群馬帝国戦記第四話
「とりあえず、ここの長に会うとするか。」
太一が部下の曽根中に言った。
山賊のように群馬県に侵入した太一たち。しかし県知事に就任するのだから、このまま息を潜めているわけにもいかない。どうにか県民たちとの接触を図りたいところだ。
太一たちは現在、榛名山頂付近の小屋にいた。ここが彼らの拠点である。
いつ襲われるかも分からない彼らが、派遣先の群馬県で負傷したとなれば、政府の責任も免れない。小屋の手配は、そんな政府から太一たちへの唯一の施し、もしくは自分たちの保身だった。
噂によると群馬県の長は、紀元前600年頃から続くある一族の家系からなっているらしい。もっとも謎多き地だから、真実かどうかは定かではないが。
その長が住んでいるとされるのは前橋市。榛名山から歩いて行くとなると、少なくとも半日はかかってしまう。群馬県派遣初日からの大移動だ。
出発と同時に険しい道が続く。長い道を覚悟しつつ、気を紛らわせるための会話が始まった。
「なんだか険しい顔してますね?長に会うだけじゃないですか。」
気の抜けたように曽根中が尋ねる。
「バカ言え。誰も踏み入ったことのない土地だ。県民全員が武装しているかもしれないだろ?」
「そんな、心配しすぎですよ。武装とはいえ、外交もしたことがない土地です。火縄銃があるかどうか。」
「そういう楽観的なところが、お前の…!」
「シー…敵にバレますよ?」
小声で話していたつもりが、いつのまにかヒートアップして大声になっていたことに気づく。出発から早一時間。疲労が影響しているのに間違いはないだろう。
周囲に気をつけつつ、更に歩き続ける。
四時間も経つと、ところどころに小屋が見え始めた。どうやら小さな集落らしい。
「ここが地図で言うと榛東という村ですね。前橋まではあと少しです。」
息を切らしつつ、曽根中が口を開く。
「そうか。だがそれにしても人気がないな。」
「まあむしろ誰にも出会わずに行けるのがいいんじゃないですかね。そのほうが安全でしょうし。」
「それもそうだな。」
たまにはマトモなことを言うじゃないか。太一がそう思ったのも束の間、太一たちの目の前に鋭利な黒い槍が現れた。
「貴様ら、一体誰だべさ?」
ただでさえ半日かかる前橋への道は、どうやらもっと長くなりそうだ。
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