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【アルバム紹介】MARiAGE〜もう若くないから〜 / 松本伊代(1991)

 今回紹介するのは、松本伊代の1991年のアルバム『MARiAGE〜もう若くないから〜』です。新年一発目が30年前のアルバムですみません。

 松本伊代というと『センチメンタル・ジャーニー』(1981)の印象が強いかもしれませんが、86年からのいわゆる「恋愛三部作」を経て、そうした初期のアイドル像からは離れた1人の歌い手としての存在感を確立していきます。
 本作はそんな松本伊代の事実上最後の作品となっているアルバムで、本人が執筆した同タイトルの小説と一緒にリリースされたものです。ディスコグラフィの中では埋もれてしまっているものの、「まだ16」だったデビューから10年を経て、「歌手」としての成長を遂げた松本伊代が歌い上げる良質なシティ・ポップスが並んだ名盤です。
 spotifyの人気曲では上位5曲中2曲がこのアルバムの収録曲だったので、近年のリバイバルの文脈の中で再評価されているのかもしれません。何曲かみていきましょう。

1. きっと忘れるから

 軽快なシンセサウンドと電話のコール音から始まるイントロがいかにもな、王道シティポップです。フュージョン風のギターソロもかっこいいですね。このアルバムタイトルで1曲目が失恋ソングなのがなんとも…という感じですが、それでいて前向きな曲調と伸びやかな歌声が力強い楽曲です。

2. 恋は最初が肝心

 ゆったりとしたテンポや歌詞の内容もあわせて、多幸感のあふれるナンバーです。この曲はアルバムの中でも特にボーカルの丁寧な歌唱力が光る楽曲で、サビのなめらかなハイトーンやロングトーンは一聴の価値ありです。

3. Mariage ~幸せになって

 タイトルトラック(なのかな?)は、結婚する友人のために書かれた楽曲だそうです。キャッチーな歌メロに加え、バックのドラムも芯がありつつ軽快なサウンドで、全体的にとても心地よい楽曲だと思います。サックスソロがあるのもシティポップ風で良いですね。

4. La Primeur

 別れた男が別の女性といるところを見てしまった、という楽曲。昔の思い出を振り返って後悔したり、心の中で別れを告げたり、果ては元彼が別の女性と結婚してしまったり…という、とにかく切ない歌詞が素敵な楽曲です。アウトロの泣きのギターソロも素晴らしい。

6. 予期せぬ出来事

 このアルバム随一のキラーチューンです。打ち込みベースのグルーヴィーなトラックと、力強い歌声が特徴的な、いわゆる「シティ・ポップ」ど真ん中な一曲。サビのメロディーも最高にキャッチーです。シティポップの表象たる街のネオンライトのイメージがぴったり合いそうな楽曲で、ベタに夜のドライブで流してみたくなります。

7. 交通渋滞

 軽快なビートといい、合いの手の入れ方といい、サビの歌メロといい、あまりにもピチカートファイブすぎない?と思ったら作詞作曲が小西康陽でした。80年代にアイドル歌謡でデビューして、最後は渋谷系を歌ってるの、シーンの移り変わりの中で成長してきたことが感じられてめちゃくちゃ良いですね。
 個人的に、この曲は小西康陽worksの中でもかなり好きな曲なので、普通に野宮真貴ボーカルでも聴きたいなと思いました。

9. カーマイン・ローション

 こちらも作詞作曲小西康陽。アルバム最後の曲にしてまさかのボサノバです。「もう私はそんなに若くないし」「今年は日焼けを諦めているから」という都会的な諦念を感じる歌詞や、ゆったりとした曲調など、センチメンタルジャーニーを歌っていた人の曲とは思えないほどアダルトな楽曲になっています。そういう意味で、これが最後の曲になっているのはなんとなく象徴的ですね。

おわりに

 松本伊代のシティポップというと、1989年のアルバム『Private file』収録の『Private fileは開けたままで・・・』なども名曲ですね。都会的なサウンドと、絶妙に耳に残るキャッチーなメロディーが素敵です。

 で、最終的にこういう歌手になることを踏まえたうえで改めてセンチメンタルジャーニー聴くと、ちょっと感動しません?あとやっぱりルックスもめちゃくちゃかわいいし、そのへんも込みで当時のファンの気持ちになってしまう…

(ちなみにこの曲、作曲はご存知筒美京平ですが、編曲が鷺巣詩郎なんですね。エヴァの印象が強かったので意外でした。)

 やっぱりアイドル歌謡って文化的にも見過ごせないものがありますよね。昭和の歌謡曲から平成のJ-POPへの繋がりを歴史的な観点から捉える批評が必要、ということを言っていたのはみのミュージックさんだったと思いますが、まさにそういう視点でもっと昭和アイドル歌謡を聴いていかないとなと思います。


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