自分の曲を澤野弘之っぽくする7つの方法
劇判作家で作曲家の澤野さん、カッコいいですね。僕も大好きな作家の一人です。
澤野さんの音楽はドラマ、映画、アニメ、ゲーム、色んなコンテンツに使われていますが、音楽的な観点で見ると結構特徴的です。そして、作曲、アレンジ、DTMのアイディアの宝庫だとも思います。
ここでは澤野さんの楽曲で頻出するパターンやテクニックを7つ分析して、自分の制作に活かしてみようという話をしたいと思います。
何で突然そんなことを言い出したかというと、僕が元々澤野さん好きなこともあるんですが、Audiostockのちょっと前に出た記事にこんな話がありました。
おお、音効さんがぜひリファレンスにしてほしい、という作家の中に澤野さんが!つまり澤野さんの音楽エッセンスやクオリティが映像に欲しい、ということだな、と考えたので、今まで自分の感覚として感じていた澤野さんの音楽の「っぽさ」を文章にしておこうと思ったからです。
特徴1, サビに入る瞬間のインパクトとカタルシス
澤野さんの曲でまず、ものすごく特徴的で分かりやすいのが、
サビに入った瞬間の楽曲の盛り上げ方です。
いくつか聴いてもらった方が早いので、サンプル曲を紹介します。(サビに入る手前から再生されます)
この、サビに入った瞬間の「ドンッ!」っていうインパクトと、そこから生まれる気持ちよさが、澤野さんの楽曲ではインスト、歌物問わずとても多く見られる特徴の1つです。
これを生み出すためにいくつかのパターンが使われています。
1, アウフタクト
1つ目は「サビメロがアウフタクトしてる」です。
アウフタクトというのは、特定のセクションの最初の小節の手前からメロディーが始まってる状態のことを言います。
日本語では「弱起」と呼ばれ、例えばサビの頭の一番最初の表拍を「強起」と呼ぶんですが、この強起の前に、文章でいう前置詞のような先行するフレーズを入れるんですが、
↑これは2つ目の動画のTransquilityという曲のサビ頭0:48〜あたりからを僕が耳コピしたメロディーとコードなんですが、画像内の赤い線がサビの最初の頭拍です。その手前にA#→Cと音が2つ先行しているのが分かると思います。これがアウフタクトです。
澤野さんの曲ではこのアウフタクト始まりなサビメロがものすごく多いです。アウフタクトすることで、その後に強拍が入ることを人は無意識に期待するので、サビ頭によりインパクトが生まれるというわけです。
2, サビで音量が一気に上がる
2つ目は聴けば分かることですが、サビに入った瞬間、楽器のパート、特に低音域が増えて楽曲の音量感が上がります。
この音量感での盛り上げ方はEDM的だと個人的には思っていて、
EDMの基本的な楽曲展開ってイントロ→ヴァース(Aメロ的な)→ビルドアップ(少しずつ音を上げて盛り上げ)→ドロップ(サビ的な盛り上げがピークにくるところ)となっており、ドロップでピークを迎えるために楽曲構成されていることが多く、
澤野さんの楽曲はこの盛り上げをEDMではない楽曲に取り入れているように感じます。
3, サビ直前のブレイク
もう1つのパターンがブレイクです。
人は一般的に音量が下がってから一気に上がると、インパクトをより強く感じる傾向があります。そのために、サビ直前の1小節などで一時的に音量を下げて、その後のサビ入りをより際立たせたりします。
この「Layers」はイントロで1回音量的なピークが来て、Aメロで少し落としてさらに静かなBメロに繋がる構成で、このBメロの最後の小節の3拍、4拍でほとんど無音のブレイクにしてその直後のサビを際立たせています。
「BELONG」もBメロ最後の「Be ~lo~ng…」で無音に近いくらい下げてますね。その後のサビ頭でドッと音量アップ、Bmのコードに対してm7thのAで始まるメロディーが、一気に視界が開けるような壮大さを感じてすごく気持ちいいです。
澤野さんご自身も何かのインタビューで「どうしても我慢できなくてサビでドンっ!ってなるようにしちゃう」というようなことをおっしゃっていたので、お好きというか澤野さんの中でのカッコいいパターンがこういったサビのピークへの持っていき方、そこから生まれるカタルシスなんだと思います。
