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運転のはなし

わたしは普通自動車運転免許を持っている。

免許が取れるようになる18歳の頃、わたしは学生だったが、まわりのみんなが次々に免許を取っていたのを覚えている。
自動車学校の略し方は地域によって様々だと思うが、学校の先輩がその略した言葉を発しているのを聞いて、なんだそれ?と毎回思っていた。自分が免許を取れる学年に上がった頃、それが自動車学校だということを知った。車校とか、わかりやすいのだったら、もっと早くにわかったと思うのだが。

わたしは18歳の頃、免許を取らなかった。いくつか家庭の事情などの理由はあるが、一番は、どうしても取りたいとは思わなかった、というものである。

客観的に自分の置かれる環境を見ると、絶対に免許があった方が良かったと思う。周りにも言われたし、わたし自身思っていた。
田舎で、家からの公共交通はバスしかなく、そのバスも本数がかなり少ない。車がないとほぼ生活ができないと言ってもいい環境だった。
親の車で通学させてもらい、はたから見たらお嬢様と言われてもしょうがないくらい送り迎えをしてもらっていた(決して裕福ではなかった、免許を取るお金も車を買うお金もなかった)。
今でも昔の話をするとき、親に送り迎えしてもらっていたことを話すのが恥ずかしい。めちゃくちゃ感謝しているし、毎日嫌な顔一つせず送り迎えしてくれた親が本当にすごいと思うのだが、周りに話すとだいたい引かれる。ありがたいけれど、ありがたすぎて、ちょっと辛かった。

アルバイトをしていたから、そのお金で免許を取るという選択もあったが、免許を取るまではできても、車を買ってさらにガソリン代やらなんやらの維持費を捻出するというのは難しそうだったので、それもしなかった。
周りの、話すと驚く反応をする人たちはみんな、わたしと同じ状況だったら、頑張って自分のお金で免許を取って車を買うのだろうか。そうすれば親に送り迎えをさせずに済む。自分はもっと頑張るべきだったんだろうか。ああ、よくない、またべき思考。
そのときのわたしは、そこまでして取らなくていいかなと思ったからそうした。地元でずっと生きていく気も無かった。

その後、地元を離れてひとり暮らしをしていた大学4年生のときに免許を取った。
そのときは公共交通で生活ができる場所に住んでいたし、車を持つ気はほぼまったく無かったのだが、就職の前にとりあえず免許を持っておいたほうがいいかなということと、もし地元の親に何かあったとき、車で送り迎えできる人間がいたほうがいいと思ったからだ。

就活は、すぐに終わった。人手が欲しい会社は、すぐに学生を囲い込んだ。それを利用したわたしはそそくさと就活を終わらせた。そのあとすぐに、自動車学校に通った。舐めた学生だなぁとは思う。まぁ、一応ちゃんと考えて行動はしていたつもりです。今はその会社を休職しています。人生わからないね。

ということで、わたしは免許を取った。
わたしは今、ペーパードライバーである。

免許を取ったあと、運転をしたのは3回くらいだったかと思う。相変わらず車も持っていないし、必要のない場所に住んでいる。
親になにかあったときも、この調子では運転などできないかもしれない。

運転について最近思うことがある。それは、もしかして運転って、わたしがしていいことではないのでは?ということである。

わたしは、車がなければそんなに速く進めない。だから、目もそんな速さについていけないと思う。自分と周りの安全を確保できる速さを超えていると思うのだ。
そんなに速く動いたら、何かにぶつかる。周りの車にぶつかるかもしれない。目が追いつかず、歩いている人のことを気づかずに、轢いてしまうかもしれない。それが一番怖い。自分が車を運転したら、人を轢くのではないか。そう強く思っている。
自分にちょうどいい速度というのがあると思う。わたしにとってそれは徒歩だ。そんなに急いで動くのはわたしには向いていない。そう思うのだ。

こういう話を実際に人にすると、運転は慣れだよ〜とよく言われる。でもそうではない人もいると思う。軽い気持ちで運転してはいけない気がする。なんせ、人の命を簡単に無くせる行為なのだ。怖がる方が正常だと思うのだが。
その恐ろしい行為に慣れている人たちが多くいるという現実も、怖い。

そのくせたくさん車がいる道で、何も考えず歩いているわたしがいるのも、怖い。自分が運転するとなると恐ろしくてたまらないけれど、人が運転するのは全然怖くないんですよねえ。電車とか新幹線も、乗れちゃうんですよねえ。

歩行者目線の恐怖ではなくて、運転者目線の恐怖なので、外を歩くのが怖いとかではなくて、よかったなぁ。
ずいぶん都合の良い恐怖だけれど、これがわたしの感情なのだから仕方がない。車の恩恵は理解しているし実際めちゃくちゃ受けていたし、けれど怖いものは怖いし、やりたくないものはやりたくないのだ。

いつか絶対に運転しなければならないときが来たら、発言をコロッと変えて、運転に慣れたと言うのだろうか。人生はわからない。


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