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Schatz(シャッツ)をご存知か?

なんだか少し前のインド映画のように踊りだしそうなタイトルになってしまったけれど……みなさん、「Schatz(シャッツ)」というドイツ語をご存知だろうか。

これはドイツ語で「宝物」という意味の単語なのだけれど、少し変わった使われ方をする時がある。それは、配偶者や恋人を呼ぶ掛け声。
つまり「ダーリン」「ハニー」と同じように、この「Schatzシャッツ」を使うのだ。

この言葉を知ったきっかけは、Duolingoだったのだけれど、一度言葉の音を覚えると、あるところでよく耳にするようになった。
わたしのドイツ語のリスニング力強化に一役買っていると言っても過言ではない、SpotifyのCMだ。

最近だと、恋人らしき男女が食べるピザの種類で揉めるCMで聞いた。宝物と呼ばれる女性と男性は、サラミピザかマルゲリータピザ、どちらにするかで言い合うのだ。
「宝物」と呼びながら、そこは譲らず揉めるんだなと思ったのでよく覚えている。


とはいえこの「Schatz」、実際どれくらい使われているのだろうと気になっていた。
CMの場合、個人名を出すよりも関係性がわかる呼び方をしたほうが、二人の関係とシチュエーションがわかりやすい。だからCMも含め創作物のなかでは使われるけど、実生活ではあまり使われていない言葉じゃないかな?と思ったのだ。

日本でも、同じくラジオなどの音声CMで「あなた」と夫を呼ぶ妻が結構出てくるけど、自分の夫を「あなた」と呼ぶ人は今どれだけいるのか気になっていたから、余計にそう感じるのかもしれない。


世界にはダーリン、ハニー、赤ちゃん、キャベツ、クマなど、色々な愛称で想い人を呼ぶ国があるようだけれど、ドイツはどうなんだろう……?
本当に宝物と呼ぶのだろうか?



疑問に思ってからしばらく経った、あるホテルの朝食バイキングでのこと。
わたしの隣で女性が食べ物を取っていたら、女性の背後に男性が近づいてきて声を掛けた。
「Schatz」
女性は迷いなく振り向いて、その男性とドイツ語で話し始めていた。
それを聞いていたわたしは思った。


本当に言ってるーーー!!!!
しかも迷わず反応できるのすごーーー!!!


自分を宝物と呼んでくれるくらいなのだから、きっと声などでわかるのだと思う。とはいえ、「宝物」と呼ばれてノールックで「私が呼ばれている」と思えるのすごい、と思ってしまった。
ほかの人を呼ぶための「宝物シャッツ」に自分が呼ばれたと思い返事をした場合、もしくは、沢山の「宝物シャッツ」がその場にたまたま居合わせた場合……顔が真っ赤になるような悲劇が起きそうな予感がする。
大変野暮な想像をしているのは、わかっているのだけれど。


でも考えてみればこういうシチュエーションは、パートナー間のやり取りだけじゃない。スーパーで子どもが「ママ!」とか呼びかけたとき、大体その子のお母さんがちゃんと返事をする。それを失敗している親子はあまり見かけたことがない。

だからそれが「宝物」に変わろうと、案外問題なく自分が呼ばれていると判断できるのかもしれない。きっとわたしが、「宝物」という呼び方に過剰反応しているだけなのだ。


昔、海外では恋人やパートナーを「ハニー」と呼ぶ文化が本当にあると知った時、とんでもなくソワソワしたのを思い出す。
はちみつ……甘い……ひええ、と思った。
気になる人を名字じゃなく名前を呼ぶだけでも勇気が必要だった当時のわたしには、呼ぶたびに愛の告白をしているように見えて、なんという手練れ……と勝手に気後れしていたのを覚えている。


でも実際に使われているのを聞くと……
言う方も勇気がいるけど、言われている方の勇気もいると思った。
自分が宝物だという自負がなければいけないのだから。
日本の「あなた」よりもよっぽどハードルが高いような気がしてしまう。

そういうところを気にして、二人でいるときだけ「宝物」と呼ぶ、というようなこともあるのだろうか?
シャッツを日々使われる方、ぜひ教えてほしい。


その後も、「Schatz」を使っている人たちとときどき遭遇している。
20代くらいから老夫婦までお歳も様々な方が使っているようだ。
まだまだドイツ語初級という感じなので、わたしのリスニングミスで「シャッツ」に近いお名前の方という可能性もあるのだけれど……間違っていないことを祈っている。


文化はそれぞれの国や地域で、時代の流れを経て出来上がっていく。
日本の「あなた」や、あえて言わなくてもわかり合えるという、奥ゆかしい関係も素敵だ。
一方で大切に思う人をストレートに「宝物」と呼べること。そしてそれを受け入れられる信頼関係。こちらはこちらで素敵だなあと思う。

とはいえ、もしわたしが町中で夫に「シャッツ」と呼ばれてもきっと聞こえないふりをしてしまうだろうし、呼ぶ側になったとしても声掛けを諦めて肩を叩きにいってしまうと思う。どう考えても照れくさい。
素敵だけれど、わたしが馴染める日は一生来ないような気しかしないのだった。

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ニョコロ*
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