【最新作云々㊵】究極且つ至高のフルコース、その名は"復讐"... 料理に人生を捧げた人々が仇敵達を"料理"する断罪スリラーコメディー映画『ザ・メニュー』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
中学生の時の家庭科の調理実習で初めて一般的にはカレーにはサラダを付け合せるものだと知った、O次郎です。
今回は最新の洋画『ザ・メニュー』です。
今や引く手あまたでいろんな映画でお見掛けする若手人気女優アニャ・テイラー=ジョイや英国重鎮男優のレイフ・ファインズら豪華キャストが一堂に介した料理を題材とするハリウッド大作。
その味わいは意外にもジャンクフード的というか、気取った上流階級の人たちが彼らにコケにされた人々に不気味な逆襲をされるいわば『世にも奇妙な物語』ないし『ブラック・ミラー』の如きシニカルな見せ場と解り易い教訓に満ちており、登場する癖のあるキャラクターたちが七転八倒する様に驚き楽しむ、万人向けの小気味良いブラックコメディ―に仕上がっています。
既に深掘りは色々とされている作品かとは思いますが、こうした作品はその普遍的なテーマ性ゆえに"観た各々が既知のどういった作品や体験を思い出すか"というところも面白味かと思いますので、読んでいっていただければ之幸いでございます。ラストまでのネタバレ含んでおりますのでその点ご了承くださいませ。
それでは・・・・・・・・・・・"ぬぬぬ~~うぅぅん~山岡ァァ~~ッッ!!"
Ⅰ. 作品概要
(あらすじ抜粋)
マーゴとタイラーの若いカップルは、太平洋岸のとある孤島にやってきた。なかなか予約が取れないことで知られる有名シェフのスローヴィクが仕切る超高級レストラン“ホーソン”で、選び抜かれたセレブな客だけが味わうことを許された究極のフルコースを堪能するためだ。
だが、出てきた料理に感動するタイラーとは対照的に、マーゴはどことなく違和感を抱き始める。
冒頭、メインを張る若いカップルが件の孤島に向かうクルーザーに乗り込むところからの立ち上がり。
短編作品ではないので二人の馴れ初めや趣味嗜好、今回の"究極のフルコース"を堪能出来る権利をゲットしたことに対する意気込み等描くことで人間性を示してもよさそうなところですが、そこは触れられずにさっさと決戦会場へ向かいます。
それぞれキャラクターとして裏に含んだところがあるのは明らかですが、それは他の客にしても同じなのでつまりはキャラとしての描き方の濃淡はイーブン。
これがもし無名キャストばかりだと感情移入が難しいばかりにその後にどれだけショッキングな事態が起ころうとその妙味が半減し得しまうので、翻って著名・実力派キャスト揃いの布陣だからこその肩入れの無さとでも言えましょうか。
そして本作のホラーアイコンであるシェフ・スローヴィクを演じるレイフ=ファインズの底位の知れない不気味な怪演。
作中、自身の考案した壮大なフルコースで選び抜かれた客たちを恐怖のどん底に叩き込みますが、そのマグマのような意思に反して感情を表に出すことは殆ど有りません。
個人的な話になりますがその昔、たしか高校生の頃に受けた模試の現国の表論文の題材で「ガンジーは単に暴力を否定した訳ではなく、暴力に訴えたい場面で敢えて暴力を禁じたことによるやり場の無い憤懣を別の形での抗議行動のエネルギーに転じることを訴えた」というような言説を見た覚えがあります。
本作でのスローヴィクはそれに照らすとさながら、"己の悲憤とその背景にある人間らしさ全てを料理に込めた"というところでしょうか。
彼がモンスターであるならば、彼がモンスターに変貌するきっかけを作った人々は果たして・・・というところです。
Ⅱ. 彼らの犯した種々の大罪について
まるでアガサ=クリスティーの小説のように客たちはレストランのある孤島に一定の意図の下に選別されて集められました。
すなわち、スローヴィクと彼の下で働くシェフたちを純粋に料理に没頭できず誇りを持てなくした、料理に携わる楽しさ・矜持・敬意を奪ったセレブたち上流階級です。
例えば3人の年若いIT長者の男性3人は粉飾決算で暴利を貪り、その資金で以てしてスローヴィクの縁者に取り入り、そこからして彼の経営にも影響を及ぼしています。
自分たちの行為だけでも犯罪なのですが、そういう人たちはその片棒を担がせることで清廉な他人も黒く染めて保身を図ろうとします。
自分の思うように料理に没頭するには豊富な資金力が必要なのは自明でしょうが、"その手助けを"と甘言で近付いてきた相手が次第に経営の端々に口を出してきた結果、自らその意に添うように思考し行動するようになったとしたらこれほど屈辱的なことは無いでしょう。
まして自らが心血を注ぐ料理が第一義的にはそうした己の支配者のための産物と成り下がるとしたら心を殺されているも同然です。
また、ジョン・レグイザモ演じる落ち目のスターは"自分の仕事に誇りと情熱を失った著名人"として断罪されます。
きっかけはスローヴィクが以前に仕事で相当に追い込まれていた矢先のたった一日の休日、これで心のリフレッシュと息巻いて観た映画に主演していた彼のやっつけ仕事に心底失望した、とのこと。
表面的には八つ当たりに等しいですが、僥倖的に授かったヒット作の人気に肖って粗製濫造で儲けを貪り、落ち目となれば一度手に入れた知名度におんぶにだっこで自分を育んだジャンルを捨てて他に鞍替えするその姿。
