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【アルバム紹介】HAPPY END PARADE ~tribute to はっぴいえんど~ (2002)

 今回紹介するのは、2002年に出たはっぴいえんどのトリビュートアルバムです。

 参加ミュージシャンは小西康陽、曽我部恵一、スピッツ、くるり、キリンジ…といった、当時(約20年前)の若手を中心とする20組。はっぴいえんどといえば、70年代前半に活動した日本ロック史のパイオニア的存在ですから、その楽曲を30年後の若手ミュージシャンたちがカバーするというコンセプトはなかなか熱いものがあります。

 どの楽曲も、原曲へのリスペクトとそれぞれの個性が両立した非常によいカバーです。ピチカートファイブの小西康陽がカバーする1曲目『はいからはくち』は、オリジナルの軽快なノリをそのまま渋谷系のビートと洒落たサウンドに乗せているのが見事。スピッツの『12月の雨の日』は、曲の気だるさがオルタナサウンドにマッチしていて、草野マサムネの歌声も合わせて聴きごたえのある一曲になっています。『あやか市の動物園』は、原曲はアップテンポなロックナンバーですが、くるりのひねくれたファンキーなカバーが意外に心地よい。デイジーの『風来坊』、空気公団の『いらいら』なども原曲の美しさを現代風に再解釈した好カバーです。つじあやのの『暗闇坂むささび変化』、永積タカシの『春らんまん』では、フォークミュージックとしてのはっぴいえんどの温かみと優れた日本語詞の魅力が存分に発揮されています。(永積タカシ(現ハナレグミ)は当時まだSUPER BUTTER DOGで活動中だったと思いますが、SBDってファンクサウンドもさることながら歌声がめちゃくちゃいいんですよね)

 そんな中でも、個人的に一番好きなのはキリンジがカバーした『夏なんです』。この曲はもともとがアンサンブルとして複雑なコード感を持ち、独特の浮遊感が漂う曲ですが(こちらに詳しい)、それがキリンジのポップでありつつ緻密な曲作りにばっちりハマっています。時として原型をとどめないほど作り替えられてしまうカバー曲もある(それが名カバーとなることも当然ありますが)中で、オリジナルの楽曲の魅力とカバーアーティストの技量が極めて自然に調和しているのは、それぞれの時代で尖ったポップを表現している二組の間でだからこそあり得たことなのかもしれません。

 ここで紹介した曲以外にも、本当にいいカバーが集まっています。そう考えると、やはり根底にあるのは「もともとの楽曲の良さ」なのだと思います。優れた楽曲はどのようなアレンジにも耐えられる、ということがたまに言われますが(『丸の内サディスティック』などがいい例です)、はっぴいえんどの曲も、それ自体の作詞・作曲が時代やアレンジを問わない普遍的な魅力を持っているということなのでしょう。トリビュートアルバムっていまいちどう聴いたらいいのかわからなくて、色物盤としてスルーされてしまいがちですが、こういった「こんなアレンジでもいけるんだ」的な視点で見てみると、楽曲それ自体が持っていた強さがわかるかもしれません。

 最後に、ここには収録されていないけど好きなはっぴいえんどのカバーをいくつか載せておきます。

・風をあつめて / 矢野顕子

 矢野顕子の澄んだ歌声やピアノ、大胆なストリングスが特徴的なアレンジ。長いアウトロも相まって、原曲とはまた違った壮大な魅力が引き出されています。

・はいからはくち / やくしまるえつこ

 相対性理論でおなじみ、やくしまるえつこによる『はいからはくち』のカバー。イントロの謎のインストパートや、原曲と正反対のウィスパーボイス、淡々とした演奏などが組み合わさって、心地よいシュールさが生まれています。

・12月の雨の日 / ぼくのなつやすみ2

 シリーズ最高傑作との呼び声高いぼくなつ2のTRUEエンド(?)でははっぴいえんどの『12月の雨の日』が使われています。これは完全にプレイ後の思い出補正が入ってますが、背景で流れる波とか焚火の音も含めて、あまりにも完璧すぎるシーンです。

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