大な権力者の裏の顔を白日の下に曝すべく、一歩も引かず闘います。
彼女も家庭を抱えているため、被害者の一人一人が自分の証言によって自身の家族に過去の時間を知られることを恐れる気持ちに重々共感するのですが、それでも当人たちに辛い記憶を思い出させ、証言を依頼しなければならないのです。
そして件のワインスタイン氏の性加害ですが、なんとハッキリと被害者が確認された時期からしても実に30年近く延々続けられた所業。
被害者たちは時間が経つごとに誰にも守られず顧みられなかった絶望を深め、人生で抱えるものが増えるほどにより被害経験を恥じて記憶を己の奥底に封じ込めており、そのことが被害の全体像の把握を相当困難にしています。
それでも記者たちの説得が、これから起こるであろうあらゆる性被害を"仕方の無いこと"と子どもたちに諦めとともに認識させたくない親としての思いが、そしてキリスト教徒としての信義誠実さが、年代の違う彼女たちそれぞれの口を開かせます。
さらに彼女たちの意思をくじこうと相手側の仕掛けた妨害工作が結果として彼女らの証言の決意を固めさせたケースも有り、それが彼女らの内なる怒り・悲しみの深度を我々観客に突きつけます。
また、彼女たちが示した勇気のいかほどかでもその時々の事件の周囲の人々にあれば少なくともそれ以後の悲劇は防げていたはずであり、そうした人々の罪悪感による沈黙もまた記者たちの行く手を阻んでおり、一連の取材は彼らに自らの無関心・保身の罪を突きつけて翻意を促す行為でもあります。
そしてラストは遂にワインスタイン氏との直接対決。さしもの大物も己が数十年間にわたって撒き散らした暴威への神罰の如き被害者たちの糾合された魂の証言の声には色を失います。
作中に「問題の根底には加害者を守るシステムにある」とのセリフが有りますが、富裕層や権力者の優遇という国の施策の結果であることも一連の事件の背景として問われねばならない、ということでしょう。
"金で黙らせる"という行為自体おぞましいですが、それを国が制度として後押しする様相はその何倍にも増しておぞましいものです。
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は最新のハリウッド映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』について語りました。
巨大な性加害を白日の下に曝した同系統のノンフィクション作品として『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)が有りますが、あちらも"神"という権力をかさに着た幼児への虐待、しかも家庭環境からしてターゲットとし易い児童を選定するといった加害者側の狡猾さが強烈ながら、報道の存在理由を観客に提示してくれる秀作なので未見の方には併せての鑑賞をお勧めしたいです。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。