まぐれ当たりが起こり得ず、常に創意工夫を強いられ、一度失敗すれば明日をも知れないうえに、それまで積み重ねてきた死ぬほどの労苦ゆえに他の道を選ぶことに身を裂かれる思いであろう一流の料理人たちにとってはそうした生き方をする人々をどうしても許せなかったということなのでしょう。
楽して儲けようとする人間の背後には必ず同種の人間が群がるものであり、彼の背後の有象無象を根こそぎ断ち切る意味でのターゲッティングでもあったのかもしれません。
そしてまた別のターゲットは著名な料理評論家。
もちろんその分野の人々が一様にそうではないでしょうが、今回の客となった彼女(演:ジャネット・マクティア)は美味しい料理を食べることとそれを世に紹介することではなく、彼女の論評に戦々恐々とする一流の料理人たちの狼狽と煩悶こそを最高の美味としているフシが有りました。
自らの威光を示すために周囲に高圧的に対する人は山ほど居ますが、彼女の場合はそれで名声と報酬を得ています。自分たちの不安と絶望を喰らって金にしているとすればそれこそ許せるものではないでしょう。
さらには主人公のパートナーであるタイラーは素人ながらいっぱしの食通。
"セレブ限定"の見出しにのっけから絆されて、出されるあらゆる料理に盲目的に感動しながら絶賛し、その一方でその一品一品の隠し味やら何やらを悉く喝破してしまう。
実は彼だけはシェフ一同と客たち全員が最終的に集団自死させられる運命にあることを知っていたのですが、それでも彼はツアーに参加したのです。
メニューの中にシェフの懊悩を示したもの(なんと、客の前で拳銃自殺!!)がありますが、それすらも彼は受け容れてしまいます。
権威に対して絶対的に盲目で、モノづくりを行う側の創作過程の生みの苦しみを理解し得ずに結果のみ把握してそれがゆえに逆説的に生みの苦しみの価値を無に帰してしまう…。
最終的に彼はその味覚の確かさから新しいシェフに選ばれるものの、スローヴィクから請われた調理で大失態を犯してしまい、権威を傷つけた廉で自死を余儀なくされます。
人非人に苦労の成果を評価され、それがゆえに自分たちの成果物と労苦まで矮小化されてしまう。上記の料理評論家にしてもそうですが、並々ならぬ人の意志の籠った創作物を評するには相対する側にも相応以上の覚悟があって然るべき、ということでしょうか。
ラストに明らかになっていくマーゴの出自。彼女は実はタイラーが雇ったコールガールであり、タイラーの本来のパートナーが事情で参加出来なくなったために彼が急遽雇った相手なのでした。
他のセレブ客たちは我が身可愛さにスローヴィクたちシェフに許しを請いますが、誰一人として彼らの傷付き狂ってしまったプライドを修復しようとは思いつけません。むしろ醜態を晒して余計に傷付けるばかりです。
彼女はスローヴィクに自ら食べたい料理をリクエストします。
それは彼女が幼少期に慣れ親しんだ安っぽいチーズバーガーでした。
自分の舌の記憶を頼りにそのディティールを語り、シェフたちがその再現のためにそれに応えます。
数口食べて心からの満足を伝えた後、残りをテイクアウトしたい旨を伝えて、彼女一人が島から脱出できることになります。
いわば彼女は"合格"したわけであり、彼女だけが孤島のシェフたちの"客"でした。高級レストランの料理はセレブたちのために供されるわけですが、そうした人たちは料理そのものを味わっておらず、権威化された料理ほど不毛なものは無い、ということでしょうか。
作中数少ない救いとしては、自分たちが犯した罪とそれによって集めた憎悪の末の運命を他の客たちが最終的に受け容れていた点でしょうか。
特に上述の料理評論家の女性は本当に自分一人が島から脱出してよい者か惑うマーゴに出ていくよう促す姿が短くも印象的でした。
最後にもう一波乱というか、例えばフェリーで脱出するマーゴの前に本来島に訪れるハズだったタイラーのパートナーの女性が現れるとかそういうもう一塩梅が欲しかった気もしますが、まぁこれはこれで。
フィナーレはシェフたちと残された客たちが"デザート"となって炎に包まれます。単なる復讐のみならず、世に遍くセレブたちと高級店の支配・被支配の構造に対する、文字通り命懸けの警告と正常化の要求だったのかもしれません。
Ⅲ. おしまいに
というわけで今回は最新のハリウッド映画『ザ・メニュー』について語りました。
他にも過去にマーゴと関係していた客の内の一人の老男性が不誠実の廉でシェフたちに薬指を…とか、マーゴが秘かに無線で読んだ警官も実は…みたいなホラーとしての緊張場面の数々も見ものではあるのですが、やはりレセブという存在に対する欺瞞と高級レストランの存在意義について疑義を投げかけるブラックユーモアとしての妙味が何よりです。
中盤に男性客たちに数十秒間猶予を与えて島内を逃げ回らせるシークエンスは見た目のインパクト重視というか、全体としてのメッセージに対するエッセンスとしては微妙だった気がしますが、まぁ娯楽映画としては露悪的な特権階級が酷い目に遭わされるという部分も不可欠、ということで。
何も見目麗しいカッコいい姿を見るだけがキャスト目当てということではなし、主要キャストの中にお好きな方がいればそれぞれがドイヒーな目に遭って四苦八苦する姿を是非とも劇場でご照覧あれ、ということで。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。