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なぜあなたの言葉は伝わらないのか?
あなたは味を誰かに伝えたいとき、どのように伝えるだろうか?
ここで伝えたいのは、相手が一度も食べたことのない食べ物の味である。
僕は以前別のブログで食レポ的な記事を書いたことがある。
だが書き進めていくと、味を伝える方法がほとんどないことに気がついた。
「うまい」「まずい」
パッと浮かぶこれらの言葉は食べた者の感覚でしかなく、味そのものを表現できていない。
「サクッと」「とろ~り」「柔らかい」「クリーミー」「ふんわり」
これらも食感や形状を表す言葉であり、味そのものを表現できていない。
「しょっぱい」「甘い」「酸っぱい」「苦い」「旨味がある」
五味と呼ばれるこれらの言葉は、一見すると味そのものを表現できているように思える。
だが本当にそうだろうか?
同じ食べ物であっても「苦い」と感じる人と感じない人がいる。
たとえば僕はコーヒーに強烈な苦味を感じるため一切飲めないが、ほとんどの大人は僕が感じるほどの苦味は感じていないだろう。
僕は炭酸を飲むと喉のなかを燃やされているような苦痛を覚えるが、ほとんどの人は炭酸を飲んで苦痛を覚えることはないだろう。
あるいは最新の装置を使って「苦味」や「甘味」などの五味を数値化できるとする。
五味すべてが同じ数値の食べ物を作れるとして、それは同じ味になるのだろうか?
ならないだろう。
仮に味を決定づけるすべての成分を数値化できるとして
「グルタミン酸が54mgで、イノシン酸が21gで……」
などと言ったところで、やはり我々にはその味は伝わらない。
味を伝えるもっとも効果的な方法
ではどうやったら味を伝えられるのか?
もっとも有効に思えるのは「〇〇に似てる」という表現だ。
たとえばベビースターラーメンを一度も食べたことのない人に、その味を伝えたいとする。
「しょっぱい」「サクッとしてる」「うまい」
これだけではポテチもとんがりコーンも唐揚げも想像できてしまう。
「ラーメンババアに似てる」
こう言えばどうだろう。
他の言葉よりもだいぶ近いものが想像できるのではないだろうか?
だがこの表現には問題が2つある。
1つはラーメンババアとベビースターの味は正確に同じではないこと。
もう1つはそもそもラーメンババアを知らない人にはまったく伝わらないことだ。
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言葉と味は同じだ
ここまでの話では、我々には味を正確に伝える手段がないことを説明した。
そして強いて言えば「〇〇に似てる」という表現がもっとも伝わるのではないかという結論に至った。
前置きが長くなったがようやく本題である。
味が他人に伝わらないのと同様に、言葉も他人に伝わらない。
1000記事以上の文章を書いて、またSNSなどの書き込みを観察して、そのことがよく分かった。
手を変え品を変え、さまざまな比喩を使って、これまで文章を書いてきた。
だが実際には僕の言葉はほとんど伝わっていないのだろう。
そう思うと虚しい。
ベビースターラーメンの味を正確に伝えられる言葉がないように、僕の思いを正確に伝えられる言葉もない。
ラーメンババアを食べたことのない人にベビースターラーメンの味を伝えるのが困難であるように、僕と同じような人生経験をしていない人間に僕の言葉を伝えるのは困難だ。
しかしそれでも僕の記事に「いいね」を押してくれる人は一定数存在するので、ごく一部の人たちには伝わっているのかもしれない。
少なくともラーメンババア程度には……