群馬帝国戦記 第二話
本山太一は驚いた。
同僚は皆群馬帝国のことを「無法地帯」と呼ぶ。それを冗談だと切り捨てた太一の眼前には、まさにその無法地帯が広がっていた。
本山太一は廃藩置県によって政府から派遣された群馬県知事である。太一は薩摩生まれの薩摩育ち。群馬とはなんらご縁のない人生を送ってきた。そんな太一がなぜ群馬県知事になったのだろうか。
ー1871年廃藩置県発令3日前ー
「なんで、なんで私が群馬なんですか!」
太一の怒声が響き渡る。エリート街道を進んできた太一にとって、群馬県知事の役職はまさに左遷だ。
「まあまあ。この機に田舎の空気を味わってみると良いさ。」
「そんな…。そもそも、あの要塞群馬ですよ?どうやって行くんですか⁉︎」
「それはまあ、特殊なルートでね。全く安全性はないんだが、エリートの君ならいけるさ!」
相変わらず上司は岡目の面のような、気味悪い笑顔をしている。
これ以上何を言っても意味がない。何よりこれ以上上司の顔を見たくない。そんな思いから、やむなく太一は部屋を後にする。群馬知事としての自分を一旦は受け入れると共に、いつか上司を見返してやろうと誓う太一であった。
そして現在、廃藩置県の日ー 太一の群馬県知事デビューにして、今日は太一が初めて群馬に行く日でもあった。
「よりにもよって群馬とはお気の毒ですな」
そう太一に話すのは、太一のライバルでもあるとともに、廃藩置県を機に栃木県知事に就任した田福一富(たふくかずとみ)である。
「栃木もそんなにかわらないだろ」と心のなかで思う太一である。
「まあお互い頑張ろうじゃないか」
一富はまるで見下すかのような口調で太一にこう言うと、この場をあとにした。
太一は決意する。群馬を必ず日本一の場所にしてやると。
次回!ついに太一は群馬を見る!
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