12月23日 木
12月23日といえば、いまだに祝日だという感覚が抜けない。かつての天皇、つまり現在の上皇様のお誕生日なのであるが、天皇が代わって3回目の今年もまだ祝日であるような気がする。
さて、今日はエリック・ロメールの「四季の物語」を観る日である。エリック・ロメールというのは、フランスの映画監督で、この日記でたびたび書いてきた通り、僕が最も愛してやまない映画監督のうちの1人だ。自然の光を用いた撮影によって色折られるフランス的な風景や衣服の色彩は、時に鮮やかで心地よく、時に哀愁が漂う。彼の映画に出てくる人たちは、それぞれが自分の欲望に従順で、その瞬間にしたい行動を迷わずに実行する。後先をよく考えていない彼らの生き方は、今を生きることを最大限に楽しんでいるように思えて、たまにそのわがままな行動に対して理解が追いつかなかったり、腹立たしかったりするのだけれど、映画が終わった後はなぜか気持ちが良い。きっと何よりも自分のことを愛しているのだと思うと、僕も彼らみたいに生きたいと思ってしまう。
そして、彼の映画には明確な「偶然」がある。ずっと探していた首飾りが偶然押し入れに入れられた靴の中から見つかる、2組のカップルの服の色が偶然被る、とある女性を男性と偶然引き合わそうとする2つの計画が偶然同じ場で遭遇する、5年間探し求めていた相手と偶然バスで遭遇する、など、些細な偶然から個人的に見ると人生を変えるような大きな偶然までが等身大に描かれていて、これもロメール映画の醍醐味と言える。
エリック・ロメールの映画たちはサブスクなどで配信される機会が非常に少なく、最近Amazon Primeに数本が追加されたのだけれど、同時期のフランス映画作家と比較しても目立つわけでもなく、それでも映画ファンの中では根強い人気を誇る、いわば伝説のような映画監督だ。母親が厳格なカトリック信者だったので、メディアなどの露出を避け、母親が亡くなるまで映画作家であることを隠し通したという話もある。
「四季の物語」というのは、『春のソナタ』『冬物語』『夏物語』『恋の秋』(年代順)という4本の映画からなるシリーズのことで、それぞれの季節をテーマに、日常の中に起きる偶然を描く。このシリーズについては、DVDを購入しようとしても、4本セットの中古が10万円以上もするまさに伝説の映画たちで、京都のいくつかの大学の図書館で観られるらしいのだが、コロナの関係でなかなか他大学に足を踏み入れるのは難しい。そういう状況で観ることを諦めていた頃、ロメールの映画を観たいがために入会した「ザ・シネマ・メンバーズ」で、毎週1本ずつ配信されることが決定し、全てが出そろった今日、4本を観倒す計画を立てたという次第だ。なんとも贅沢な話で、僕はなんとしても今日1日は予定を入れることを拒み、楽しみに待っていたというわけである。
パソコンを開き、映画ノートも開き、おやつを持って『春のソナタ』『夏物語』『恋の秋』、そして最後はプロジェクターを使って『冬物語』を観る。全ての芸術に精通しているというロメールらしく、シューマンの音楽が使われ、プラトンやパスカルについて語られ、それでも頭でっかちになることなく、わがままな人たちに起こる偶然を描いてゆく。そして、僕がこれを観ているという事実も、映画を好きになる、エリック・ロメールを知る、シネマ・メンバーズで「四季物語」が配信されるといった多くの偶然を経て起こっている。