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おばちゃんのバレッタ
私の足を止めたのは、寄木細工のバレッタだった。
岐阜・飛騨高山の朝市で出逢い、一目惚れした私は、色味に悩んでにらめっこ。
すると私を見守っていたお店のおばちゃんは、穏やかな笑みを浮かべ、もう一つのバレッタを見せてくれた。
それは、おばちゃんの私物。
売り物と同じ形をしていて、より深い色味でツヤのある、綺麗なバレッタだった。
「長く使うと、こんな色になるのよ」
きっと長く、大切に愛用しているものなのだろう。
年季が入り、色ツヤが増したそれは、どの売り物より美しかった。
そのバレッタからは、長い間おばちゃんが、
自分の仕事を愛し、自分が生み出したものを愛し、
まっすぐ向き合ってきた生一本な姿勢が見えるような気がした。
おばちゃんのバレッタに憧れて、使い始めて3年。
私のバレッタはまだ、買った頃とほとんど変わらない。
あそこまでの道のりは、まだ始まったばかりだ。
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