〈詩〉帰り道
わずかな重みを持った梅雨入り前の風がぼくに触れ
薄青い空の奥に鈍さが少しずつ増して暮れてゆく
帰り道をたどる一歩と次の一歩との間合いが次第に遠くなり
やがて次の一歩が出なくなる予感が兆す
次の一歩を踏み出せなくなる時を思うに連れ
歩みは軽く粘り気を帯び
やがて空気を我が身にまつわりつかせる
空気の濃密さが増すほどに意識はかえって希薄となり
体の動きは惰性となり
ぼくの行く手は曖昧になる
街灯と街灯の間にいくつもの薄闇がわだかまり
それらをいくつ通り抜けても
帰り道はすでに果てしない旅路だ
緩やかにまっすぐ登る道の前方にいつしか霧が立ち渡り
暮れてゆく夜空の色をした猫がふいに横切り
ちらりとぼくを見てから霧の中に入って消えた