『逆光記』〜京都におじゃまする〜
「おじゃまします、京都。」というのは映画『逆光』京都上映における宣伝配給プロジェクトである。住んだことのない町に1人で滞在して、チラシとポスターを持ち、町の人に挨拶をしながら映画を宣伝してゆく。その京都の案内役として須藤蓮さんに付いて京都を周ることになった。
とある日の午前中、須藤蓮さんの宿泊先であるMagasinn Kyotoへ向かい、宣伝用のチラシとポスターを抱えて自転車に乗る。ポスターの入った細長いダンボールを抱え、堀川丸太町から烏丸、河原町へと西へ進む。
僕が働いている出版社ミシマ社の近くを通るので、ミシマ社を第1の目的地と決めてチャイムを押す。オフィスの中へ入ると、メンバーがいつものテンションで出迎えてくれる。僕が大好きな人たちを引き会わせ、そこから何かが生まれるかもしれないという期待が膨らみ、その期待が実現してほしいという願望へ変わる。毎週会っているメンバーに「こんにちは〜、『逆光』チームでお手伝いをさせていただいているオオナリです〜」なんて自己紹介をして小笑いを獲得し、みんなの写真をとってミシマ社を後にする。
河原町へ向かい、僕の行きつけの喫茶店、インパルスへ入る。注文をして、すかさず蓮さんが「映画監督をしている須藤です〜」とお店の人に声をかける。すると、3つくらい隣の席のお兄さんがどうも『逆光』を知ってくれていたみたいで、チラシをお渡しして、ついでに近くに座っていた学生2人組みにもチラシを渡す。「いる」からこそ、出会いがある。
僕の行きつけのレコード屋poco a pocoにはもうすでにチラシが置いてあって(おそらく出町座から送られていた)、お礼を言うとポスターを貼ってもらえることになる。その次に訪れた雑貨屋さんでは芸大生と遭遇し、彼女の展示と『逆光』の上映の開始が同じ日で、話が盛り上がったり。
そして午前中の目玉は100,000tアローントコ。レコード屋である。僕がしょっちゅう遊びにくるレコード屋なのだが、京都の文化圏のお店の方は寡黙な人が多く、人見知りの僕はなかなか100000tの加地さんに声がかけられない。そんな100,000tへ向かう途中、蓮さんはなかなか「100,000t」が覚えられず、「10,000t」と言っては僕が「その10倍ですよ」なんて訂正するという会話が数回あった。 蓮さんが『逆光』のことを話し、それに加地さんが食いつき、また蓮さんが話し、ついでに僕にも話が振られ、ミシマ社と誠光社で働いていることを告げると驚かれ(100,000tとミシマ社と誠光社は仲が良い)、かれこれ1時間くらい話していて、楽しかった。
龍鳳の中華で腹をこしらえ、昼からも本屋だとか古着屋だとか喫茶店だとかを周り、たばこを吸い、いろんな人に会い、話をする。SNS広告の効果なのか、京都の文化圏の若者の『逆光』認知は意外と広がっており、チラシを見せたら「気になってました」という人が多かった。多くの人に印象に残るというハードルはクリアしているが、そこから実際に観にいくという人はグッと少なくなる。出町座の支配人に「よく見る」と言われるくらい通っている僕でも、観たいと思いながら予定が合わず観られない作品が多くある。しかし、監督で主演の俳優が自ら会いに来て、それがエピソードとして広がり、「会う」という小さなイベントがあるだけでそれは「気になる」から「観たい」へと変化する。蓮さんはこのプロジェクトを「一番非効率な方法」と言うけれど、小さなイベントを積み重ねることこそが「非効率の中にある可能性」だったりするのかもしれない。
付き人のようなポジションで蓮さんの背中を見て1日歩き、僕も自分が面白いと思うことをして誰かに面白いと思われる人間になりたいと思った。
本日3月21日(月)、一乗寺恵文社にて、『逆光』のオープニングイベントがある。須藤蓮監督と脚本の渡辺あやさんにも会え、コーヒーも無料で飲めるし、毎日行きたいけれど少し遠くて気軽に足を伸ばせない恵文社を訪れるいい機会なので是非とも。
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