ワインリストにLGBTQ?ニューヨークの最新ワインバー 2020/2/26
先日、ニューヨークで話題のワインバー、Coast&Valleyに行ってきました。
ブルックリンの最北に位置するおしゃれエリア、グリーンポイントに昨年2019年春にオープンしたこのお店。多数のワイン雑誌やメディアに取り上げられており、TimeOut誌では「NYのベストワインバー」の一つとして紹介されていました。
ワインは全てカリフォルニア産
このお店が扱うワインは、全てカリフォルニア産ワイン!トレンドであるヨーロッパのナチュラルワインがワインリストの大半を占めるブルックリンの飲食店において、オールカリフォルニア産のラインナップはとても珍しいです。
カリフォルニアワインというと、一般的には樽香が強くフルボディなシャルドネや、渋みの強いカベルネ・ソーヴィニヨンがずらりと並ぶ、少しギラっとした男っぽいイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。そんなステレオタイプの考えとは裏腹に、このお店は品種、スタイル共に幅広いワインを揃え、カリフォルニアワインの今の姿を伝えています。店のインテリアも白壁にナチュラルなインテリアで、クリーン&開放的な印象。バーというよりカフェという雰囲気です。レンガ壁に照明が暗い、ニューヨークスタイルの店とは真逆のイメージです。入りやすい雰囲気もあってか、カウンターには女性が一人でワインを飲んでいました。
(ニューヨークでは珍しい、白壁&明るい店内。清々しくクリーンな印象)
常時100種以上がグラスで飲める
そして、なんといってもこのお店の特徴は、常時100種類以上のカリフォルニアワインがグラスで頼むことができることです。通常、バーやレストランは、バイザグラスといわれる、グラスでサーブされるワインを赤白3,4種類ずつ、多くても10種類ほど置くのが一般的です。ワインが残ってしまうロスのリスクもあるし、ボトルワインで売上を確保したい狙いもあるでしょう。しかし、このCoast&Valleyは、扱う全てのワインがグラスで楽しめるのです。
(メニューには、Fight、Glass、Bottleと量に応じて3段階の料金設定)
メニューには、Flight(2oz=約60ml)、Glass(5oz=約150ml)、Bottle(25oz=約750ml) と記載されており、グラスだけではなく、Flight(2oz=約60ml)という通常のグラスワインの半量くらいで飲むこともできます。
日本でも非常に人気があるカリフォルニアワイン、キスラーのノワゼット・シャルドネもグラス$30(約3,300円)で飲むことができます。もちろん安くはないのですが、ボトルではなかなか飲めない高価なワインをグラスで頼める!というのは、ワイン好きにとっては嬉しいです。
しかし、ワインって空けたら2、3日で飲まないと、酸化して味が変わってしまいますよね。高価なワインをグラスで提供するのは良いけれど、売れなかったらどうするのだろう・・・?前述したロスの問題があり、グラスワインの提供は必ずリスクが伴います。その問題を解決してくれるのが、コラヴァンという機械です。コラヴァンとは、極細の針をコルクに刺し、抜栓せずにワインを注ぐことができるアメリカが開発したワイン専用の機器。注いだ分だけガスが注入され、ワインは酸化することなくキープできるというものです。日本でも3年前の2017年に輸入が開始され、グランメゾンがペアリングコースの為に使用するなど話題になり、ここ1年程で使用するレストランが増えてきた印象があります。
Coast&Valleyのバーテンダーに聞いたところ、コラヴァンを使用すると半年間はワインを良い状態でキープできるとのこと。ニューヨークではここ4年くらいで少しずつポピュラーになってきた、との話でした。
(コラヴァンを使用してグラスにワインを注ぐバーテンダー)
コラヴァンを使用し、100種類以上の多様なカリフォルニアワインをグラスで提供しているこのお店。十分、個性があって良いお店だなぁ・・・と感心していたのですが、更に面白いなと思ったことが、お店のメニューのカテゴリの内容です。それぞれのワインがO、S、N、P、Mとカテゴリされており、メニューの右下にそれぞれの意味が書かれています。O=Organic、S=Sustainable Foccused、N=Natural この辺りはワインショップでもよく書かれているカテゴリなので理解できますが、P=POC LGBTQ+Women M=Mission Driven・・・??? どういう意味なのか、バーテンダーの方に聞いてみました。
(メニューに記載されているカテゴリの説明)
POCはPeople of colorの略で、有色人種を指す言葉。LGBTQは最近日本でも耳にする言葉ですが、セクシャルマイノリティを表す言葉。つまり、このワインカテゴリのP(POC LGBTQ+Women)の意味は、有色人種やセクシャルマイノリティ、または女性によって作られたワイン、もしくはそういう団体に何かしらの協賛やサポートを行っている生産者という事だそう。M(Mission Driven)は、地域の環境問題やサスティナブルな活動等を行っている、もしくはサポートしている生産者を意味するのだそうです。
ワインは人からできている
「誰が、どこで、どのようにして、どのような思いでワインを作っているのか?」
私自身がそうですが、ワインを勉強していると、このワインはどの土地で、土壌がどうで、気候がどうで、その年はどんな年で・・・・とブドウが栽培される環境にフォーカスをしがちです。それはもちろん大切な事だし、私が話を聞いてきた多くの生産者達が「ワイン作りで大事な事のほとんどは畑にある」と言っていた通り、ワイン作りにおいてブドウの栽培環境はとても重要なファクターだと思います。しかし同時に、ワインは人の手によって作られるもので、それぞれのストーリーを知りながらワインを味わうことも、また新しい発見を与えてくれるのだと感じさせられました。
まだお会いできていないのですが、このCoast&Valleyのオーナーは、アジア系アメリカ人。自身のマイノリティなバックグラウンドを含め、人や自然環境に先進的なカリフォルニアで長年過ごしてきた経験と、カリフォルニアワイン界に女性生産者や有色人種の生産者がほとんどいない背景から、 ワインの「人」という部分を取り上げたかったとワイン雑誌Wine&Spritsのインタビューにて答えていました。
ニューヨークにきて最も驚いた事で最も魅力的だと思うのが、人の多様性。今まで出会ったことの無いバックグラウンドを持つ人々が集まっている街で、英語以外の言語が飛び交っているユニークな街です。だからこそ、「人」にフォーカスするお店が生まれ、また人によって受け入れられるのも納得できるな、と、とてもニューヨークらしいお店だと思います。いつか、オーナーにインタビューができれば、また掲載したいと思います。
Coast&Valley
587 Manhattan Avenue, Brooklyn, NewYork