NYのワインメーカーがコロナ禍で見つけたポジティブな想いとは?
先日、ニューヨーク州のワイン産地の一つ、ハドソン・バレーに行ってきました。
ワイン産地ハドソン・バレーとは?
ハドソン・バレーは、ニューヨークの中心、マンハッタンから車で約2時間程北上した、ハドソン川を挟んで東西に広がる地域で、小高い丘の上に、約50件のワイナリーが点在しています。アメリカ国内で最も古い歴史を持つワイン産地の一つと言われています。
日本へはほぼ輸入されていないと思いますが、ほとんどが家族経営中心の小規模ワイナリーです。
収穫の繁忙期真っ只中、ベンマールワイナリー(Benmarl Winery)という家族経営のワイナリーを訪れました。
入口にはマスク着用を求める看板が立っていました。
(皆の安全の為、マスク着用が必須です。そして、着用時は他者と6フィート(約1,8m)離れてくださいと書かれた看板)
ハドソン川を眺める美しいワイン畑で、ティスティングメニューの中から好きな種類を4つ選べるフライト($15 約1650円)を頼みました。
ちなみに、現在のニューヨークでは、お酒単体でサービスしてはいけないという州の決まりがある為、おつまみを頼みましたが、これが何ともアメリカン。チップスの上にBBQソースのお肉とチーズがたっぷりかかっており、かなりジャンクな味ですが、病みつきになる味で美味しかったです。
ワインを運んでくれたスタッフが、それぞれのワインの説明をしてくれました。このハドソン・バレー、ハイドブリッド種が伝統的に作られているため、「Baco Noir バコ・ノワール」や「Saybel セイベル」など聞きなれない品種があり、それらを中心にテイスティングしてみました。
スタッフの方に、あれこれ質問をしていたら、「今、ちょうどワインメーカーがいるから、もしかしたら話ができるかも」と紹介してくれることになりました。
ワインメーカーとの出会い
そして、テイスティング後に、ワインメーカーのMatthewさんとお会いすることが出来ました。
(ワインメーカーのマシューさん)
今日なら時間の都合がつくから、と普段は行っていないというワイナリーの案内をしてくれることに。たまたま訪れた日が収穫日と収穫日の間で、明日だったらできなかったよ。とのこと。なんとラッキーな出会いでしょう。ワクワクしながら、ワイナリーへの扉を開きました。
彼は、このベンマールワイナリーのオーナーの息子で、ベンマールワイナリーのワインメイキングと、自身のブランド、フィヨルドワイナリー(Fjord Vineyards)を妻のCaseyさんと手掛けています。
まず、ステンレスタンクからおもむろにプラスチックコップに入れてくれて、はいっと飲ませてくれたのは、なんと訪問した1週間前に収穫したばかりのブドウを圧搾したてのジュースでした。甘くて、美味しい!品種は、アルバリーニョとモスカートとのこと。
続いて、昨年瓶詰めしたアルバリーニョを「これが完成品だよ」と飲ませてくれました。こちらは2019年ヴィンテージのアルバリーニョです。
(試飲させてもらった2019年ヴィンテージのアルバリーニョ)
フルーティ且つフレッシュでとても美味しかったです。
ハドソン・バレーはもともとハイブリッド品種が伝統的に栽培されており、最近ではシャルドネ等の国際品種も盛んに栽培されている聞いていましたが、アルバリーニョとはとても意外でした。
すごく珍しいのでは?と聞いてみると、「そうだね、ハドソン・バレーでアルバリーニョを作っているのは僕だけ」とのこと。どうやら、彼自身のブランド、Fjord Vineyardsでアルバリーニョのワインを作っているそうで、ワイナリー名の「Fjord」とはフィヨルド、つまりスペインのアルバリーニョが作られる産地、「リアス・バイシャス」の「リアス」、入り江になった海岸を指す言葉です。
きっと、アルバリーニョには相当な思い入れがあるに違いありません。今回はこの話を深く聞くことが出来なかったので、また別の機会に彼の想いを聞いてみたいと思います。
そしてワイナリーの歴史や、設備などの説明をしてもらった最後に、こんな質問をしてみました。
コロナ禍で感じた変化
「コロナのこの状況下で、ワイナリービジネスにおいて、何か変化したことはありましたか?できれば良いことがあれば聞きたいのですが」と。
すると彼は、「すごくポジティブな方向に変わったよ!」と。ネガティブなコメントを予想していたので、彼の反応に驚きました。
続けて彼は、「以前は、ワイナリーに2つのテイスティングルームがあって、お客さんは予約なしでやってきて、好きににワインを買ったり、庭で飲んだり、時には1日に何百人もやってきて、何がなんだか分からなかったけど、コロナになってから、完全に事前予約をしてもらうように変えた。それによって、ゲストとしっかり向き合える機会ができたんだ」と。
「僕たちは、ワイナリーの事を知ってもらう為にも、まずフライト(4種類のテイスティング)を試してほしいと思っていて、それが今ならできるし、事前に予約をしてもらってるから、ゲストの人数など把握できるし、一人一人にワインの説明もちゃんとできるしね。」
彼は、ニューヨーク州が自粛期間に入った3月半ばより少し前の、3月初旬から、独自の判断でワイナリー訪問をストップしたそう。そして、2週間後に、新しいルールを設けて再開したそうです。「地元のお客さんのサポートもあって、ビジネスは続けてこれたし、むしろ一人一人にしっかり接客するために、スタッフを新たに雇用して増やしたんだよ」とのこと。失業者が増え続けている都市部とは違い、同じニューヨークの話とは思えません。
彼の言葉の端々から、自分たちのワインをしっかり伝えられるというワインメーカーならではの素直な喜びと誇りを感じるストーリーを聞くことができました。また、急な私たちの来訪にも快く応じてくれた彼の実直な人柄と、自分たちの考えで納得してビジネスを進める先に、サポーターやお客さんがついてくるんだなぁ、と学ぶべき姿がありました。
最後に、彼のブランド、Fjord Vineyardsのリースリングを、「はい、どうぞ!」とプレゼントしてくれました。
彼の想いが詰まったワイン、私も何かチャレンジできた時に空けさせてもらおうと、ほわっと温かく前向きな気持ちに包まれて、帰路につきました。