ワガノワメソッドとオペラ座メソッド
2014年のドキュメンタリー『ロパートキナ 孤高の白鳥』と2010年のドキュメンタリー『オーレリ・デュポン 輝ける一瞬に』を鑑賞。
それぞれマリインスキー・バレエ、パリ・オペラ座バレエに所属しており、両方世界3大バレエ団の1つ。両者最高峰の踊りだが、メソッド(流派のようなもの)が違うため同じ演目でも全く違う踊りをする。メソッドが異れば踊りのみどころも異なる。
オペラ座メソッドとワガノワメソッド
一言であらわすとすれば、
オペラ座メソッドは、古き良き控えめなバレエ
ワガノワメソッドは、全身を使った動的なバレエ
(個人的解釈)
オペラ座はやはりバレエが育ったフランスということもあり、古典的。
脚を高くあげて汚いのなら意味がない。低くてもいいから正しく美しく。上体は動かしすぎない。
気品があり重厚な印象を与える。
瀕死の白鳥で有名なアンナ・パブロワはこちら。
昔の有名なバレエダンサーはほぼオペラ座メソッド。ワガノワメソッドは新しいものだ。
対してワガノワメソッドは、上体を倒してもいいから脚を高くあげる。上半身に捻りを加えてより立体的にみせる。
ダイナミックで華やかな印象を与える。
しかし優れた身体条件を持つ人しかこれは踊りこなせない排他的な一面も。
ワガノワメソッドがハマるのはやはりロパートキナや、ザハロワ、永久メイさんなど手脚が長くラインが美しい人だ。
メソッドはどちらの方が良い、などではなくどちらも固有の良さがあり良い。
メソッドの比較 -ドルシネアのバリエーションから-
ドン・キホーテの2幕、ドルシネアのバリエーションで2つのメソッドを比較しよう。
まずはオペラ座メソッドから、オペラ座のエトワール、オーレリ・デュポン(左)とドロテ・ジルベール(右)
次にワガノワメソッドから、スヴェトラーナ・ザハロワ。ワガノワアカデミーの卒業生。
最初のアチチュードから、オペラ座は脚を高く上げすぎず、ワガノワは少し上体を倒していいから脚を高く上げる、という違いはあるが、顔の付け方と上半身の動かし方もかなり違う。
ワガノワは脚を上げるタイミングで顔も一緒に少し上げて華やかな印象があるが、オペラ座は顔は極力動かさない。であればこそ、その気高さが増している。
想像してもらいたいのだが、一般の市民は家族や友達に手を振るとき、大きく、前後左右に振るだろう。一方で皇族のような高貴な方は手を顔の付近でゆっくりと左右に動かすだけだ。控えめな仕草は気高さと結びつくのだろう。
また、ワガノワの方が身体の角度の付け方が大きく、オペラ座はこちらも控えめ。
例えば、最初のクッペからアラベスクに上がるところ。
ワガノワはかなり角度をしっかりつけているため、立体的でダイナミックな表現となる。先日YouTubeでヤマカイさんの「アラジン」公演の練習動画を拝見したのだが、角度をつけた方がブロードウェイ感が出ると指導している場面があり、確かにより華やかさが出ると感じた。
オペラ座は誇張しすぎない、伝統的で古典の重厚な感じが美しい。あまりにも大袈裟な表現はときには下品と取られることがあるが、オペラ座は踊りの随所にバレエの本場パリのプライドを感じさせる品の良さがある。
それにしても、手脚の長いザハロワは本当にワガノワメソッドがよく映える。美しい四肢を持つからこそハマる型だと思い知らされる。
余談だが、私はロパートキナが好きだ。
彼女の踊りは動的でありながらも、静の瞬間がある。時が止まったかのように感じるのだ。そこに生まれた緩急に、情緒豊かな音楽性が加わる。
美しい身体のラインから繰り出される繊細な動きに見惚れているといつのまにか時間を忘れている。
彼女には、他のダンサーにはない引き込まれるものがある。
それは彼女の思慮深さ、内面の深さ、芸術や表現に対する一貫した姿勢からくるものだろう。
ロパートキナ×ワガノワメソッドはハマり具合が非常に良い。
それぞれのメソッドの違いが踊りでわかるようになると、より鑑賞の仕方も深まり、面白くなるのではないか。
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