また、これに当てはまらないパターンもあって、
Aimerがボーカルの曲、RE: I AMは(↑の動画でいうと)2:20〜あたりのサビが入るポイントでは音量はむしろ下がってる(パートは減ってる)パターンで、その分イントロにインパクトを持たせるようになっています。
このようなサビでむしろ下げる場合だとメロディーが剥き出しになって言葉がより分かりやすくなるので、メッセージ性の強い曲だとエモさが増して効果的ですね。
アウフタクト、音量感、ブレイクと、3つとも手法としては昔からよくあるものですが、こういったサビの入り方にこだわりを感じるような手法をあらゆる楽曲で何度も繰り返されることで、リスナーから「ああ、澤野さんっぽい」という印象に結びついていると思います。
特徴2, コード進行が洋楽的
澤野さんの楽曲はJ -POP的というよりは海外の洋楽ポップスやロックっぽさを感じますが、その原因はコード進行が洋楽的だから、というのもある気がします。
1, コード進行がループする
ファンの人の間でも人気の高い、僕も大好きなAvidっていう曲ですが、コード進行はIV→V→VImがひたすらループする、という構成です。
この、一定のパターンを保って曲が進行し、セクションの移り変わりはパートの抜き差しや入れ替えによる音色・音量感の変化でつける組み立て方は完全に洋楽的です。
J-POPだとセクションごとに違うコード進行になっていてさらに転調させたりと、複雑な進行になりがちなんですが、洋楽のポップスやロックって驚くほどシンプルで、同じパターンをループして成立しているアレンジは非常に多いです。
それが顕著なのがEDMやHIP HOPで、そういった海外で主流なジャンルと同じ作られ方が、「海外っぽい」という印象を生んでいると思います。
2, コード進行自体が洋楽と同じ
また、コード進行のパターンそのものも洋楽でよく使われるパターンが多くて、
この超絶カッコいい名曲、The Reluctant Heroesのサビ(1:00〜)の進行は、VIm / IV / I / Vsus4 と、6415進行になってます。
よく言われる「王道進行」という日本人が好きなパターンは6451なんですが、海外、特に英語圏は6415の方が多くて、2010年代のEDMはマジでこればっかり出てきます。(DJがつなげやすいというのもあるんだろうけど)
といったように、澤野さんは洋楽のヒット曲、特に2000年代以降によく出てきたコード進行の楽曲がとても多いです。これにプラスして、コード進行があまり極端に展開せず、サウンドで変化をつけるスタイルが「洋楽的、海外的」というイメージにつながっていると考えました。
特徴3, 印象的なリフ
澤野さんの曲には、一定のパターンで繰り返されるフレーズがよく出てきます。
NHKスペシャルの、アスリートのパフォーマンスを科学で検証する番組「ミラクルボディ」のBGM曲。科学みある。(NHKでこんなゴリゴリな曲流れるの熱い)
ギルティクラウンの劇中歌「βios」のイントロ。
というように、主にシンセですが、こんな感じのサイバーな雰囲気を出すのに一役買っていて、こういうサウンドがある=澤野さんの曲はアグレッシブ、みたいな印象になっているような気がします。
この手のリフもので特にカッコいいのはハサウェイのテーマ曲で、
0:59あたりからこういうリフが鳴って、
ワンコードと思いきや、次第にVIm / I / IV / V という(多分)コードの動きがこのリフに加わってその後のピークに向けて進んでいく、という展開です。
こんなようなシーケンシャルなリフが、曲のメインフレーズだったりイントロだったりバッキングでサイドにいたりと、多くの曲で聴け、そのほとんどがキャッチーなものになっています。
特徴4, 和風メロ
あまり頻繁には出てこないですが、日本っぽさを感じるメロディーも澤野さんの曲にはたまに出てきます。
BLUE DRAGONなんかは顕著に和風です。
NHKスペシャルの「ミラクルボディ」の曲も。医龍のサントラの延長線上の雰囲気。
あとはメロディーが和風という感じではないけど、アレンジに日本っぽさというか、昔のボカロ曲にあった和っぽさを感じるのがこの曲。
純邦楽とかよりは、久石譲さんや小室さんのヨナ抜き音階のアプローチに影響を受けたそうです。
和風な感じを出すのは結構簡単で、ペンタトニックスケールでメロディー作ればそれっぽい雰囲気は出せます。ヨナ抜き=ペンタ、というわけじゃないんですが、雰囲気は結構似てるので和風メロディー作り入門にはペンタトニックを使うのがおすすめです。例が僕の曲で恐縮ですが、雪月花という曲はそうやって作りました。
特徴5, ハンス・ジマー系ハリウッド劇判サウンド
色んなインタビューでご本人がハリウッドの劇判、特にハンス・ジマーからの影響を公言していらっしゃるのでこれは有名な話ですが、進撃の巨人はモロにそういうサウンドです。
ハンス・ジマーは管弦楽的な複雑なオーケストレーションというよりは、オーケストラのサウンドを使ってリフ的なアプローチをする人、という感じで、澤野さんもそういったところに影響を受けていそうです。
シンセ+オケというのはジマーが流行らせた手法ですが、澤野さんはそこにロックバンドもガッツリ足すスタイルです。
こういう音、自分も出したいなあと思うんですけど、これ系をDTMでどうにかしようと思ったらまず、オケ音源を複数鳴らしても止まらないくらいのPCのスペックが必要です(笑
製品だと生のオケで録ってるだろうから、まんま同じ音を再現するのは難しいですが、澤野さんはSpitfireのオーケストラ音源を、その前はEastWestを使っていたそうなので、やっぱりプロ仕様な音源は必須ですね。
特徴6, バンドサウンドは2000年代ヘヴィロック
澤野さんはロックバンドにいた人とかではないはずなのに、バンドマンよりもカッコいいロック曲を書く人です。
これもインタビューでよくおっしゃっている話ですが、ニッケルバックがお好きだそうで、その影響がモロに出ているのが、このDOAです。
この曲のリフは多分7弦ギターで、ベースも5弦が鳴っていて、アンプもメサブギー系の音色、これは完全に2000年代のラウドロック、ヘヴィロックとかミクスチャーとか言われていた頃の音だなあと思います。
しかも、バンドサウンドだけでなく、キックにリズムマシン系のキックのサンプルをレイヤーしているらしく、全体でのレンジ感は上から下までだいぶ大きいです。こういうところも海外っぽい、という印象に繋がっていそうです。
医龍のBLOOD OF THE DRAGONも、かなりこの方向性のサウンドで、スネアとベースの悪そうな音がめちゃくちゃカッコいいです。
澤野さんがギターも弾ける方なのかは全くわからないですが、レコーディングの時に7弦ギター使ってください、というリクエストとか、チューニングも指定したりするそうなので、ギターのことをよく分かっている方なのは間違いないです。
特徴7, シンセと生楽器の融合
バンドサウンドにシンセが入る、というのはもはや現代だと当たり前ですが、澤野さんはこのシンセの入れ方がものすごく自然で上手く、DTMをやっている立場にとっては非常に参考になります。
これもゼノブレイドクロスのサントラの曲で、EDM的なシンセと歌に、00年代的ラップメタルがものすごく綺麗に合体している秀逸な曲です。
他にもThe Reluctant Heroesも、歌ものロックにシンセリードやグリッチノイズがいい感じで絡んでいて、あまり他では聴かないサウンドになっています。
ちなみに、澤野さんの使用シンセはOmnisphereみたいです。実際の画面を見ると、RMXとかもありますね。
曲の情報量すごい
とりあえず、澤野さんの曲は情報量がものすごく多いです。
ただ、それによってあの独特な雰囲気とカッコよさが出ているので、取り入れられるところは真似して自分のものにしたいですね。
最後に、この記事で紹介した要素をほぼ全部取り入れてオリジナル曲を作ってみました。もしよかったら聴いていってください。
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